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地方総監部訪問記~自衛官の結婚と「約束の海」

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もうすっかり昔のことになってしまいましたが、
わたしが地球防衛協会の顧問に就任して、地方総監部に表敬訪問を行い、
地方総監とお会いするところから続きです。

一体平成何年の話をしているのか、って?

実際にあったことをここで報告する場合、直後だと各方面に人物特定されてしまう
という危険性を少し考慮して、あえて日にちをぼかすということをよくやるのですが、
これもその一環とご理解くだされば幸いです。

(でもこのエントリ、間違えて一度アップしてしまったんですね。
読むのが二度目だという方、あれは間違いで今日が本番ですのでよろしく)



さて、少し前に庁舎に案内され、二佐や幕僚長と話をしていたところ、
明るい第一声とともに部屋に入って来られたのは9月付けで新地方総監に着任した海将でした。

「初めまして、本日はわざわざよくお越し下さいました」


ところでわたしは三月の「ふゆづき」引渡式の祝賀パーティで、
前総監であったM海将ににご挨拶させていただいたのですが、
そのM海将にこの日あらためて総監部でお会いするものだと前日まで勘違いしていました。

今回地球防衛協会(仮称)は、新総監に、やはり就任したばかりのわたしを紹介するために
ここに派遣してくれた、という形だったのですが、
残念ながら本人があまりその構図を理解していなかったということですorz




さて、海将が正面に座り、会談開始。
ところで、このときの配置を図で示すと、

◎ 海曹長              
                   
◎ 幕僚長              
           ◎ エリス中尉    
◎ 海将               
           ◎ TO              
◎ 管理部長1佐

◎ 人事部長2佐


前にずらりと自衛官が並んだだけではありません。
ふと気づくと管理部長の1佐は、会談の内容をなにやら専門のノートに逐一筆記しているではありませんか。


これはうかつなことは言えない。
ここでしゃべった一言隻句が、すべて防衛省の記録として未来永劫残るのだわ。(たぶん違う)

とにかく、思ったよりはるかにおおごとになっているのにビビりまくるエリス中尉。



しかしながら、海将がそのお人柄らしい、明るく磊落な調子で話し始めると、
すっかりそのことはわたしの頭から抜け落ちて、いつもの通りしゃべっていました。



海将との会話は意外なことに?自衛隊の「婚活問題」から始まりました。

実はその伏線として、海将がお見えになるまで、2佐や海曹長との間に
自衛官には出会いの場がない、という話題が交わされていたことからです。


ちょうどその日、わたしはたまたま、

「自衛隊には外国籍の妻を持つ隊員が800人いて、その7割にあたる600人が中国人である」

というニュースを目にし、あらためて衝撃を受けていたのですが、その記事には理由として、

「自衛隊の基地はたいてい田舎か郊外にあり、女性自衛官が増えたといってもまだまだ男ばかり。
日常のなかに男女の出会いなんてほとんどない。
それで、斡旋業者を介して外国人女性と結婚したり、
盛り場の飲み屋で知り合った外国人女性と結婚するケースが増えているのです」(陸上自衛隊関係者)

という声を紹介していました。

以前コメント欄で「飲み屋のお姉さんと結婚する自衛官は実に多い」という現状を伺ったことがありますが、
その相手が日本人ですらないという例が急増しているらしいですね。

特に海上自衛官の場合、長期の航海などで日本を離れる機会も多く、
さらには2年ごとに転勤という勤務状況が、結婚相手を探すのに障害となっているのが実情です。

ちなみに現在の日本に於ける一般の外国籍女性との結婚率と、
自衛隊内での外国籍妻を持つ隊員の割合はほとんど一緒です。
いつも言う通り、自衛隊もまた社会の縮図ということにすぎないのですが、
国防という職務の性質上、それは決して好ましいこととは言えません。

実際に、自衛官の中国人妻が絡んだ機密漏洩事件が起こっている以上、
自衛隊上層部としても、この問題を非常に重く見ているらしいのが、
2佐の話しぶりからも、海将がその話題から始めたことから窺えました。

まあ、単に「ツカミ」にしやすい話題だったからという説もありますが。



しかし、現実に自衛隊側としても何も対策をしていないというわけではなく、
このときに同席しておられた海曹長は、定期的に基地で婚活パーティを開いて
自衛官と一般女性の出会いの機会を設けているとのことですし、
基地・駐屯地主宰によるそういった催しも結構な頻度で行われているのだそうです。


ところで、海将は最近婚活市場で自衛官が注目されている、という傾向をご存知なのでしょうか。


「テレビで取り上げられたりして、最近はずいぶん変わってきましたが、
わたしたちの頃は、世間はバブル景気でね。
ああいう時代に自衛官なんて職業全く相手にされなかったですよ」


大災害での活動によって世間がその存在を認知したこと、
国際情勢がいやでも国防に注目せずにはいられない事態であること、
そしてバブル時とは対極の経済不安。
そして何と言っても大災害において国民に広がりつつある物質重視社会への倦厭感。

こういった事象が、公務員である自衛官という職を、あらゆる面
(婚活含む)でクローズアップしているというのが昨今の構図です。

つまり、社会が不安定になるときには世間は自衛隊に注目する、
という吉田茂の言葉そのままの現象が起こっているのです。



話は少し変わります。

前任のM海将もまた潜水艦隊司令でしたが、新総監も潜水艦出身です。
潜水艦、といえばわたしにはどうしても山崎豊子の小説

「約束の海」

を思い浮かべます。
海将のご感想などお聞きすべく、さりげなく?話題に乗せてみました。

「ああ、あれはね」

打てば響くような返事。

「読んだとたん思いました。俺が疑われる、って(笑)」

山崎氏は、晩年の体の不自由な中、取材リストを編集スタッフに依頼し、
その様子を撮影させたDVDは200枚に上ったということですが、
小説の主眼が「なだしお」と釣り船の衝突事件であったということで、
海上自衛隊からはかなりの人数がその取材に協力しています。

ちなみに取材協力者は「海上自衛隊」として

沖縄基地隊、海上幕僚監部広報室、幹部学校、
幹部候補生学校、呉地方総監部、潜水艦おやしお、
潜水艦教育訓練隊、潜水艦隊、第1術科学校、
第5航空群、第46掃海隊、米太平洋艦隊司令部連絡官

という各部隊の名が本書巻末に記載されています。




海将はこのときに取材を受けていないということですが、
小説を読んだときにまず、その内容があまりにリアルで、現場の状況と
当時の人物像などについても新に迫った部分が散見されたため、

「これほどのことを知っているとなると真っ先に
その直前まで実際に乗っていた人間が疑われるでしょう」

海将はまさに疑われるべき経緯の持ち主だったということです。

別の自衛官から聞いた話ですが、あの小説発表後、事故に近かった自衛官の間では、
ちょっとした「犯人探し」の雰囲気があったそうで、なんとならば、
小説に書かれた「くにしお」艦長の性格などや現場の様子が
まさに当事者しか知り得ぬことであったりしたからなのだそうです。

しばらく疑心暗鬼の微妙な空気が現場に立ち込めだしたため、
「うちには取材に応じた人間はいない」と発表する隊も現れるなど、
とにかくあの小説は、自衛隊内部にその当時、ちょっとした波紋を呼んだようです。

ここでもう一度取材協力者のリストを見ると、モデルになった「なだしお」の名だけがないのに気づきます。



ここでその「なだしお」事件について聞いてみました。

「あの事件でのマスコミ報道はどのように思われましたか」
「憤りましたね。なんて報道をするのかと」


あの頃、溺れる人を艦の上に立って平然と見殺しにしているかに
「たまたま」見える写真が大きく新聞を飾りました。

その様子がまさに糾弾の意図を持ってテレビでも新聞でも繰り返され、
世間はまんまとその情報操作に乗らされて、それこそ一億が総出で
「非人間的な自衛隊」をバッシングしたのです。


ところが、何の因果か、海将はその後、潜水隊司令を経て、
海幕総務部総務課広報室長となり、自衛隊の広報として
マスコミと直に接触する部門を経験することになります。

「なだしお」のときに怒り心頭というくらいであったマスコミへの印象も、そのときには、

「実際に(マスコミの人間と)付き合うとね・・・
特に個人的には、気のいい人物ばかりなんですよね」

と変わっていったそうです。
海将、わかります。
わたしもNHK職員の個人的な知り合いが二人(以下略)


海将の話はまだまだ続きました。
わたしは最初に海将が、

「わたしたちの(婚活)時代は・・」

とおっしゃったことから、主人公が海将と同年代である「約束の海」の記述をいくつか思いめぐらせました。

潜水艦乗りの身辺調査は,厳しい。
機密保持にシビアな分、徹底的に調べられる。
本人や親兄弟はもとより、親密に交際している友人にも調査は及び、
外国人と抜き差しならない関係にある場合などは、潜水艦乗りから外される。


また、主人公の花巻が、フルーティストの頼子に職業を聞かれたとき、
過去、自衛官だといったことで何度か女性に拒否されたことを思い出し、
一瞬忸怩たる思いになるというシーンなどは、


自衛官と口にしただけで、身を引かれてしまった経験が一度ならずあった。
一年近く付き合った女性の家に、挨拶に訪れた際、母親からは冷たい視線を浴び、
都庁に勤務するという父親からは
「君らがまた戦争をおっぱじめたい連中の予備軍か!
懲りない税金泥棒!」と面罵されたこともある。
そう言う思いは、もうしたくない。



いずれにしても海将は現在の自衛官が持て囃されている風潮を「昔からは考えられない」と語りました。


しかし、わたしなど思うのですが、メディアで取り上げられることの功罪でいうと、
自衛官という「記号」に過剰な夢を見たり期待をする女性が増え、
それゆえ勝手に失望したりトラブルの元となるという面も出てきます。


自衛官が婚活相手として何をおいても人気の職業であるかというと、
まだまだ世間全般で考えると、そこまでは言えないというのが実情ですし、
そもそもこういう時期、

「何が何でも自衛官と結婚したい。自衛官なら誰でもいい!!」

と意気込む女性には、当の自衛官たちも嬉しいどころか、身構えたり、
引いてしまうのではないかという気がします。


出会いがない自衛官が、近づいて来る外国人と何となく結婚してしまう。

これは依然として解決すべき深刻な問題ではありますが、
反面、婚活市場が「氷河期」であるときほど、自衛官の身分ではなく、
その人個人を見て結婚してくれる相手と巡り会うことができるとも言えます。

だいたい自衛官を夫にしている女性は、

「気がついたら夫は自衛官だった」

という人が大多数なのではないでしょうか。
それこそ他の職業の夫を持つ妻とほとんど変わりない割合で。

メディアの過剰な持ち上げは時として本末転倒の婚活を生み、
自衛官の嫁不足そのものを解決することにならないのでは?
・・とわたしは実のところ少しばかり憂慮しないでもありません。


ただ、自衛官たちは世間と隔絶している分、自分たちがどんな形でも「評価されていて」、
さらに「応援してくれる人がいる」ということを知るのは無条件で嬉しいというのも事実です。

そのあたりの需要と供給のバランスが自然に落ち着くことになって初めて、
自衛官の結婚問題は解決したといっていいのかもしれません。





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