佐世保で一般公開されていた「あさゆき」の見学記をお届けしています。
笹井中尉が怒りのあまり足を踏み外した(らしい)のと同じタイプの
舷梯を渡ると、そこには何人かの乗組員が待機していました。
一グループに付き一人が解説のためエスコートしてくれる仕組み。
勿論わたしは一人で行きましたから、エスコートと二人で回ることになります。
ふむ。
合コンもいいけど、自衛官との出会いを望むおぜうさん方、
週末の海自基地ではこのようなイベントも行われているのよ。
あんまり露骨なのは向こうにも退かれると思うけど、
艦内を一周しながら説明したり質問したりしているうちに、
ピンと来るタイプだったら思い切ってアプローチしてみればどうかしら。
などと、わたしには全く無関係の話題から入りましたが、
本来、この佐世保基地艦艇見学、もしチャンスがあればわたしは
付近県在住のみね姉さんをお誘いして一緒に行きたいなと思っておりました。
その少し前に東京でお会いしたとき、
「佐世保に行ったらセイルタワー一緒に行きましょう」
と約束し合ったのですが、何しろ急だったのと、車で1時間の距離を
わざわざ呼びつけるのも憚られたので連絡をしなかったのです。
後から聞いたらこの日はみね姉さん体調が悪く寝ていたということで、
どちらにしても駄目だったことが分かりました。
まあ今回はよかったんじゃないかな。
もしこの二人が一緒に艦艇見学などに行った日には、
解説してくれる自衛官に多大なる迷惑をかけたかもしれないし。(冗談です)
とはいえわたしも別に、隊員を絶句させたり、答えに窮するような
質問を繰り出すほど詳しくも何ともないんですけどね。
わたしの興味はほら、常にハードではなくソフトにあるわけですから。
さて、エスコートのデルタ2曹(仮名)がまず連れて行ってくれたのは後甲板。
ここには
74式Cアスロック8連装発射機
があります。
アスロックと言えば「ひゅうが」や「あしがら」「さみだれ」など、
床設置型のVLSから発射されるVLAは見たことがありますが、
このタイプを見るのはもしかして初めてだったかもしれません。
艦尾側に立ってアスロックを撮ってみました。
アスロックの向こう側はすぐはしご段のついた一段高い甲板です。
この一段上の甲板にヘリポートがあり、格納庫もその奥に設置されています。
さらに、この輪転機みたいなの(これ何だっけ?デコイ曳航機?)の
向こうがわはさらにここより一段低くなっています。
つまり後甲板が三段階段状になっているわけ。
これはどうも「はつゆき型」護衛艦の最大の特色のようです。
ちなみにこの「あさゆき」は「はつゆき型」の11番艦。
11番艦?そりゃまたたくさん作ったものだ、と思われた方、その通り。
この「はつゆき型」は海上自衛隊発足後最初に作られた「はるかぜ型」
(『ゆきかぜ』はその2番艦)などの退役が迫っていたので、
その後継シリーズとしてわずか5年の間に12隻が建造されたものです。
準同型艦も含めると何と20隻の同型艦が建造されたことになります。
1979年からの5年間といいますと、バブル前夜でプラザ合意の1985年までは
日本経済はかなりの不況だった頃です。
この時期の大量護衛艦建造のわけは、先ほども述べた
「自衛逮捕発足当初の艦が老朽化し後継艦の建造が急がれた」
ということが最も大きな理由でしょう。
自衛艦旗ごしに向こうに見えているのは
掃海艇「やくしま」MSC−602。
「えのしま」などの新型掃海艇はFRP素材(繊維強化プラスチック)でできていますが、
これはその前の建造で、やはり機雷に感応しないように木造の船体をしています。
素材がFRPになったので木造製の掃海艇は生産が打ち切られ、この
「やくしま」を2番艦とする「ひらしま型」(ひらしま、たかしま)の
三隻は、海上自衛隊最後の木造製掃海艇となる予定です。
デルタ2曹も「これは前の形なので木製です」と言っていました。
対岸からスピーカーで気勢を上げている一団があります。
「あれ、なんですか」
「さあ・・・・何なんでしょうね」
「こっちにむかって言っているんですか」
「わかりませんね〜」
「基地反対とかいってるんでしょうか」
「かもしれませんけど・・・・」
「政治活動に関与せず」という自衛官の宣誓に忠実に、
このデルタ2曹もまた、全くそのようなことには関心もない様子。
というか、彼らには心底どうでもいいことなんだろうなあ。
いちいち気にもしてられないだろうし。
そういう意味では日曜日の朝っぱらからわざわざマスクで顔を隠して、
ご苦労さんなことである、何の効果もなさそうなのに、と思っていたのですが、
写真を拡大してみると・・・。
彼らの持っている旗には「築港」とあります。
読み難いですがその下には「福岡」「組合」とあるので、
福岡の築港というところからわざわざ佐世保に来ているようです。
「福岡」「築港」「組合」で検索しても、
「日雇い労働組合」しか出て来ないのですが、このときのシュプレヒコールも
何を言っているのかさっぱり分からなかったので、正体はわかりません。
そもそも海自に向かって叫んでいたのかどうかも不明です。
つまりこの行為、全く意味も効果もないと思われますが、そんなのでいいのか。
このブログ的にはおなじみ、「X」の印のついたドア。
この「X」は艦内閉鎖記号で、合戦準備つまり哨戒配備になると常時閉鎖となります。
これは、アスロックを撮ったのではなく、他に見学者がいたので
(しかも女性だったので)ちょっと撮らせていただきました。
この一団。
若い女性二人、男性一人の三人組でした」。
なぜか案内が付いていないように見えましたが・・・。
大抵の装備に付いては初耳でない、というところまでは
わたしも知識があるものの、やはり実際にそれを毎日のように扱い、
訓練している現場の人の話というのは全く違った意味で価値があります。
すぐにエントリを作成しなかったので忘れてしまったこともありますが、
なかでも印象的だったのが、デルタ2曹が
「現代の艦隊戦は接近して相手を見ながら戦うことなどない。
モニターの上で狙いを定め、まるでゲームのようにその結果を知る」
とその様子をリアルに説明してくれたことで(デルタ2曹は砲員?)
それはつまり「バトルシップ」で浅野がやっていたあれか?
と大変納得がいったわけですが、彼に聞いてみると
「まさにあの映画の通り」
だそうで、一般人としては、そういう現場の人の声を聞くと、
なんかパズルの答えが一致したときのように嬉しくなるものです。
岸壁から撮った艦首旗。(艦首旗ですよ。国旗ではなく)
話しながら前甲板に出てきました。
「艦船乗り組みの方はどこに行くか家族にも言わないんですか」
「建前は言わないことになっていますが、やっぱり結婚してたりすると
全て秘密というわけにもいかないでしょうねえ」
「潜水艦乗り組みほど何もかも黙ってるってことはない、と?」
「ああ、潜水艦はね、本当に言わないみたいですね。
わたしたちですら、なんでここに海自の潜水艦いるの?
と思うようなところにいてびっくりすることがあります」
シースパローミサイル。
「個別対空ミサイル」ってくらいですから、空からの攻撃に対し
防御するためのミサイルなんですが・・・
さっきの話によると対空ミサイルは今時あまり意味がないってことなんじゃ・・・。
発射の瞬間が鮮明に写っています。
こういう瞬間の写真が艦上にも掲げてあったのでそれを見ながら
「すごいシャッターチャンスですね」
というと、
「そんなにスピード速くないからですね」
とのことでした。
そんなもんですか。
62口径76mm速射砲(の後ろ姿)。
ファイバーグラスの砲殻なので、計量だということですが、
オトーメララ社の宣伝ビデオなんかをみてもこの砲殻、
地面に遠慮なくゴンゴン落ちまくってますよね。
「自衛隊は自分たちで全てメンテナンスを完璧にするので、
ペンキもしょっちゅう塗り替えるんですよ」
という話をしていたとき、床を指差して、
「これなんかも砲殻が落ちてペンキが剥げるから上から塗るんです」
いくら軽量小型でもあの調子でばらまかれたら、傷がつくんですね。
ちなみに、自衛隊では100%隊員が掃除もメンテもやりますが、
米海軍は「自分でやらないことも多い」ということでした。
アメリカの学校って、子供に掃除をさせず、清掃員を雇うんですが、
「掃除して居場所を清めることで精神も清められる」
みたいな考え方って、もしかしたら日本独特じゃないかと思います。
横須賀に停泊している米軍艦艇が遠目にもメンテが行き届いていないのは
自分たちの艦は自分たちで綺麗にする、というカルチャーがないからなんでしょう。
「自衛隊はやり過ぎじゃないかと思うことも時々あります」
とデルタ2曹は言っていましたが、いやいや、それは誇るべき海軍伝統の文化ですよ。
説明を受けながらもわたしはとなりの「いそゆき」が気になります。
これは・・・・・何か乗ってたんですよね?
「アスロックですね」
「再利用するんですか」
「いや、単に金属を利用するんだけだと思います。
このはつゆき型というのは退役していく艦ですから、搭載武器を再利用することはありません」
「この艦も近々退役するんですか」
「この艦は補修されましたから、あと10年くらいは現役の予定です」
速射砲は砲身だけ取られてしまい、なんとも情けない姿になっております。
「砲身は消耗品なのでリサイクルします」
そういえば「あしがら」で、筒の内側が摩耗するのでそれをしょっちゅうチェックする、
と言う説明を聞いたなあ。
「ちょっとの摩耗でも何キロも先の目標地点では凄い誤差になってしまいますから」
「退役したフネはどういう扱いになるんですか」
「スクラップにならなければ標的艦になることが多いですね」
「訓練で沈めるんですね。どこでやるんですか」
「訓練海域があるんですよ。そこに艦隊で行って行います」
「実際に艦を攻撃して沈めるなんてことそうそうあるわけじゃないから、
実際に標的艦攻撃の訓練のときって、皆さぞかし燃えるでしょうね」
「燃えますねー(笑)」
会心の一撃でしとめたフネは「やったあああ!」ってなるんだろうな。
海自に入って護衛艦に乗ってよかった、ってそういうときは思うかもしれない。
今日は週末なので艦長はいません。だそうです。
救命筏の下の通路をくぐれば一周です。
ハープーンを真下から。
元のところに帰ってきてふと思い出し、
「救助訓練用の人形はどこにあったんですか」
と聞くと、
「あ、お見せしますよ」
といってわざわざ戻ってくれ、立ち入り禁止用のロープがあるのに
「いいですよ、中にどうぞ」
と通してくれました。
怖い(笑)
せっかくわざわざ戻って見せてくれたので、あまり時間をかけては悪いと思い、
急いで写真を撮ったら、暗すぎて画像は実は真っ黒でした。
極限まで明度と最密度を上げてなんとか分かるようにしたのがこれ。
なんとか描かれた目鼻立ちは判別していただけるでしょうか。
くっきりした目鼻、ゴルゴ13のような太い眉。
「誰が描くんでしょうね、こういうの」
「誰でしょうね〜(笑)」
「名前ついてますか」
「え〜(胸の名札を見て)せき、だそうです」
「せきくん、ですか」
「せきくんです」
せきくんって、誰。
せきくんに納得してすっかり満足しながら「あさゆき」見学を終わりました。
デルタ2曹は当たり前かもしれませんが説明が上手で、何でも良く知っており、
実に充実した艦艇見学の時間をすごさせていただきました。
ありがとうございました。とっても楽しかったです。
二度と乗ることのない退役艦「さわゆき」を通り抜け、ラッタルを降りたところで
見張りの海士くんが元気に挨拶してくれました。
任務中の自衛官というのは、どうしてこう皆爽やかなのでしょうか。
というわけで・・・・・・まだだ。まだ終わらんよ(笑)