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戦艦「伊勢」洋上慰霊式

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何回かに分けて「いせ」に乗艦したことを事細かくご報告してきたわけですが、
ようやく本来の目的である戦艦「伊勢」慰霊祭についてお話しするときがやってきました。

色々と現場に配慮して、行事が終わってすぐにご報告をすることを控えたのと、
一つのことを微に入り細に入り話し出すときりがないという当ブログの傾向も相まって、
昨年末のことを今頃報告することになりますがご了承ください。

ところで、戦艦「伊勢」はご存知のように昭和20年7月28日、
旧海軍兵学校の訪問記でも「米軍搭乗員の飛行履」という項でお話しした呉大空襲の際、
米軍艦載機の攻撃によって大破着底しました。

冒頭の写真はその時の「伊勢」の姿です。
「大和ミュージアム」に壁一面を使って展示されているものですが、
「着底」といっても現場の海深が浅いためか、傾いているだけにも見えます。

「伊勢」は、まず、その4日前の7月24日の空襲の時に艦橋に直撃弾を受けるという損害を受けました。
そのとき、牟田口艦長はじめ指揮官20名ほどが戦死しています。

この時5000トンの浸水があったのですが、その時点でまだ修復は可能と見られたため、
7月28日当日は、高射長が艦長代理となって第4ドックに曳航するための作業をしている途中でした。



第4ドックとはは現在も残る「大和の大屋根」の二つ隣のドックです。

実はちょうどこの慰霊祭のために呉に到着し、その前日
ここ、旧海軍工廠であるIHIジャパンマリンユナイテッドを「歴史の見える丘」から見学したとき、
この旧第4ドック、現在の補修ドックが空いていました。
そのときわたしは、 

「もしかしたらここに『いせ』が入るのだろうか」

もしそうなのだとしたら、

第4ドックに入れようとしていて大破してしまったという「伊勢」の慰霊祭の後に、
それを執り行った「いせ」は、全く同じ場所にあるドックに入ることになるではないか!

とひとり勝手にモニターの前で盛り上がっていたのですが、
結局「いせ」は別の岸壁に着岸してしまいました。


とにかく、そのドック入りの曳航準備中、米軍の空襲が始まり、
その後「伊勢」は直撃弾11発を受けて大破着底したのでした。

この時には総員で作業に当たっていたため、戦死者は乗員1,660名の3分の1近い573名でした。

昭和20年になって行われた呉への一連の空襲を「呉軍港空襲」と称します。
それは3月19日に始まって複数次にわたりましたが、これらの空襲で戦死した海軍の艦艇乗組員は約780人。
戦傷者は2000人に上ったということですから、
死者のほとんどが「伊勢」の乗員であったということになります。



さて、「いせ」での慰霊祭の様子を追っていきましょう。

わたしたちが控え室に使わせていただいた士官室の片隅で、女性幹部が儀礼用のチャップス
(乗馬用語だとそういうけど、海自ではゲートルでいいのかな)を着けていました。

「儀仗隊の指揮官だね」「女性自衛官なんだね」

周りではそんな囁きが起こりましたが、去年の慰霊祭も儀仗隊長は女性(同じ人?)だったそうです。
儀仗隊指揮官は自衛隊法によると「2等海尉または3等海尉」。
彼女は3尉、少尉さんですね。



そして、式典会場へ・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・。

なんでこんなところにお供物と花束が?

そう、この日は縷々ご説明したように朝から大変な雨の降り続く一日となったわけですが、
時間となっても一向に雨が止まなかったため、慰霊祭は格納庫で行われることになったのでした。



先ほどの女性幹部が指揮官となって従える儀仗隊が整列しました。
儀仗隊の陣容は指揮官以下分隊海曹1名、隊員8名の計10名です。

甲板の上で行う場合、儀仗隊は礼砲を撃つのが倣いですが、おそらくここではそれも無しでしょう。



儀仗隊の横には副長始め慰霊祭をとり行なう執行者が並び、
後ろに乗組員、その並びに遺族と参加者が立ちました。
この態勢で定時を待ちます。



右の方は「いせ」の後援会会長。
式の次第を副長が説明しているようです。
艦長の姿が見えませんが、こういうときには艦長は艦橋にいるのでしょうか。



「そのときにはあちらの方から外に出ていただいて・・・」

海上への献花、供物のお供えなどは、格納庫から出て、それだけを従来通り行うようでした。
副長が指し示しているのはデッキに通じるドアの方向です。



白菊に白百合紫の桔梗などをあしらった、死者の魂を慰める花束、
供物の他には清酒も用意されていました。


 
説明が終わったようです。

後ろに立つ乗組員たちの姿勢には緊張が漂い、
しゃきっと伸びた背筋には気の緩んだ様子など微塵もありません。



右手には喇叭譜を演奏する喇叭隊がいます。
曹士ばかりの8人による一隊です。

ラッバに付けられた房飾りと肩掛けの赤が鮮やかです。



やっぱりこういうのを見ると、海軍伝統の行事って無条件に美しいものだなあと思います。
異論は認めません。




そのとき喇叭が鳴り響きました。

「ドッソッドッドミソー」

海上自衛隊における「気をつけ」です。
退官した音楽隊長の河邊一彦元一佐の

「イージス」~海上自衛隊ラッパ譜によるコラージュ

にはこの「気をつけ」が効果的に取り入れられていますね。



ちなみに海軍喇叭譜における「気をつけ」は

「ソッソソドッドミソー」

で、大変似ているのですが少しだけ違います。
自衛隊になった時に喇叭譜もほんの少し変えたようですね。
続いて、

「ただいまより洋上慰霊式を行います」

というアナウンスがありました。



英霊に対して、花束、供物が送呈されます。
皆が外に向かって歩き出し、格納庫を出て行きました。
その他の列席者はその場に残っています。
しかし、カメラを持った一団に自衛官が

「どうぞ一緒に出てお撮りください」

と言ってくれたので、わたしも外に出させていただきました。



送呈はこの左側のデッキから行います。



まず、「いせ」後援会長の花束送呈。



続いて「いせ」副長が花束贈呈。



海曹を代表して先任伍長の清酒送呈。

士官室で「普通の男です」とおっしゃった方です。
清酒を注ぎ終わるまで結構時間がかかったので、
先任伍長の写真だけはいっぱい撮れました(笑)

副長も先任伍長もデッキの端まで出て行っていますが、
これは船乗りだから普通にやっているので、柵のないデッキに立つのは、
陸の人間には高所恐怖症ならずとも脚がすくみあがるほど怖そうです。

後援会会長はもちろん、なぜか副長も花束は手前から投げていました。



もう一人の海曹代表は女性自衛官でした。
三宝の皿部分から果物や野菜が投じられます。



最後にお米を送呈する海士代表。
かれもしっかり突き出したデッキまで出て行っています。



敷いていた紙も落としていました。



送呈を終わった「いせ」代表の皆さん。
副長がこちらを見ておられる・・・。

もし天候が晴れで慰霊式が甲板で行われたなら、
全員一斉に花束、供物を甲板から海上に投下したはずです。

そして、わたしたちはここにいたので聴けなかったのですが(T_T)
格納庫内では喇叭隊によって

追悼の譜 「国の鎮め」~殉職者に捧げる譜

が吹鳴されたようです。
そして、もし甲板であればこの後弔砲が鳴らされたはずですが、
格納庫ではその代わりに何が行われたのか知るべくもありませんでした。

弔砲が終わると同時に、旧軍喇叭譜である

命を捨てゝ

が旧軍の英霊たる「伊勢」の乗組員の霊のために吹鳴されたはずです。
この喇叭譜は海自喇叭譜にはないものです。

零式によると、弔砲と「命と捨てゝ」は交互に3回ずつ繰り返されます。

去年の洋上慰霊式の模様がユーチューブにアップされていましたので、
この部分をご覧になりたい方はどうぞ。



喇叭隊の一番こちら側にいるのは供物送呈をした
先任伍長のように見えます。

弔砲は「発射よーい、撃(て)っ!」で発射となるのですが、
この号令をかけているのも今年と同じ女性指揮官のようです。

まだ就役して3年目で、前年度の慰霊式は例のフィリピン派遣のため、
年明けに延期されたということらしいのですが、そもそも冒頭に説明したように
「伊勢」の戦没は7月24~28日の出来事なのに、なぜ12月に洋上慰霊式を行うことに決まったのでしょうか。



どこかで、自衛隊の大きな儀式は、台風災害などで派遣の可能性の増える時期には
決して行わず、晩秋から春先に行うことが決まっていると聞いたことがあります。

それが正しいかどうかはわたしにはわからないのですが、
もし実際の「命日」に慰霊式を行うしきたりであったら、わたしは例年その時期
日本にいないので、参加も叶わなかったということになります。

「伊勢」の乗組員の霊も、命日とは季節も違う冬に慰霊を行うことを
そういう理由ならきっと了解してくださることでしょう。



この写真の背後に写っているのは、まさに冒頭写真の伊勢の背景そのままです。

「伊勢」は着底した後、引き揚げられて解体され、すぐさまスクラップとなりました。
写真の「伊勢」は、この世における彼女のまさに最後の姿でもあるのです。


戦艦「伊勢」とその英霊たちに、あらためて敬礼。
どうぞ安らかにお眠りください。 


 

 





 


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