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「S」は掃海の「S」〜日向灘・掃海隊訓練

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毎日毎日遅々として進まない掃海隊訓練報告ですが、のんびりやっているうちに
実際の掃海隊関係者からちょっとした訂正が入ったので、お知らせしておきます。

士官寝室のロッカーの上に、洗面器が備え付けてあった件ですが、
条件反射的に「船酔いが起きた時のため」と断言してしまったところ、
あれは「小間物」受けではなく、ゲストがお風呂で使う普通の洗面器だそうです。

後だしになりますが、いやー、なんかおかしいと思ったんですよ。
洗面器を使う、というのはあくまでも「応急」で、最初からそうなら、
ちゃんと中身が見えない袋とかを使いますよね?

自衛隊の艦内浴場には銭湯のように洗面器備えておらず、
各人は自分専用の洗面器を持っています。
客人が船に泊まる場合に使っていただくために、備品として置いてあるものだと思います。 

ちなみに、石けんやシャンプー、かみそりなどの、ホテルでいう
アメニティもありませんので、短期に訪れる来客用のものは準備しています。
海上自衛官が要務で来訪する場合、その辺は心得ていて、たいがいのものは持参しますが、
他自衛隊や民間の方の中には、事前にお知らせしていても、
ホテルに泊まるようなつもりで着替えしか持って来られない場合もあります。

ということで、海上自衛隊ならではの気配りがここでも垣間見えるのでした。
しかし、他自衛隊はともかく、民間で自衛艦の士官寝室に寝られる人がいるのか・・・。

「カチッ」(わたしの野望に火がついた音)

というのは全くの冗談ですが、まあそういうことだそうですのでご参考までに。



訳あって波乱のまま幕を閉じたブリーフィングが終わり、そろそろ訓練が始まる、
ということで皆艦橋までもう一度戻ることになりました。

途中にあった「えのしま」の輝かしい優秀鑑定認定プレート。
なんとえのしまくん、横須賀地方隊で3年連続優秀鑑を張っている超優等生でした。
おまけに、平成26年度の水中処分、占位運動、NAVCOMEXの競技で全て1位。

なんだか全然わからない競技だけど、とにかくすごいのはわかった。
最後はたぶんだけど通信の何かだと思う。

水泳でも艦単位で表彰されているし、機雷戦戦技で優勝しているし、掃海隊司令も

「とにかく優秀なんですよ!」

とまるでできのいい息子の自慢をするような相好で言っておられました。 
 


さて、艦橋から後方に出ますと、信号旗のラックがあります。
テッパチにカポックというフル装備も凛々しい隊員が、今から信号旗を上げる構え。 



これは状況的にこれから行われる訓練に関係する合図に違いない。
下の赤黄斜めストライプは「本艦は走錨中である」・・・?

走錨って、錨を下ろしているのに流されてますってことよね。
なんか違うな。

あ、もしかしたら2種の組み合わせによる信号かな?

私(本船)は演習中である。私(本船)を避けられたい。
I am carrying out exercises. Please keep clear of me.

これだ! 




ドイツ軍風の?ヘルメットがいつ見てもかっこよす。
っていうか、わたしこれをリアルに見るのって実は初めてなんですよね。

カポックの背中に貼ってある横長のは蛍光素材、そして「3131」の番号は、
万が一、本 人 確 認 が で き な い 状 態 になった時識別するため?



旗のなびき方を見ても風の強さがわかっていただけますでしょうか。
少し見えにくいですが、本艇は隊司令が乗艦しているので隊司令旗が掲げられています。



旗を揚げた後はロープを固定。



訓練海域には自衛艦以外が入り込まないように結界()が張られています。
海域は思ったより広く、訓練参加の掃海艇が地平線にぽつんぽつんと認められるほどでした。
今訓練海域にやってきた、これは・・・・



あっ、「ぶんご」さんだ!
わたしたちが先に出向したけど、海面到着はあまり変わらなかったわね。



これですよ。件の地元テレビのクルーは。
奥の茶色いコートが「この訓練は何に生かされているのか」、そして
「集団的自衛権の範囲で海外で掃海するのか」と質問した女性記者。

ローカルテレビって人材がさぞ払底しているのだな、と失礼ながら思っていたら、
彼女のリポートは「声だけ」で、顔出しはありませんでした。



各種掃海具の装備してある後甲板に隊員がスタンバイしています。
この場所は、その階に降りていくラッタルの降り口にあたりますが、
この後本職のカメラが皆ここに集合したので、わたしは一歩後ろから見ました。



はい、こんな感じです。



この手は隊司令で、「この隊員(2141番)がここからの操作します」
と説明中。
2141番さんは内心、カメラうぜーと思っていたと思います。



今から海中に投入される掃海具S-10、「えのしまくん」。
そう呼ばれているかどうかは知りませんが、便宜上そうしておきます。
他の掃海艇所属のS-10よりお目目がぱっちりつぶらで可愛いぞえのしまくん。



今からえのしまくんを海中に投じる隊員の皆さんアップ。
ヘルメットをかぶっていない人が一人いるけどいいんでしょうか。
直接作業しない人だから?



えのしまくんを進行方向を向けた形で宙吊りにし、まずクレーンを海上に突き出します。



静かに慎重に、海に浸すような雰囲気で海面レベルに設置。
決して「投下」というようなラフさはありません。

何しろこのS-10、ソナーはもちろん、海中を捜索し、その映像を
艦橋に送るカメラを搭載している上、光ファイバーのケーブルが掃海艇につながっています。

優しく、そして丁寧に海に「放してやる」といったやり方で、
波など全く立っていないことからもその慎重さがお分かりいただけるかと思います。



えのしまくんの背中から吊り降ろしたケーブルが外されました。
見ていると、そのままえのしまくんは自分で泳いで行きました。(冒頭写真)

海上自衛隊の掃海技術は世界トップレベルと言われます。
その理由は、戦後の掃海隊に始まった長年にわたる実戦の積み重ねにあります。

当初は水中処分員の人力に頼る部分が多かったのですが、危険を避けるため、
遠隔操縦・自走式の機雷処分具を使った方法が模索され始めます。
そのために防衛省技研が開発し、三菱重工が製作したのがこのS-10、
水中航走式機雷掃討具で、開発期間は1998年から2003年まででした。

Sー10というからにはS-1から始まる掃海具があるはずですね。

「海上自衛隊の装備一覧」を見ると、S-1はないのですが、

S-2 音響掃海具

S-4 初の自走式処分具

S-6 磁気掃海具

S-7 中深度用(1型)と深深度用(2型)の機雷処分具

S-8 深深度用係維掃海具

S-10 機雷探知機・機雷処分具・可変深度ソナーの機能を持つ自走式

とあり、(欠番は試作?)現在S-2以外は全て現役です。

ホーミング機雷などが現れ始め、遠隔地から機雷を掃討する必要ができたので、
自走式の掃海具が世界で開発され始めたのですが、
いずれも機雷処分機能を備えておらず、発見した機雷を処分するためには
別の機雷処分具を併用する必要がでてきました。
そこで機雷処分具と自航式可変深度ソナーを兼用できる世界初の実用機として
このS-10が国産開発されたのでした。

で、このSは、実にシンプル、「掃海」の「S」なんだそうで、
開発し、命名した人が全くこだわらなかったというか、むしろ投げやりです。

まあ、あまりにも凝りすぎて「リヴァイアサン・キラー」とか
「シーデビル・クラッシャー」みたいな中二病系に行かれるよりは好感が持てますが。


さて、海中のえのしまくん、これから何をするのでしょうか。


つづく。






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