Quantcast
Channel: ネイビーブルーに恋をして
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2815

令和5年映画扉絵ギャラリー

$
0
0

年が明けてからあまりに衝撃的な事件が相次ぎ、
ブログのアップが途絶えがちになっていますが、とりあえず
年末年始恒例の映画ログ回顧をイラスト共に振り返ります。

■ 「8/15」
凡庸という名の厭世的ドイツ国防軍映画



前半
後半
2023年に、というより過去当ブログ映画部が取り扱った中で
最も「勝手の違う」戦争映画でした。
まず、ドイツの戦争映画につきもののナチスが出てこない。

ナチス批判が焦点にないというのは、撃墜王マルセイユの映画以来ですし、
そもそも外国人には「ドイツの普通の戦争映画」を見る機会がありません。

(その意味で、最近Netflixで初めてドイツ人スタッフによって
『西部戦線異常なし』が制作されたのには喝采を送りましたね)

当作品は国防軍の砲兵将校が戦後に描いた小説がベースで、
ドイツ国内では小説を含め、テレビシリーズなども有名です。
繰り返しますが、「8/15」は現在のドイツでも使われる
「凡庸」「月並み」を意味する言い回しで、その語源は
陳腐化したドイツ軍の標準装備、MG08重機関銃から取られています。
MG08は第一次世界大戦のときの最新型なので、映画の舞台である
第二次世界大戦時にはすでに30年前の機材となっていました。

この映画はロシア侵攻後、冬将軍によって短期決戦の機会を逃した
ドイツ国防軍の補給部隊の内部をこれでもかと内部告発しており、
そのどうしようもない戦況において、「つまらん規則」
「才能のない上官」「もう終わってる上からの命令」に縛られて疲弊し、
翻弄させられ押しつぶされていく現場をこれでもかと描いています。

現地の娘と恋に落ちるもスパイで裏切られる若い士官、
死ぬほど欲しい鉄十字を持っている部下が憎くて任務の邪魔をする上官、
また、同じく、嫉妬からあえて無理な命令で優秀な者を死に追いやる上官、
こんな状況でも物資の横流しで私腹を肥やすことしか考えない兵曹。
現場の兵たちは明日をも知れぬ命と薄々知りながらも
その運命をあえてみないふりをして今日の享楽に興じる・・・。
のちにあらゆる国の戦争映画に見られる軍隊の姿がここにあります。

砲兵隊隊長であるフォン・プレニエス中佐が、
スパイのロシア女性に裏切られたヴェーデルマン中尉に向かっていう、

「わたしにはこの欺瞞に満ちた戦争で祖国を危機に陥れた責任がある」

という言葉が、誠実なドイツ軍の「中の人」の総意を表しています。


■ 「僕は戦争花嫁」I was a Male War Bride
ケーリー・グラント一世一代のキワモノ作品



前半
後半

稀代の二枚目俳優、ケーリー・グラントがフランス軍人に扮し、
アメリカ陸軍の女性軍人と恋に落ちて、普通に結婚し、
彼女の「戦争花嫁」として渡米しようとしたら、
前例のないことなので上を下への大騒ぎとなり、
ついには馬の尻尾でズラを作って女装し海軍の強行突破しようとする、
という、文字通りキワモノ的怪作。
軍同士の連携作戦で共にミッションを行うも、
反発しあって相性最悪というところから始まって、
主に男性の方が酷い目に合っているうち、突然愛が芽生えます。

まあ、これは突然好きになったというより、それまでの反発も
好きの裏返し的な相手への強い関心だったってことなんでしょうけど。

そこまでならまあよくある展開なのですが、この映画では
実際にフランス人がアメリカ人女性と結婚したとき、
アメリカ軍にその前例がないがために起こってくるトラブルについて、
決して荒唐無稽に思えない事例?を挙げて解説しています。

煩雑なペーパーワーク、ドイツで結婚するアメリカ人とフランス人、
ということで3回別の教会で式を上げなければならない。
法律は「花嫁法」しかないので男性を「花嫁」にしなければならない。
アメリカ軍の宿泊施設には「花嫁」しか泊まることが許されない。
かといって米陸軍士官宿泊所にはフランス人は泊まれない・・・。

ここまですったもんだしてようやく海軍の輸送船に乗ろうとしたら、
「女性と軍人しか乗せられない」
と門前払い・・・。

そこで最後の手段としてケーリー・グラントは女装を余儀なくされるという、
まあ、こうして書いてみれば非常に明快でわかりやすく、
その割に先が読めない斬新さが観ていて面白い快作でもあります。

身長190センチのケーリー・グラントが女装、というだけでも
当時から否定的な意見が多かったという当作品ですが、
わたしはそのテンポの良さ、古典的で上品なユーモアを高く評価します。

■ 「間諜未だ死せず」
大事(防諜啓蒙)の前には小事(外人俳優がいない)も辞せず
前編


後編

戦時中に憲兵隊の映画指導、防諜協会後援で制作された、
文字通りのバリバリ国策&防諜啓蒙映画。

日中戦争の最中、スパイとして日本に潜入した中国軍人王少尉が、
日本社会で情報撹乱や人心へのプロバガンダを行いながらも、
心の清らかな日本女性に密かに恋心を抱いていきます。

アメリカ人スパイ組織に雇われたフィリピン人スパイ、ラウルが
官警に追い詰められて自決したとき、アメリカスパイ組織は
ラウル密告の疑いを王にかけ、彼を拷問の末抹殺してしまいます。

アメリカスパイ組織を追っていた憲兵隊の武田少佐(佐分利信)が
ノーランを逮捕した日は、昭和16年12月8日。
武田はノーランに日米開戦を誇らしげに告げますが、ノーランは
「ジャック・ノーラン死すとも間諜は未だ死せずですよ」

と嘯き、視聴者に戦時の教訓を垂れるというエンディング。

本作の見どころ?は、中国人役はもちろん、日本在住アメリカ人スパイ、
米陸軍中佐、フィリピン人スパイ、その他アメリカ人たちを
全て日本人俳優がメイクをして演じているというその異様さです。

アメリカ映画でドイツ人同士が英語で会話し、観客は
それを「ドイツ語の会話」であるという前提で理解するように、
この映画では、どう見ても化粧した日本のおじさんである彼らを、
アメリカ人だと解釈しながら観ることを余儀なくされます。
このやっつけ感と、作品最後で高らかに日米開戦を称揚してしまったことから、
本作は映画史と出演者にとって完全に「黒歴史」となりました。
■ 「陸軍の美人トリオ」Keep Your Powder Dry
オシャレなWACリクルート宣伝映画


左上:
リー「『グッドラックソルジャー』ですって?
お父様はとっくにご存知だったのね」
父「もちろんだ。『常に備えを怠るな』だよ」

左下:
隊長「中隊の隊員のうちおよそ半数が、あなたの資質について
士官に相応しくないと考えているのです」
リー「な・・・なんとおっしゃいましたか隊長?」

上中:
ヴァレリー「WAC入隊ですって?
それでなきゃ遺産が受け取れないなら、やるわよ。
もちろんそんなの嫌だけど、遺産のためならね」

下中:
ヴァレリー「なぜって、WACであることはわたしにとって
何よりも大切なことだからよ」
「それは私にとってたいせつな・・プライドよりも大切なものなの」

上右:
夫「ダーリン、心配しないで。僕は大丈夫だから」
アン「ああジョニー、どうか無事でいて」

下右:アン「今はわたし・・自分のことでいっぱいなの」
「どうか一人にしておいて」


左上:「こうよ!」ピシャっ!

上中:リー「そのキレやすい性格がそのうちあなたを色んな問題に巻き込むわ」

右上:パシッ!

右下:
隊長「ダリソン士官候補生、
あなたに辛いニュースを伝えなくてはなりません」
アン「夫ですか・・・か・・彼が怪我を?」
隊長「・・・・」
アン「死んだのですか?」
隊長「3週間前だそうです」

左下:
リー「わたしたち卒業よ!」
アン「二人とも嬉しいわ!」
ヴァレリー「やったわね!」
挿絵を描いた時にはアメコミ風にやってみようと、
あえてセリフを英語で細々と書き込んで説明もしなかったので、
小さいスマホなどで見た方は読めなかったのではないかと思います。

ということで、今回は挿絵のセリフを翻訳しておきました。
これをみれば大体映画の内容もわかってしまうという・・。

この映画のイけているところは、なんといってもタイトルです。
ミリタリー用語から発生した、
Keep Your Powder Dry

という言葉の「パウダー」はもともとガンパウダー、火薬のことですが、
これが湿気ていたらいざというとき先制攻撃できないことから、
いつも火薬を乾燥させておくように、という訓戒が生まれ、
これから転じて、「常に備えよ」を表す慣用句になりました。

女性軍人を主人公とした本作のタイトルにこれを使うと、
「パウダー」は「火薬」「白粉」のダブルミーニングとなります。

大富豪の超美人、お遊びでモデルをやっていたヴァレリーが、
遺産を受け取る条件としてWAC入隊したのを、
情報将校の娘であるリーは面白く思わず、二人は最初から対立します。

間を取り持つおとなしいアンは、戦地に行った夫を
自分なりに支援しようと考えて入隊してきたという女性。

このように、三人三様、全くタイプの違う三美人が主人公です。

三人の関係性とキャラクター描写がエンタメとして大変よくできています。
今のハリウッドでは、もうこんなシンプルな面白みを味合わせてくれる
軍隊映画を作ることは(ポリコレで)不可能になってしまったことを考えると、
この映画にはもう無形文化遺産の指定をして欲しいくらいです。


■ 「戦場のなでしこ」
戦場に散った女性たちの内部告発


「陸軍の美人トリオ」(常に備えあり)に続き、
日本の女性が登場する戦争関連映画を探してみたらば、
もうとんでもないダークマターでした。

戦後大陸で起こった女性軍属の悲劇という史実を、当事者というか、犠牲者を手配していた看護婦長の手記を元に映画化したもので、
従軍看護婦がロシア兵に組織的に慰安婦にさせられていたという事件が、
この映画によって広く世に知られるようになりました。

映画では当事者たちの尊厳に配慮してか、リアリズムはある程度配して、
美しく悲しく看護婦たちが自決したように描かれていますが、
実際の彼女たちの最後はとてもそんなものではありませんでした。

わたしが最も違和感を抱いたのは、肝心の婦長の行動です。

ソ連軍から逃げてきた一人の看護婦が、派遣看護婦が慰安婦にされたことを
必死で訴え、その後絶命までしているというのに、その上で
くじ引きでさらに3名をまだ派遣しようとしていたという異様さ。

婦長という立場で上からの命令を中止できないのはわかりますが、
看護婦たちが集団で自決したのは、派遣がまだ続くこと、
守ってもらえないということに、つまり絶望したからでしょう。
集団自決した者だけではありません。

部隊の帰国が決まったとき、わざわざ駅まで同僚を見送りに来ておきながら、
婦長の目の前で自決してしまった3名の看護婦がいました。

この3名は、最初にソ連軍に送られたメンバーで、隊に戻ることを拒否し、
それどころか、ダンスホールで働いて、もう手遅れとなった性病を
ソ連兵にうつすことで復讐を続けていたという人たちでした。

これが、何を意味するとお思いになりますか。

彼女らが、彼女らを地獄に送り込んだ張本人と祖国を
恨んでいなかったわけがないのです。


映画ギャラリー後半へ続く




Viewing all articles
Browse latest Browse all 2815

Trending Articles



<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>