以前この「キャッスル航空博物館」シリーズで、
アブロ・バルカンをご紹介したことがあります。
このアブロ・カナダは、カナダにできたアブロ社ということのようです。
ロングレンジの全天候型ジェット戦闘機。
このCF-100は、カナダ国内で設計から生産まで、全行程生産されたものとしては
初めてで最後の戦闘機となりました。
この機種を装備しているのはカナダとベルギーだけなので、本来なら
よっぽどのチャンスがないと目にすることはできないと思われますが、
1981年に退役して、これもキャッスル航空博物館所蔵のアブロ・バルカンと同じく、
1982年に、カナダから飛んできて以来、ここにずっと展示されています。
バルカンはイギリス政府からの「無期限貸与」ですが。この機体は
カナダ政府からの贈り物(a gift of the Canadian government)
であるとのこと。
退役した飛行機を、スクラップにするならどうぞ、と寄付してくれたんですね。
カナダというのは地域にもよりますが、フランス語とのバイリンガル国です。
フランスとイギリスがほぼ同時に入植し、戦争してイギリスが勝ったのですが、
ケベック州などにフランス人の入植が集中したので、
ここだけは公用語はフランス語ということになっています。
あとは英語ですが、どちらもしゃべれるバイリンガルが多いのです。
モントリオールに行ったことがありますが、かの地では
英語でしゃべっていた人が横を向いた途端、
同じくらい流暢なフランス語でしゃべりだし、びっくりさせられたものです。
カナダという国自体が、裕福で文化的でG7にも入っているのに、
国際的には、実はどんな国だかわからないようなところがあるのですが、
実際に行ってみると、英語圏でもフランス語圏でもない、
独特の雰囲気があるのに気づくでしょう。
あの混沌とした空気が、カナダと言う国なのだと肌で感じたものです。
それはともかく、こういうバイリンガル国家では、国として何かを行う際、
さぞ言語の違う同志でモメたりするのだろうなと思うわけですが、
軍隊もまたどちらの言語でも対応せねばならないため、
機体にはこのように、楓の両側に、わざわざ英語とフランス語で
「統合軍」
と表示してあるのです。
どちらのスピーカーも、もちろんフランス語も英語も分かるのですが、
要するに
「なんでフランス語が(あるいは英語が)無いんだ!」
などとモメルことになるので、このような仕様になっているのかと思われます。
いやー、どちらも立てなくてはならず、なかなか大変そうな社会ですね。
このアブロ・カヌックの「カナック」ですが、
「カナダ人」という意味があります。
この機体には「Clack」というあだ名もあり、
これは「ドスン」とかいう擬音の意味です。
図体がでかいことからつけられたあだ名かもしれません。
名は体を表すという言葉通り、カナックは、
今まで地球上に存在した戦闘機の中で、最も大型の種類に属します。
全長16.5メートル、全幅17.4メートル。
ちなみに、零戦21型の全長は9.05m、全幅は12mですから、
カナックのほぼ3分の2スケールしかないということになります。
冷戦時代、カナダはソ連に対する「最前線」という地勢上の関係で、
NORAD,(北アメリカ航空宇宙防衛司令部)
という、まるでSFアニメのような名前の組織を作り、
アメリカとの防衛体制をとって、前線で敵と対峙していました。
このCF-100は、ソ連の「トランス‐ポーラー」、
つまり極圏航路からの核爆撃に備えて、
ロイヤルカナディアン・エアフォースが使用していました。
「カナック部隊」は、場所柄、非常に視界の悪く、
しかも悪天候の状況下で飛ばなければならないことが多かったそうです。
1950年代に生産が始まり、70年までの間に、
仮想敵としてのシミュレーション飛行に使われるほかは、
カナックはNORADのテスト機として活躍していました。
ところで、カナダのアブロ社には、
ヤーノシュ・ズラコウスキー
というテストパイロットがいました。
技量抜群の凄腕であったと誉れ高かったそうです。
ズラコウスキーは、ただでさえ大きな戦闘機(二人乗り)に乗って、
アブロ社のテストパイロットとして航空ショーに出場したのですが、
そこで見せたマニューバの
「木の葉落し」(Falling leaves)
は、満場の観衆を唸らせました。
木の葉落し、というのは、航空機のマニューバの中でもおそらく、
「インメルマンターン」についで、日本人にはよく知られているのではないでしょうか。
機動性に優れ、機体の小さな零式艦上機ならではの「得意技」だったからです。
御存じない方のために一応説明しておくと、「木の葉落し」とは、
敵に後ろを追随されている状態で急上昇し、直後にストールをする
敵機はそれを追うことによって、半径がより大きな弧を描くことになる
機体を失速させた機を、自機を追い越した敵機の後ろで失速から回復させ、
いつの間にか後ろに回り込んで優勢な位置を占める
というもので、繰り返しますが、これを零戦が得意としていたのは、
駆動性に優れ機体が小さいという特性をもっていたからこそです。
その「木の葉落し」を、零戦より二回り大きなこのカナックでやってしまう、
というのが、このズラコウスキーのすごいところで、観衆はもちろんのこと、
この大技を目の当たりにした航空ショー出席の航空関係者、技術関係者は、
一様に彼を
「グレート・ズラ」と
「グレート・ズラ」と
「グレート・ズラ」と
褒め称えたと言われています。
なぜ三度繰り返したかと言うと、別に大事なことというわけではないのですが、
単にズラコウスキーの通称が「ズラ」というのにウケたからです。
「ズラコウスキ」という名前の人がいれば、日本人ならほぼ間違いなく
「ズラ」とあだ名をつけるのだと思いますが、カナダでもそうだったんですね。
こんな名前なら日本でもたちまち話題になるでしょうに、
かれは「アブロ社」という一企業のチーフパイロットに過ぎない身。
活動がカナダ国内だけにとどまった、というのが残念でたまりません。
って、全然カヌックの話と関係ありませんが。