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潜水艦「グラウラー」〜イントレピッド航空宇宙博物館

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ニューヨークの「イントレピッド」航空宇宙博物館は、
岸壁に入場するのに料金が必要です。
というのも、博物館として皆に見てもらう部分は空母「イントレピッド」だけでなく、
岸壁に駐機してあるコンコルドや、「イントレピッド」と岸壁を挟んで繋留してある
潜水艦「グラウラー」なども含まれるからです。

今回はその潜水艦「グラウラー」についてお話ししたいと思います。



チケット売り場から行くと、まずこちらが目に入ります。
潜水艦の中は狭く、人が一列になってしか通行することができないので、
当博物館では、外側に順番待ち用の簡単な建物を用意していて(冒頭写真)
20人くらいずつの団体に一人案内人が付く形で見学者をさばいていきます。
ここで待っている人たちは、これから建物の中に入ることができます。

7月のニューヨークは、もちろん日本ほどではありませんがそれなりに暑いので、
建物まで列が進んだら日差しから逃れてほっとするのですが、建物内は
どういうわけかクーラーではなく巨大な扇風機が空気をかき回しているだけ。
さらにそこから20分は並ばないとならず、なかなか大変でした。

それにしてもこの潜水艦のシェイプ、実にオールドファッションだと思いません?
「グラウラー」USS Growler, SSG-577 はグレイパック級潜水艦の2番艦で、
冷戦時代の1958年に巡航ミサイル潜水艦としてポーツマスで就役しました。



これが、グラウラーが秘密に核弾頭を仕込んで積んでいたレギュラスミサイル。
グラウラーなどの潜水艦は、まずこの核弾頭ミサイルありきで建造されました。
つまり、レギュラスミサイルを運用するために作られた潜水艦だったのです。

レギュラスミサイルがごらんのように有翼なので、それまでのタング級潜水艦では
ミサイル倉の開口部を大きく取れず運用に支障をきたすということから、
改変して、一回り大きなグレイパック級が生まれたというわけです。

レギュラスミサイルはあのF-8クルセイダーをつくったチャンス・ヴォート社、
戦後改めヴォートエアクラフト社の製造で、レギュラス(Regulus )というのは
双子座のアルファの意味です。

1954年に実戦配備され、当初は水上艦14隻、潜水艦2隻に装備されましたが、
「グラウラー」が出来るころにはレギュラスは潜水艦専門になっていました。



発射台の構造が実にものものしいのが時代を感じさせます。
二基の固体燃料ロケットブースターが発射に使われ、
アリソンJ33ターボジェットエンジンで飛行を行います。

搭載するのは核弾頭のみ。
つぶしが利かない上、潜水艦なのにいちいち浮上しないと発射できません。
ミサイルなのに飛翔速度もかなり遅く撃墜されやすいという欠点もあったため、
あっという間に弾道ミサイルに主流を譲り渡すことになります。

変わって潜水艦に搭載されたのがロッキードのポラリス型 ミサイルでした。
潜水艦発射専門の弾道ミサイルで、最初からレギュラスの後継として開発されています。

ヴォート社の「カットラスの悲劇」(笑)についてこのブログでは一度書きましたが、
この会社、何かとそういう話題に事欠かないというか、このレギュラスミサイルの件でも、
海軍はまず筋として?ヴォート社と、レギュラスの後継タイプを開発契約しております。

一応ヴォート社も頑張って、 レギュラスIIというのを開発しました。
問題だったミサイルの巡航速度は 最大速度はM1.1→M2、
射程距離はほとんど倍の925→1850km、電波妨害に対する耐性も改良して、
渾身のできだったのですが、残念なことに弾道ミサイルの敵ではありませんでした。

ちなみにポラリス型は核弾頭3基搭載で、誘導方式は慣性誘導。
そのポラリスは慣性航法装置の「ポセイドン」に変わり、そして
慣性+天則航法装置の「トライデント」へと変遷していきます。

現在現役の「トライデントII」は、潜航中の潜水艦から発射することができ、
CEP(誤射)は90〜120m。
太平洋、大西洋、インド洋のどこにいても、旧ソ連圏(もちろん中国や南シナ海もね)
を射程に収めることができます。



さて、広大な「イントレピッド」を見学した後で、実は疲労困憊していたのですが、
これを見逃したら今度いつ来られるかわからないので、頑張って並びました。
建物の外から並びだして、だいたい40分くらいでようやく中に入ることができました。

潜水艦の司令塔とレギュラス・ミサイルを見ながら一列になって進みます。



艦体が楕円形に大きくくり抜かれ、アプローチのための通路が設けられたエントランス。
もちろんこれは博物館展示用に大幅な改造が行われたものです。

実は「グラウラー」が展示されるようになったのは2008年と比較的最近です。
1980年には除籍され、標的艦となって海没処分になるのを待つ状態でした。
しかしどういう働きかけがあったのか、下院議会の決議により、所有権が
「イントレピッド」航空宇宙博物館の館長に譲渡されることになりました。

しかし展示のための改修は困難を極めました。
長らく放置されていたせいで、艦体はさびつき、大きな穴まで空いていたのです。
このくり抜かれた部分にできた穴だったらよかったのですが。(一応冗談)

しかし、そこで決してあきらめないのがアメリカ人。
修理費が100万ドルと膨れ上がりましたが、それでもなんとか展示にこぎつけ、
各方面の努力粉塵の甲斐あって、「グラウラー」は展示艦として往年の姿を止めているのです。

皮肉を言うわけではありませんが、五体満足だった飛行機も錆びつかせてゴミにしてしまったり、
アメリカがモスボールで保存してくれていた飛行艇をようやく引き取っても、
政治が事業仕分けして存続の危機となったりと、その手の文化財保護には
全く情けない状態であるどこかの日本なら、おそらく費用の段階で頓挫していたことでしょう。



サンフランシスコの港で見学した、大戦中の潜水艦「パンパニト」とは
ずいぶん作りが違っていてよくわからなかったのですが、
艦体を輪切りにして、そこの通路を設け、入り口にはガラスのドアを設置したようです。




ガラス戸の設けられた部分の左側に、こんな丸いドーム状のハッチがありました。
これは、状況的に考えて、ミサイルにつながる通路その1?

 

というか、ここが巡航ミサイルのミサイル倉その2だったりします?
おお、よくよく見ると、床にはミサイルを運ぶためのレールがあるぞ。

前の人に続いて、このミサイル倉(推定)を見ながら左に入っていきます。
すると、



こっ、これは・・・・・!
右側に展示されていた部分とほとんど同じトンネルがここにも。
エスカレーターのような通路が設えられたこの部分、もしかして今わたしたち、
ミサイル倉その1の中を歩いていますか?

丸いドームはミサイル倉その1の蓋をした状態だったってことなんでしょうか。



このミサイル倉の壁面には、かつて潜水艦「グラウラー」の乗組員だった
海軍軍人全員の名前の刻まれたプレートが架けられていました。
艦長だったとかはもちろん、海軍の階級も一切なく、ただ名前だけです。



一度に入るグループは、このミサイル倉に一列で並んで端から端までの人数。
仕切りの外側に立っている女性は、このグループを率いツァーを行います。

ただし、説明らしい説明はこの時だけでした。
なぜかというと、潜水艦の中は狭く、1列でしか進行できないので、
皆に説明することなどとてもできないのです。

ただ、艦内を進んでいくと、一人の老人が(どうやら元クルーらしい)いて、
「何か質問があったらわたしに聞いてください」と言っていました。

わたしも何か聞きたかったのですが、何を聞いていいかわからないまま
列が進んでしまい、しかも周りの誰もが同じ状態でした。



ミサイル倉(推定)の突き当たりまで進むと、左に下層階に降りる階段があります。



魚雷調整用のユニットコンソールが左側に。
 

 
windlass lubrication、(巻上機の潤滑油)という文字も見えます。
ダイヤルが大きい!



さて、魚雷調整室のすぐ隣が寝台、というコージーな作りも潜水艦ならでは。
ベッドのシーツがくしゃくしゃで畳まれてもおらず、今起きた風なのは
演出なのかしら。
いずれにしても我が海上自衛隊の艦艇では、こんなことはあり得ません。



みんな無くなっていますが、小引き出しのたくさん付いた物入れ。
まさか乗員一人に一つづつ?



と思ったら全く使用用途のわからない器械。
アップにして計器の文字を読んでみようとしたのですが、艦内が暗くて
思いっきり写真がぶれており、それも不可能に( ;  ; )

 

潜水艦の海図台でしょうか。
軍艦で言うところの航法室とか、チャートルームに相当するコーナー。 

まるでオブジェのように美しく設置されたコードや管の類。
そこに「グラウラー」の内部説明図がありました。



ふむふむ、やはりわたしたちが入ってきたのは「ミサイルハンガー」、つまりミサイル倉。
ミサイル倉の奥の階段したのはトルピード(緑の部分)が設置されてたようです。 

先ほど見た魚雷調整盤は、ここの魚雷のためのもので、艦内にはAFTつまり後部にも
2基の魚雷発射管が装備されています。
私たちが今見ているのが、「ナビゲーション」。 



で、ここが「グラウラー」の存在目的である巡航ミサイルの操作室。
「ミサイルチェックアウト&ガイダンス」センターです。



ガイダンスというとまるで入学時の案内みたいですが、ミサイル誘導のことを
「ミサイルガイダンス」といいます。
チェックアウトは・・・・発射よね? 



Missle coaxial、つまりミサイルのケーブルですとさ。
しかし、さすがは1950年代の武器、当時は最新式でも、
今見ると家電のスイッチのようなほのぼの感が漂ってアナログ感満載です。


さて、次はofficer's quaters、すなわち士官居住区です。


続く。 

 


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