1年前の見学の話が終わらないうちに
またアメリカに来ていて、しかもニューヨークの近くにいるわけですが、 今回
博物館である「イントレピッド」の繋留してあるピアに駐機してある
コンコルドの話をすれば、「イントレピッド航空宇宙博物館」の話は終わりです。
「イントレピッド」のある86番桟橋をグーグルマップで上空から見ると、
大変目立つ三角形のコンコルドの姿が確認できます。
わたしたちは広大な「イントレピッド」の艦内をとりあえず甲板の航空機から初めて
艦橋と艦内展示(カミカゼショー含む)まで一気に見学しました。
貼り忘れた写真その1、バブルキャノピーの陸軍ヘリ。
この近辺の展示は艦内の「バンク」、乗組員のベッドや機関銃など、
触って乗れる体験型となっています。
子供達は大喜び。
貼り忘れた写真その2、このカプセルの中にコクピットのように収まったら、
Gを思う存分味わえる「Gショック体験」。
何が悲しくてこんなものに入って意味なく振り回されなくてはいけないのか。
ということで、わたしどもは体験を辞退しました。
さて、このあたりで大変お腹がすいてきました。
艦内にはレストランもあるということだったので、そこに行ってみたら、
元「イントレピッド」のgalleyを利用したレストランは営業を中止しており、
仕方なく外にでてきました。
そこには二台のホットドッグ売りの車が店を出しており、
長居する見学者はここしか食べるものがないので、皆並んでいます。
まあ、アメリカ人にとってはそう悪くないレベルの食べ物かもしれません。
わたしどもも、この際、衛生、味、栄養、コストパフォーマンス、添加物の危険、
そういったことをひとときだけ忘れ去ることにしました。
窓口で一応チーズをどうするかとか、ベジタリアン用のソーセージにするかとか、
(アメリカでは、ほとんどのハンバーガー屋で必ずソーセージやハンバーガーのパテそっくりの
得体の知れない代替肉があり、どうしても肉が食べられない人に配慮している)
そういう注文を受けて、チョイスすることはできます。
さて、これをどこで食べるか、なんですが・・・。
「みんなコンコルドの下に行ってるね」
「なんと、コンコルドを屋根に利用して休憩所を作ったんだ」
ニューヨークの夏は普通に暑いですが、日陰に入れば蒸し暑いことはないので、
皆ここで気持ちよさそうに休憩しています。
行ってみると、巨大なコンコルドの翼の下は、その形が幸いして
ちょうどいい日陰を作っており、しかも高さも十分。
日本の感覚では違和感がありますが、合理的なアメリカならではのアイデアです。
テーブルの向こうには、アフリカ系の親子がわたしたちと
同じところで買ったホットドッグを食べていました。
味は・・・・まあ多くは申しません。
地面に機内へ続いている電気コードが這っていますが、コンコルド機内は
現在も公開されていてツァーで中を見ることができるので、
パネル操作や空調その他、まだ電気を必要とするのでしょう。
わたしたちも一度はコンコルドに乗ろうと料金を聞いたという縁もあることだし、
(ボストンからパリまで一人100万円と言われて即座に引き下がった)
ぜひ一度は中を見てみたいものだと思ったのですが、時間が合わず涙を飲みました。
ツァーにはさらに別料金が必要で、45分間の間みっちりと、おそらくは
コンコルドの憧れの客席に座って話を聞いたり映画を見たりするのでしょう。
もし今年もnyに行くことがあればぜひ中を見てみたいものです。
コンコルドをこんな間近すぎるくらい間近で見られる(というか下でものを食べられる)
というのも、ここでしか味わえない贅沢な経験かと思われます。
アメリカ国内にコンコルドの機体は3機展示されているのですが、1機はスミソニアンに、
もう1機はシアトルのボーイング博物館で、いずれも室内展示。
もちろんこのようなよく言えばおおらか、悪く言えばぞんざいな扱いはしていません。
ちなみに、20機作られたコンコルドは、事故で失われた1機と解体処分になった
1機の合計2機をのぞいてすべて現存していますが、フランスに6機、英に6機、
ドイツ1機、なぜかバルバドス1機、スコットランド1機という内訳です。
ご存知の通りコンコルドは、ブリティッシュ・エアウェイズとエール・フランスの
共同運行による史上唯一の超音速旅客機で、大西洋を2時間で結ぶという
「特権階級の」乗り物でした。
客席は全部で100席、そのどれもが「ファーストクラス」で、
お値段的にも他社のファーストクラスの2割増しの料金というもの。
航行するのは6万フィートの上空。(通常の旅客機は3.3万フィート、1万m)
速度は毎時1350マイル(2150km、通常の旅客機は800km少々)規格外の旅客機です。
コンコルドは未来の飛行機の先駆けをうたって華々しく登場しましたが、
ソニックブームが環境問題を引き起こすということや、長い滑走を要すこと、
燃料の問題で思ったほど(というか全く)他国に売れなかったことで、
客単価がいつまでたっても安くならず、経営に苦しんでいたところに
フランスでの墜落事故が起こったため、即時飛行停止から退役を余儀なくされました。
わたしもあの事故が起こったとき、やはり先駆というのは技術が完成していないが故に
こういう犠牲を避けられない宿命なのだなと思ったものですが、
現在、事故の原因は機体の不調でも整備ミスでもなく、離陸時に滑走路に落ちていた
コンチネンタル航空の飛行機から脱落した部品をタイヤが踏んでバーストし、
タイヤ片が主翼下面に当たり燃料タンクを破損、直後に漏れ出た燃料に引火、
そのまま炎上したという完璧な「もらい事故」だったということになっています。
しかし前述の理由で集客に苦労していたところに、同時多発テロが追い打ちとなり、
コンコルドの歴史はわずか27年で幕を閉じたのでした。
飛行機後尾に見える「G-BOAD」のマークは機体登録番号で、この機体は
シリアルナンバー102、初飛行は1976年の8月であったとなっています。
記録によると、一時シンガポール航空と共同運行されていたので、機体の色は
一時塗り替えられていたということです。
まだコンコルドが飛んでいた頃、わたしはアメリカ=ロンドン間で
ブリティッシュエアに乗りましたが、そのとき機内で、
7センチくらいのダイキャスト製のコンコルドの模型を記念に買いました。
コンコルドの形態を忠実に模して、先端が前も後ろも針のように尖っていたので、
当時幼児だった息子の手の届かないところにいつも置いていたのを、
この写真を見て思い出しました(笑)
搭載していたエンジンは、
ロールスロイス・スネクマ・オリンパス 593
オリンパスは軸流圧縮式ターボジェットエンジンです。
昔このブログでイギリスの「アブロ・バルカン」について話したことがありますが、
もともとオリンパスエンジンはこのバルカンのために開発されたものです。
バルカンが開発中止になったので、RR社はコンコルドのために切り替えました。
オリンパスは自衛隊とも縁があって、古くは「ゆうばり」型護衛艦、「いしかり」、
「初雪型汎用護衛艦、「はたかぜ」型が、船舶用のオリンパスエンジンを搭載しています。
ちなみにスネクマというのはフランスの航空エンジン会社で
Société Nationale d'Étude et de Construction de Moteurs d'Aviation
「航空機用発動機研究製造国営会社」の略。
決して「拗ねクマ」ではありません。
コンコルドの翼の下から見る「イントレピッド」後部。
いろいろと増築しているのでもはや空母には全く見えません。
ここに昔は海軍旗が毎朝毎夕掲揚されていたのだと思われます。
今は海軍艦ではありませんので、ここにはアメリカ国旗が翻ります。
コンコルドの日陰に座って、日がなハドソンリバーを眺めるのも
粋なニューヨークの過ごし方のような気がします。
同じような色調のアパートが立ち並んでいるので、地域的には
それほどアッパーでない層が住んでいるのかと思われます。
特に奥の二つのアパートは、いかにも中間層の住宅っぽい。
川面を眺めていると、いろんな船が通ります。
これはわたしには全くわかりませんが、機械などを運んでいる船?
ところで、ここからハドソン川の下流に向かったところに、
例の「松明を持ったレディ」のいるところがあり、そして、あの
同時多発テロの悲劇が起こったワールドトレードセンターのある地域があります。
あの事件が起こった時、「イントレピッド」は博物館を閉館して、
代わりに長らくFBIの指揮所が置かれていました。
館内は「お泊まりツァー」のために宿泊施設がありましたから、おそらく
職員はずっと艦内で寝泊まりしていたのかもしれません。
その関係なのかどうかはわかりませんが、ここにはこんな碑があります。
なんの加工もされていない、錆びるがままに任せた、鉄の巨大な板。
それはかつてのワールドトレードセンターの二つのビルを思わせます。
これは、ワールドトレードセンタービルを形作っていた鉄鋼のフラグメントです。
なぜ事件後FBIがここに引っ越してきたかというと、そのFBIオフィスが
ワールドトレードセンターの近くにあって潰れた
からだそうです。(ここの説明によれば。)
実際はFBIのあったワールドトレードセンター7は、航空機が突入したわけでもないのに
しかもツインタワーと道を隔てて離れているのに、事件から6時間も後に崩壊しています。
わたしは「グラウンドゼロ」と言われていた頃の現場を見に行ったことがありますが、
他のビルが全く無事なのにWTC7だけがまるで解体爆破のように倒壊した理由は
現場の位置関係からいっても不思議な現象だなあと思いました。
事件後、アメリカでは、報道の現場の人間が7号棟崩壊に触れたくても、
会社のトップの許可がないといけないので、実質腫れ物扱いになっているそうです。
なぜかな〜?
という挑発的な話をしだすと、またコメント欄が荒れるのでこの辺にして(笑)
ともあれ、このせいで、当時の「イントレピッド」では500名ものFBI職員が
連日ここでお仕事をするという異様な状態になりました。
いきなり倒壊したオフィスには当時誰もいなかったので全員無事だったってことですか。
そりゃめでたい。
さらなるテロに備えて皆どこかに避難でもしてたんですかね。
このモニュメントは、いわばFBIから博物館への「お志」とでもいいましょうか。
その節はお世話になりました、というほんの気持ちが含まれているそうです。
「イントレピッド」博物館は、ブロードウェイや5thアベニューに車だとすぐ
(混んでいなければですが)いけるような大都会に、このような軍事博物館が、
しかも連日盛況のうちにオープンしているという意味で世界でも特異な存在と言えましょう。
イントレピッド甲板から隣のビルにヘリコプターが降りていくのを目撃。
これもニューヨークならではの眺めです。
ところで本日タイトルの「コンコルド・シンドローム」の意味ですが、
すでに失敗したものとみなすべき事案について、過去の投資を惜しんで
無益な埋没費用を費やし続ける現象を指す心理学・経済学用語で、
コンコルドの商業的失敗に由来しています。
人間は精度の高い未来予想をすることができず、経験からその投資が
無駄かそうでないか、判断するわけですが、
なまじその投資が大きくなればなるほど、無駄であることを認められなくなり、
「今までの投資が足りなかったのでは」「もう少し投資すればなんとか」
という心の声に従って引き返せない深みにはまってしまうということ。
事件からまだ20年にもならないのに、
すでに未来永劫この症候群に名を残すことが決定とは。
コンコルドという飛行機は、栄光と名声の地位から
真っ逆さまに墜落してしまったんですね。
そのきっかけが滑走路の異物だとしたら、
それはあまりにも大きな”躓き”だったという気がします。
イントレピッド博物館シリーズ 終わり