映画「連合艦隊司令長官山本五十六」続きです。
前回、加山雄三演じる伊集院大尉のモデルが、「雷撃の神様」こと
村田重治大佐(最終)であるという話をしましたが、
今日のタイトル画で「友永丈一」としたのは、本作ミッドウェー海戦部分で、
伊集院大尉は友永中佐と同じ運命を辿るからです。
本作の登場人物は一部を除き歴史上の人物が実名で登場しますが、
加山雄三の役は村田大佐と友永大尉のどちらもをモデルにしているため、
唯一この役だけが創作名を与えられているというわけです。
また、黒島亀人先任参謀については、一番知られている肖像ではなく、
本作俳優(土屋嘉男)に似ている若い時の写真を挙げてあります。
真珠湾攻撃後、陸軍は「海軍だけに手柄を立てさせまいと」(黒島談)
大陸進出作戦を強く主張していましたが、
山本の目的は一刻も早く講和に持ち込むことですので、
敵艦隊を叩くため、ミッドウェー作戦を提案しました。
そんな折、劣勢を跳ね返すためのアメリカの捨て身の作戦、
「ドーリトル空襲」が起こります。
空母「ホーネット」を発艦したB29の編隊が本土を襲撃し、
このことは軍上層部をにわかに動揺させ、
「太平洋に防空の砦を築くべし」
としてミッドウェー作戦が決行されることになりました。
劇中、採用された空母「赤城」艦上における敬礼シーン(実写)
ちなみに敬礼しているのは士官のみ
ミッドウェー島への発進攻撃命令を下す機動部隊司令長官、南雲中将。
【軍歌】🎌『日本海軍・出航ラッパ』~映画版~
この時の出航ラッパは、このYouTubeで聴くことができますが、
東宝オリジナル(にしてはよくできている)なのだそうです。
帝國陸海軍喇叭集
本物はこの25番目。
ちなみに「防水」「診察」という喇叭があって驚きました。
「両舷前進びそーく」
「一航戦、赤城、加賀、出航しまーす」
「赤城」飛行隊の士官室は、皆意気軒昂そのものです。
木村中尉の幼馴染の写真(恋人でもないのになぜか持っている)
を皆で回し見して揶揄ったり、山本長官の噂をしたりと、和気藹々。
そして一航戦の飛行隊は、いよいよミッドウェーに向けて飛び立ちました。
本作の特撮模型は、船より飛行機の方がよくできているような気がします。
船はどうしても海面がうまく再現できないので限界があるようですね。
攻撃隊はミッドウェーに差し掛かると米軍の迎撃機と交戦、
その後ミッドウェー島の攻撃は予定通り決行されることになりますが、
作戦司令部には、第一次攻撃隊だけでは効果があまり得られず、
第二次攻撃隊の必要があるという打電が入ってきます。
(ちなみにこの連絡をしてきたのは、伊集院大尉のもう一人のモデル、
友永丈一大尉で、通信文は『カワ・カワ・カワ』)
しかしながら、第二次攻撃隊は敵機動部隊との交戦に備えて待機中でした。
そのとき「利根」の索敵機が、空母のない米艦隊の発見を告げてきました。
ここで機動部隊は後世に禍根を残すミスをしてしまいます。
米機動部隊からの攻撃はないと判断した草鹿は、待機していた航空勢力を
全てミッドウェーに向けてしまうことを決定したのでした。
しかも(映画では語られませんが)実はこの索敵機は、敵索敵に発見され、
近くに日本軍の機動部隊がいることを悟られてしまっていました。
そして、魚雷を陸用の爆雷に付け替えるという命令が下されます。
言うまでもなく第二次攻撃隊をミッドウェーに向かわせるためです。
模型チックな昇降機で付け替えのため甲板から降ろされる飛行機。
そのときです。
索敵機は空母2隻を伴う米機動部隊を発見しました。
「 なにい?!」
歴史に「もし」はありませんが、つい考えずにいられません。
もしこのとき、海軍が出した索敵機が、先の小規模艦隊の代わりに、
空母を伴う米機動部隊を発見していたら、結果はどうだったかと。
少なくとも空母4隻壊滅という事態だけは避けられたでしょうか。
そのとき「飛龍」の山口多聞司令から、米機動部隊に対し
直ちに発進の要ありと認む、という打電がされてきました。
しかし、雷撃機を発進させるには、護衛の戦闘機が出払っていて手薄です。
ほとんどの戦闘機はミッドウェー隊の掩護に行ってしまっていました。
「仕方ない、正攻法で行こう!」
上空直掩戦闘機を呼び集め、再び雷装への付け替えが命じられました。
全員なんでやねんって内心ツッコミ入れながら作業していたと思う。
爆弾が剥き出しになっている今、攻撃されたらどうすんの、とか。
そこに、日本軍にとって絶望的なお知らせが。
敵機動部隊飛行隊がこちらに向かっているというのです。
この一連のシーン、草鹿参謀長演じる安部徹は汗ダラダラ流してます。
急かされまくった攻撃隊がやっとのことで発進していきました。
しかし次の瞬間、米機動部隊攻撃隊が牙を剥いて空母群に襲いかかります。
この、爆弾が甲板を貫き爆発炎上する特撮は見事です。
修羅の海に浮かんだ機動部隊上空を、
たった一機になった伊集院大尉の機が航過しました。
「加賀、沈みます!」
沈みゆく「加賀」に敬礼をする伊集院大尉。(冒頭画)
山本長官の座乗した「大和」に、戦果を伝える電報が届けられました。
「敵艦載機の攻撃を受け、赤城、加賀、蒼龍大火災」
続いて、
「山口司令官より無電、『飛龍は健在なり』」
「山口司令官宛て打電せよ。飛龍の健闘を祈る」
「飛龍」からは艦載機攻撃隊が離艦していきます。
伊集院大尉機はこれらと合同で攻撃に当たることになりました。
燃料タンクを増槽に変えると言う飛行士に、
300マイル飛べれば十分だ、と淡々と返す伊集院大尉。
「はあ?」
「帰ってもおそらく母艦は沈んでいるだろう」
実際の友永丈一機は、ミッドウェー島を攻撃したあと、
母艦に戻って給油していますが、その際左翼タンクが破損していたので、
整備を担当した兵装長が、
「これでは片道燃料になります」
と出撃を制止したのを振り切って出撃しています。
映画の会話はこの時の「片道燃料」を盛り込んでいると思われますが、
友永大尉は、米艦隊までの距離は近いから帰れると計算していたようで、
決して最初から「帰らない覚悟」を決めていたわけではありません。
そして伊集院大尉のもう一人のモデルである村田重治大尉は、
ミッドウェーでは「赤城」から「辛くも」(wiki)生還しています。
映画では、伊集院大尉の艦攻は、米空母「ヨークタウン」に対し、
「テー!」
と魚雷を命中させた後、「ヨークタウン」の艦橋に激突自爆しました。
wikiによると、友永機と思われる隊長機を撃墜したのは、
「サッチ・ウィーブ」の発明者ジョン・サッチ少佐でした。
友永機は、機銃弾を浴びせられ、両翼が炎に包まれながらも、
「ヨークタウン」に魚雷を投下するまで飛び続け、その最後の瞬間を目撃したサッチ少佐は、
「日本の指揮官機はリブをむき出しにしながらも何とか飛行をつづけ、
海中に墜落する寸前に魚雷を投下し、
ほとんど絶望的な状況でも最後まで任務を果たそうとした。」
と感嘆称賛の言葉を送っています。
「ヨークタウン」はこの攻撃により自力による航行が不能になり、
ハワイまで曳航されることになりましたが、
結局その途中で伊号第百六十八潜水艦に撃沈されることになりました。
聯合艦隊機動部隊の中で唯一最後まで残った「飛龍」も損傷を受け、
指揮官山口多聞少将、加来止男艦長を乗せたまま、
他の3隻の空母と運命を共に自沈することになります。
大敗北が決定し、夜戦を断念した聯合艦隊は、
これ以上の攻撃の必要なしとの判断に伴い、
ミッドウェー作戦の中止を決定しました。
「陛下にはわたしがお詫び申し上げる」
鎮痛な面持ちで反転する「大和」の司令官室に一人向かう山本。
「そして三日間が経過した」
この三日の間に、山本長官は夏服に衣替えなさったようです。
渡辺戦務参謀も衣替え。
一般的には6月1日が第二種軍服着用の区切りでした。
「長良」に乗っていた機動部隊の将官が報告のため「大和」に集まりました。
ところが、この南雲と草鹿だけは第一種軍服のままです。
現実的に考えれば、着替えを乗せたまま「赤城」が沈んだからですが、
それにしても、この二人以外全員真っ白なのは何故でしょうか。
それはおそらく制作側がこの構図にこだわったからだと思います。
情報収集と作戦の不手際で大失敗し、打ちひしがれている二人。
この「戦犯」の二人をあえて「黒いまま」残すことで、
その心情と立場を視覚化したかったのではないでしょうか。
このとき山本は、ミッドウェー作戦失敗の全ての責任は自分にあるとして、
彼らに批判的だった黒島亀人に対しても、
「南雲・草鹿を責めるな」(wiki)
と釘を刺しています。
おそらく自分に全責任があるということ痛感していた山本は、
部下だけに今回の敗戦の責任を取らせることはできなかったのでしょう。
そして、汚名返上の機会を与えてほしいという二人の願いを聞き入れ、
再編された空母機動部隊の指揮を引き続き執らせました。
このような明らかな責任者への処分に見られる「身内に対する温情主義」、
さらには、ミッドウェーの敗戦を世間に対し隠蔽したこと、
作戦失敗の原因追及等、反省と今後への対策が全く行われなかったこと。
これらもまた、日本をその後の運命に導く一因になったと言われています。
続く。