映画史にその名を残さなかった(笑)スピルバーグの「1941」。
その世間的な評価は決して高くないものの、前回から検証するように
この映画には「わかる人にはわかる」隠しネタが散りばめられています。
特にアメリカ人であれば、わたしが今回検証して知ったことだけでなく、
いたるシーンからそれらを簡単に見つけることができるのでしょう。
しかし、1975年当時、この映画を映画館で見た日本人のほとんどは
そういうギミックについて知る術もなく、したがって、
単におふざけと悪ノリのすぎる駄作と評価したとしても仕方ありません。
ただでさえ、英語字幕では、ネイティブならわかるツボが
(笑いに限らず)全く伝わらないのが翻訳物の常なのです。
というわけで、前半検証してきて、すっかり映画に好意的になったわたしですが、
それでもアメリカ人にすらそれほどウケなかったという理由について
何度も繰り返して観るうちに(いやこれがなかなか大変で)確信を持ちました。
その一つが、盛り沢山すぎる人間関係と、これなんのために出てたの?的な
キャラクターのあまりに多いことです。
とくに、白人の娘と、彼女の恋人であるダンサー、娘に惚れて
しつこく追いかける戦車中隊の伍長、さらにそれを追いかけ回す女性、
という恋模様は、文字通り物理的に追いかけあうドタバタですが、
見ていて5分で飽きてくること請け合いです。
さて、続きと参りましょう。
西海岸ではおりしも、太平洋戦線に投入される兵士たちが
壮行会を兼ねたダンスパーティが開かれることになり、
地元の若い女性がUSOに集められて、彼らの慰安を命じられます。
「ミスなんとか」と呼ばれるマナー講師みたいなおばちゃんが、
女性たちに居丈高に言うには、
「パーティに民間人男性の入場は禁止、女性は全て、
彼らの士気を高めるために貞操観念は捨てること」
「好みのタイプじゃない兵隊さんにも優しく微笑むこと」
「下品な人とも上品に会話すること」
「体にタッチされても我慢して踊ること」
ヒロイン、ベティは、父親からも遠回しに
「彼らを楽しませてやれ」
と因果を含められて嫌な顔をしたばかり。
彼女には軍人ではない彼氏がいるのですから当然ですね。
そこに目を血走らせた兵隊たちが雪崩れ込んできました。
しかし、逆に彼らに目の色を変える女の子もいます。
「あいつら、ウォーキーカーキーだ」
ウォーキーカーキーとは、軍服フェチの女性のこと。
当時、時節柄軍服を着ていれば女の子にモテモテでしたが、
逆に軍人に嫌われるファッションというのがありました。
ベティの彼氏、ウォーリーはめかしたズートスーツで
会場に乗りこむものの、軍服の群に摘み出されます。
そして喧嘩が始まってしまうのですが、これは、実は
「ズートスーツ騒乱」という歴史的な事件を元にしています。
ズートスーツというのは、ハイウエストで裾の広いカフ付きのペグパンツ、
幅広のラペルと肩幅の広いロングコート、帽子の組み合わせで、1940年ごろ、
アフリカ系、ラテン系、フィリピン系、ヒスパニック系アメリカ人の間で流行りました。
つまり、これを着ているイコールマイノリティということでもあったのですが、
白人系と軍人は、彼らへの差別もあって、非常時に多くの布を使う
この手のスーツを着るのは非国民だと非難し、小競り合いが頻発していました。
そんな1943年6月、事件は勃発しました。
その直前に起こったズートスーツ族(パチュコ)が起こした殺人事件がもとで
ヒスパニック系移民への反感が高まりつつある中、一部の水兵が
パチュコを「制裁」したのがきっかけになりました。
兵士、水兵、便乗した白人がズートスーツを着ている若者を
かたっぱしから引きずり出して暴行を加え始めたのです。
ところが、当時の地元マスコミは、この暴行を非難するどころか、
「クレンジング(洗浄)効果」
と呼び、
「ロサンゼルスから悪党と愚か者を排除するためだ」
と称賛しました。
議員ですら、
「ズートスーツは今や愚か者の目印になった」
などといい、ズートスーツの着用も禁止されたのです。
しかし、当時敵国人である日系を収容所に放り込んでいたため、
労働力の多くを安価なヒスパニック系に頼っていたカリフォルニアでは
たちまちメキシコとの関係に困り、さらにはエレノア・ルーズベルトが
事件1週間後に非難声明を出したこともあって、政府は
事態の早急なる収束を余儀なくされます。
中には、どさくさに紛れて、
「これは米国とラテン系の不破を煽るナチスの機関の工作だ!」
という「人のせい」で治めようとした専門委員会もあったとか。
なんでもかんでもナチスのせいにしてんじゃねー(笑)
というわけで、この騒乱が男女の追っかけっこを交えて延々と
続くわけですが、冒頭イラストにも書いたように、
はっきりいってこの人たち、映画そのものにまるっといらなくね?と
わたしなどは思ったりするのです。
また、当時は人種差別ネタも今からは想像もできないくらい露骨で、
差別を描くためだけにキャストされたらしい黒人兵は、
白人から顔に白いペンキを塗られたりしております。
今これをやったらどんなことになるのか((((;゚Д゚)))))))
っていうかこれも全然笑えないんですが。
ところで、ジョン・ウェインとチャールトン・ヘストンから断られたという
ジョセフ・スティルウェル少将の役ですが、アメリカ人から見ても
これは似ていると言われているようです。
いうほどかね、と思ったりしますが、ジョン・ウェインよりは似てるかな。
で、今宵スティルウェルがやってきたのは映画館。
大好きなディズニーのアニメ「ダンボ」を観ようっていうのです。
丘の上からの伝令が、
「山上のマッドックス大佐が(イラストの少佐は間違い)
敵らしい怪しい動きを発見したというのですが」
と伝えても、
「大佐は『マッド』だからな」
の一言でスルー。
いそいそと映画館に入っていきました。
「ダンボ」については全てのセリフを暗記しているほどです。
そして涙を・・・・。
スピルバーグはこのシーケンスをスティルウェルの
回顧録からヒントを得たと語っているそうですが、その映画が
本当に「ダンボ」だったのかどうかは謎です。
しかし、ジョン・ウェインが断るはずだわこの役(笑)
さてさて、ズートスーツ騒乱と並んでこの映画の核を成しているのが、
実際に起こった、
「ロスアンゼルスの戦い」
です。
映画館に入る前に、伝令がスティルウェルに伝えたのは
「上空に飛行物体が多数出現した」(かもしれない)
という情報でした。
海戦直後の日本軍潜水艦による通商破壊作戦も功を奏し、
西海岸一帯が、この映画でも随所に語られているように
「第二の真珠湾」に戦々恐々としていた、1942年2月のことです。
ルーズベルト大統領は、もし日本軍が空襲を行なってきたら
大規模な上陸は避けられないとして、ロッキー山脈で、
もしそれに失敗したらシカゴ中西部で阻止することを計画していました。
潜水艦の進入に備え、防潜網や機雷を敷設し、防空壕を作り、
ガスマスクを配布するなどということがなされました。
こうして書いてみると、どう見ても日本の戦力を買いかぶっていた、
としか言いようがないのですが、それだけ真珠湾攻撃とは
アメリカ人に驚天動地の大衝撃を与えたということでもあります。
何しろ西海岸では、遊園地、映画館、ナイトクラブの夜間営業を停止し、
灯火管制まで行なっていたのです。
本作で、最後に子供が照明のスイッチを入れてしまい、
観覧車を含むその辺一帯があかあかと照らされるシーンがありますが、
これは、当時遊園地が営業停止になっていたということを表します。
しかし、そんな厳戒態勢下にもかかわらず、日本の潜水艦による
サンタバーバラ石油施設への十三発の砲撃は実際に行われました。
このとき、アメリカ軍は潜水艦に対してなんらの反撃もできず、
やすやすと施設の破壊を許してしまったといいます。
それが2月23日の夜のことです。
翌2月24日夜、未確認飛行物体がカリフォルニア南部で確認され、
連続して警戒警報が発令されました。
海軍のインテリジェンス機関は、10時間以内に攻撃が始まると予想し、
警戒態勢に入りましたが、攻撃はなく、アラートは解除されます。
しかし、翌25日の早朝、陸軍のレーダーは、ロスアンゼルス沖
西120マイル地点に機影を認めた「気」がしました。
0215、対空砲は発射大破準備完了、迎撃機を地上に待機させ、
レーダーは近くターゲットを追跡し、灯火管制を行います。
その後、忽然となぞの物体はレーダーから消失します。
なのになんということでしょう、情報センターには
「敵機来襲」
の報告があちこちから殺到するのです。
例えば、この映画で取り上げられたのは、沿岸砲兵部隊の大佐が
「ロスアンゼルス上空1万2千フィートに敵機約25機」
を発見したというこの時の事実に基づいています。
映画でのスティルウェルは
「ああ、マッドなマドックス大佐か」
と情報を一蹴しましたが実際には迎撃が行われ、
「サンタモニカに気球が襲来し、四連の対空砲が発砲した」
「その際、ロサンゼルスの空気はまるで火山のように熱かった」
という報告がなされています。
しかし、実際にはそれらは全て誤報でした。
戦後になって日本側から、そのころ航空作戦は行われていなかった、
という証言が得られたので、空襲が勘違いだったと実証できたという有様。
今では、サーチライトに捕らえられた対空砲の破裂そのものが
敵機と間違えられたのではないか、ということになっているようです。
全て壮大な疑心暗鬼が作り出した幻影だったということになりますね。
後日、ロスアンゼルスタイムズは写真に「未確認飛行物体が写っている」
として、
「地球外生物、UFOが襲来していたのではないか」
という説を挙げたのですが、これはタチの悪いいたずらで、
素人にもわかる修正が加えられていたのだそうです。
いいのか(笑)
しかし、残念ながらこの騒ぎの渦中、興奮して心不全を起こし、
少なくとも一人が亡くなり、一人が投下管制された暗い道で
交通事故を起こすという悲劇があったそうです。
リメンバーパールハーバー(笑)
さて、ズートスーツ関係の喧嘩はいったん収まりました。
ウィリーは友人のハービーが海兵隊の貸衣装を身に付け、
女の子にモテモテなので、一人の水兵のセーラー服を強奪し、
自分も偽軍人になって堂々とベティとダンスを。
もともとダンサー志望ですから、彼らは注目の的。
そこで天敵シタルスキ軍曹に殴られ、さらに軍服を盗んだ相手に殴られ、
それがなぜか陸軍対海軍の戦いに発展してしまいます。
海兵隊はどっちだったの?海?
さて、こちらは敵機を発見したという山頂の防衛軍基地です。
飛行機に乗ると欲情する元カノ、ドナをその気にさせようと、
スティルウェルの副官は、山頂にあったリベレーターをうまいこといって
ろくに操縦もできないのに借り出すことにせいこう、いや成功。
まさかと思っていたのに本当に飛んでしまいます。
一方戦車隊のダン・エイクロイド演じるトゥリー軍曹は、
USOで起きている喧嘩を止めるために戦車を出動させました。
争乱の最中、トゥリー軍曹はいきなり無反動砲をぶっ放します。
ここのところ、字幕に翻訳されていないセリフを翻訳しておきます。
「なにをやってるんだ!?
トージョーの群れみたいに騒ぐんじゃない!
貴様ら、ヤマモトをホワイトハウスに招待するつもりか?
枢軸の連中はスライムみたいにヨーロッパを這い回ってるぞ!
信じられない、アメリカ人同士が戦ってどうする!
まるでフン族の集まりじゃねーか!」
「勘違いするな!ジャップは決して降伏しない。
彼らの考えがわかるか?
諸君や諸君の家族、母親を、恋人を、ペットを殺し、
世界征服まで殺し続ける!」
「みんな、サンタクロースが好きか?」
「いえ〜」\(^o^)/
「日本人はサンタを信じてない!」
「の〜!」👎
「クリスマスケーキの代わりに生魚の頭や米なんて食えるか?」
「の〜!」👎
「ドイツ野郎(クラウト)はディズニーを信じてると思うか?」
「いえ〜!」\(^o^)/
「え〜と、じゃフランスのブリッツクリークはミッキーマウスがやったのか?」
「の〜!」👎
「ポーランドはプルートがやったか?」「の〜!」👎
「パールハーバーはドナルドダックか?」「の〜!」👎
訳がわかりませんが、演説大ウケ。
何を言っているか全く意味不明だけど説得力だけはある。
こういうのが「カリスマ性」というんでしょうか(棒)
ちなみに、実際の撮影の際、これらの騒乱シーンはあまりにも煩くて、
スピルバーグ監督の「カット」が皆に全く聞こえなかったので、
監督はアクションを止めるため、このときの軍曹が手にしていた
プロップ機関銃を、ダン・エイクロイドのようにぶっ放したそうです。
続く。