さて、マサチューセッツはクインシーにある重巡「セーラム」見学。
メインデッキの一階下にあるセカンドデッキには、医療施設の他に
乗組員の胃袋を満たす食堂施設も全て集中してあります。
ここは士官用のキッチン、「オフィサーズ・ギャレー」です。
階級ヒエラルキーが大きな意味を持つ軍艦の中では、士官とその他の扱いは
例えばキッチンも別、というようにきっちりと分けられています。
これは「コンスティチューション」など帆船の時代からのしきたりで、
一つ間違って船員の造反が起こったら船全体の危機にも繋がるため、
指揮系統と命令伝達をピラミッドのように統制し、あえて身分差をはっきりさせて
平等感を無くしてきたことから始まっています。
海上自衛隊にもこれはきっちりと受け継がれており、さして広くない自衛艦でも
幹部用と曹士用の調理室は別になっているのが普通です。
アメリカでは大きな軍艦はさらに「ウォーラント・オフィサー」という
ベテランの専門家である准士官の待遇を特別にしています。
日本だと「准尉」がこれに当たりますが、人数が少ないせいか、
アメリカ海軍が「スペシャリスト」という位置付けなのに対し、自衛隊は
「士官の補佐」という職種わけとなっているせいか、アメリカほどの
「特別待遇」はされていないように見受けられます。
スープなどの鍋でしょうか。
下士官兵は並べられたフードウォーマーから自分で好きなものをとりますが、
士官の場合は全てテーブルセッティングのうえ、陶食器でのサービスとなります。
同じギャレーを反対側から見たところ。
この区画は、「セーラム」が展示されるようになってからしばらくして、
地元のボーイスカウトがボランティアで整備、清掃を行って、
展示室としてみられるようにしたということです。
なんと専用の肉切りテーブルが!
アメリカの空母では毎日牛三頭が消費されると聞いたことがあります。
まあ基本肉食人種が3000人から多くて5000人乗っていれば、
それくらい楽勝で食べてしまうんでしょうけど。
たかだか300人の乗員しかいない「セーラム」でも、肉切りテーブルが必要なくらい
毎日肉が消費されてたってことなんでしょう。
こちらはメインギャレー。
兵員用のキッチンで手前のトレイに列を作り食べ物を取っていきます。
「セーラム」はボーイスカウトはじめ、誕生日パーティの貸し出し、
あるいは「ゴーストシップ企画」(笑)などでオーバーナイトをしているので、
この多人数用のキッチンは未だに稼働しているらしく、
電子レンジやコーヒーメーカーなど、最近揃えたらしい機器が見えます。
大型冷蔵庫に右側はベーグルトースター。
アメリカでは普通にある回転式のパン焼き器です。
グラス、ポーセレンのカップなど、割れるものを固定するラック。
大型のミキサー(グラインダー)はもうお役目が済んだようです。
そしてここは士官用食堂。
「セーラム」は士官の数が多いので、個室ではなく大きな食堂があります。
薄型のテレビもありますし、今も使われている模様。
こちらも士官用食堂です。
この雑駁な感じが、士官用とは思えないのですが、大型艦なので
士官だけでも結構な人数がいたということなのだろうと思います。
こちらがクルーズ・メス、乗員用の食堂。
こちらと比べれば壁の装飾やテーブル、椅子に違いがあるのがわかりますね。
乗員用食堂はだいたいどこでもそうですが、バーベット、つまり
砲塔の丸い壁の周りに置かれています。
今でも集会に使われるので、簡易椅子が積み重ねて置いてありました。
キッチンの一部。ゴミは黒いゴミ入れへ。
ここにも大きな釜があります。
ラックの形状を見るとここはベーカリーでしょう。
自衛艦ではさすがにパンを艦内で焼くことはないと思いますが、
アメリカではパンが主食なので、ここがなくては始まりません。
自衛艦ではどんな小さな艦艇、潜水艦でも掃海艇でも、
ご飯をたく大きな炊飯器だけは必ず搭載していますが、これは
パン食の人種にはなかなかびっくりされるのではないかと思います。
手前のトレイに食後の食器を置いて、奥で洗います。
左側は食器洗い&乾燥機である模様。
排水溝に繋がっている穴のうえにじょうご状のものをセットして
食べ残しや飲み残しを廃棄したのだと思われます。
メニューが貼ってあります。
「ジェネラル・メス」 とあるのですが、「ジェネラル」は「一般の」という意味?
まあ、海軍にはアドミラルはいてもジェネラル(将軍)はいませんから、
そういう意味だと解釈します。
本日のスープ
グリルドビーフ・ステーキ
グレービー
グリーンビーンズ
スライスド・オニオン
シェフズサラダ
フルーツジェロ
パン、バター、飲み物
ある日のメニューはこのようにありますが、これはメニューというより
材料ではないのか?という気もします。
まあ、一品ずつ分けて書くとたくさんあるように見えますからね。
小皿にちょっとした一品を取り分けて皿数を増やし、
食卓を賑やかに見せるのと同じようなものですか。
その下にはどういうわけか、サラダのメニューだけが番号とともにあります。
おそらくレシピがこの番号で管理されているのでしょう。
ウォルドーフ・サラダ (ウォルドーフ・アストリアホテルが発祥と言われ、
リンゴやナッツ、セロリ、マヨネーズのドレッシングを用いて作られるサラダ)
とかはわかるのですが、「レタスサラダ」とか「オニオンリング」も
一応レシピがあるみたいです。
左から朝昼晩のメニュー。
朝 冷たいフルーツジュース
朝食メニューから選択
ジェネラルメス・ペストリー
トースト コーヒーかお茶
昼 イギリス風仔牛のカツレツ
リヨネーズポテト
グリーンビーンズ炒め
エッグカスタードソース添え
夜 トマトクリームスープ
アソーテッドテーブルレリッシュ
ポークチョップバーベキュー
FFコーン炒め
ほうれん草蒸したの
アップルソースとココナッツクリームパイ
うーん、これは美味しそう。
それからアメリカらしいなあと思ったのが、
「右舷側はピーナツバターのライン」
「左舷側はアレルギーのライン」
という貼り紙が子供のお泊まりの朝食用にでかでかと貼ってあること。
アメリカの子供はお弁当にピーナツバターパンをよく持たされたりして、
ピーナツバターの食に占める割合が大きいのですが、それだけに
アレルギーに対しては驚くくらい神経を払います。
逆にいうと、子供のピーナツバターアレルギー、多いんですね。
息子が行っていた幼稚園は共同経営の形をとっていて、お遊びの間に
危険がないか見張る当番が週に一回回ってきたり、自治会も親が運営していたし、
スナックタイムも、その日の当番の母親(月一回くらい回ってくる)が
自費で全員のおやつを用意することになっていました。
わたしは張り切って、いつもいろんなものを用意して行ったため、
先生に「彼女はスナックママの”プロ”よ」と絶賛されたくらいでしたが(自慢)
このとき「スナックに持って行ってはいけないリスト」の筆頭が
ピーナッツバターであったことは印象深い思い出です。
キッチン廊下の壁には9つのポストがありました。
「セーラム」に乗務していたシェフは全部で9人。
これはそれぞれ在庫をチェックし調理に必要な食材をメモして
ここに入れ、調達をする部署がこれを元に食材を調達したということです。
「ゲダンク」というのは海軍特有の隠語で、ソーダファウンテンのことです。
その語源については戦艦「マサチューセッツ」で詳しく説明しましたが、
簡単にいうと
1、 ベンディングマシーンの操作音が「GEE-DANK」と聞こえるから
2、当時のマンガ「ハロルド・ティーン」の主人公ハロルドが、
食べていた「ゲダンク・サンデー」から
3、中国語。 ”Place of Idleness" (怠惰の場所?)
ということです。
ここにもゲダンクの語源についてのいくつかの説明があったのですが、
わたしが以前調べた上記の説と少し違っていたのは
「ハロルド・ティーンの行きつけのお店はシュガーボウルと言ったが、
なぜかハロルドはここをゲダンクと呼んでいた。理由はわからない」
とあったこと、それから新説として
4、 ドイツ語で「TUNK」はグレービーやコーヒーを垂らしたりする意味があり、
DUNKINGというのはパンなどを液体にひたすという意味があるが、
そこまで行かずとも「少し柔らかくする」という言葉で
DUNKほどではない、 TUNKくらい、と言ったのが語源とする説
GE-とついているのはドイツ語であることを強調する意味でつけられ、
GE-TUNK →GEDUNK と変わっていったのではないかと言われる
まあ・・・いずれにせよ答えの出る話ではないので、アメリカ人も
色々と推測して楽しんでいるのかなといった感じを受けます。
このポスターには
「映画が始まる前にゲダンクに用意してある飲み物とスナックをどうぞ」
と書かれています。
さて、映画は士官、CPO、兵員の各食堂などで行われるわけですが、
その前にリフレッシュメントをゲットするゲダンクの冒頭写真を見て
何か気づきませんか?
画面左の方です。
"KILROY WAS HERE" IS HERE !
続く。