茨城県の百里基地で行われた平成26年度航空観閲式シリーズ、
続きです。
展示飛行が終わり、展示視閲のプログラム「緊急発進」、
即ちスクランブルが行われました。
観閲台に設えられた緊急発進を知らせるベルのスイッチを
観閲官である安倍総理がぽちっとします。
疑うわけではありませんがこのスイッチ、本物なんでしょうか。
とにかくそのとたんりりりり・・・と警告音が鳴り渡り、
何秒か後にはスクランブル発進されていました。
スクランブル発進のためにF−2、F−15は24時間態勢で待機しています。
実際のスクランブルは5分以内に発進すべしとなっているそうですが、
正確な時間は防衛機密上明らかにされません。
防空識別圏とは領空の周辺にあり、領空侵犯の恐れのある国籍不明機が
侵入したときにスクランブルは行われます。
スクランブル基地は全国に七カ所あり、ここ百里基地もその一つです。
スクランブル発進してからは、国籍不明機の真横を飛び、相手に
翼を振って「我に従え」と意思表示をしてのち先に立って誘導しますが、
その間相手から撃墜されるポジションを飛ぶことになります。
そこで後ろに僚機が追随し、ミサイルを発射可能にし、
国籍不明機がリーダー機に何かしたときに正当防衛する意志を示します。
つまり、リーダー機は常に被撃墜の危険を負っているのがスクランブルなのです。
勤務は24時間交代だそうですが、3回スクランブルを行ったら
体力に限界が来るので、24時間以内でも交代となります。
Gスーツを着用しているといえども9Gの重力を受けながら
死の危険と隣り合わせの任務。
統合幕僚監部が発表によると2013年度(2013年4月~2014年3月)の
航空自衛隊の緊急発進回数は、前年度と比べ243回増となる810回。
年間平均で一日に2~3回、日本のどこかで緊急発進が行われたということです。
これは1958年に航空自衛隊が対領空侵犯措置を開始して以来、
56年間で9番目に多い回数となったそうです。
推定を含む緊急発進回数の対象国・地域別の割合は、
中国機が約51%、ロシア機が約44%、北朝鮮機などその他が約5%でした。
概要でも写真を挙げた、F−15による「機動飛行」。
白煙を背負っているように見えますが、これは「ヴェイパー」
(vapor、蒸気という意味)といい、戦闘機が運動するときに、機体の一部(
この場合主翼の付け根)からこぼれた空気が急減圧されることによって、
空気中に含まれる水分が凝結作用を起こし、発生する現象をいいます。
このヴェイパーは翼端から発生しています。
「空気中に含まれる水分が凝結」ということはですね、
空気中に水分が多い、つまり湿度の高いときにはヴェイパーは
発生しやすいのではないかと思うのですが、このときは
昼遅くに夕立のような雨が降ったくらいで、条件は整っていました。
この日は「ヴェイパー日和」だったのです。
特にこのF−15の機動のときにはヴェイパーが目立ちました。
下から見た写真には全く写っていませんが・・・、
表面はこの通り。
まるで綿布団でも背負っているように、翼全面に見えます。
プログラムには複座であるF−15DJの名前も書いてありましたが、
写っている写真は全てパイロットは一人でした。
ブルーインパルスもそうですが、複座戦闘機に
一人しか搭乗しないということはよく行われるのでしょうか。
何かの拍子にヴェイパーが全くなくなった状態。
続いての展示視閲はRF−4E/EJによる航空偵察。
写真は撮り損ないましたが、前回お話ししたファントムの偵察型です。
つづいてはF−2戦闘機による対地攻撃。
F−2のミサイル攻撃は富士総合火力演習で見たばかりです。
あれは戦車や火砲でどっかんどっかん撃ちまくってもいい山の中の
演習場だから見られるのだと思っていたのですが、
こんな飛行場の芝生部分に、それも何発も落とすとは思いませんでした。
その近くに航空機が並べてあり、次のプログラムで飛行をする
ブルーインパルスの6機がもうこのときには滑走路の端にいます。
手元が狂って1機120億円のF−2戦闘機を壊してしまうなどということが
絶対に起こらないとは、あの速さを考えると言い切れないと思うのですが。
というような心配をよそに、2機のF−2は恐ろしいくらいの正確さで
全く同じ地点に爆撃を加えました。
うーん。何か妙な既視感を感じる。
と思ったらこれどちらもC−1の形っぽいじゃないですか。
展示視閲の「試験飛行・技術、実用試験」という演目?で、
このC−1がおめでたになったような体型の赤白輸送機は
C−X(Cは輸送機、cargoのC)のXC−2という次期輸送機。
「2」というのは第2次のC−Xという意味で、第1次C−Xは
1960年代に開発され、今C−1と呼ばれている、あれです。
前にも一度お話ししたことがありますが、C−1というのは開発の際、
左巻きの人たちがやいやいと口出しをしたため航続距離が短く、
それがここ最近に来て諸要件の変化に対応できなくなってきたので
後継機が開発されたのです。
臨月の妊婦さん状のお腹は、貨物室をできるだけ広く取るため
胴体側面及び底面の補強のための張り出しで、このために
空気抵抗が高そうに見えますが、主翼の形状の工夫と大推力エンジン
(ゼネラル・エレクトリック、GEのCF6-80C2型エンジン)
を搭載することによって高速航行を可能にしました。
C−1の全長が29mで、これはなんと43.9m。
いかにこのXC−2の機体が大きいかおわかりですね?
左側で一緒に飛んでいるのは、試作機ではないかと思います。
これ思い出しました。
さて、いよいよブルーインパルスの演技が始まりました。
各国軍の飛行機乗りたちもこれを楽しみにしてたのではないかしら。
まず4機がテイクオフします。
これを「ダイヤモンドテイクオフ」といいます。
角度が全く同じ。
写真をアップすると、2番機のパイロットは前ではなく
右側の3番機だけを見ているのが分かります。
1番機だけが後席に一人乗せています。
後ろに乗っているのは「次世代ブルー」で、前席とは「師匠・弟子」の関係。
ブルーに選ばれたパイロットは、最初こうやって演技を後ろで「見学」し、
駆動を身体に叩き込むようです。
雲が多く、スモークが曇天に埋没してしまって
なかなかいい写真が撮れなかったのは残念でした。
ひねり込み?
ファン・ブレイク。
1番機から4番機までのダイヤモンド隊形で、会場の左側から右側に、
60度から70度程度のバンク角で抜けていくフォーメーション。
機体同士の最短間隔は約1メートル。
走行中の車同士で1mの距離に接近することを考えても、
大変な技術であると思わずにいられません。
これは全課目の中でも最も密集する隊形なので、スモークは使用しません。
フォーポイントロールだったかと思います。
右ロールを90度ずつ4回に区切って繰り返して元に戻ります。
単機での技として、もう一つ代表的なものに、6番機が約10秒をかけて
ゆっくりと右ロールで1回転する「スローロール」がありますが、
一見容易そうで実はエレベーター・エルロン・ラダーの調整が難しく、
難易度の高い課目とされています。
ブルーインパルスの演技が始まってからは、会場に
ブルーのテンーマソングが流され、いやでも雰囲気は盛り上がります。
チェンジオーバーターンを正面から見たところだったかな?
左から2番目のブルーの角度が良くないような気が・・。
フォーシップ・インバートの最初の隊形。
滑走路端でまず4機のうち2機が背面飛行に入ります。
しかるのち残りの2機もターンし、全機が背面で通過。
ブルーインパルスの演技も観閲式では「展示飛行」となります。
「航空祭と違い派手なプログラムはなく、演目も半分なので面白くない」
とよく見聞きしましたが、そんなことはありませんでした。
航空祭は航空祭、観閲式はあくまでも公式行事で、観閲式でないと
見られない場面はあまりにもたくさんありますし。
全機が背面飛行に移った瞬間。
一番機の動きを見てからターンオーバーするので、
後ろに行くほど動きが遅れる模様。
コーク・スクリュー。
会場右前方からほとんどまっすぐ侵入してきたので、
生憎の雲もあって効果は少し残念なものでしたが、
これがプログラムのハイライトとなっていました。
演技を終えて離陸。タッチダウンの瞬間をズームしてみました。
そういえば、11月3日は入間で航空祭が行われますね。
この日曇りでブルーインパルスに限らずあまりいい写真が撮れなかったので、
リベンジに行くつもりをしていたのですが、予報ではこの日と同じような天気だとか。
それに、招待制の観閲式でちょっと楽な観覧をしてしまうと、
去年のような殺人的な人ごみを体験してまで入間で見なくてもいいや、
という気持ちが芽生えてしまうというのは観閲式の意外な副作用?でした。
最終回に続く。