今年もまたボストン滞在中に美術館に行くことができました。
ボストンではどうしてもここで食べておきたい!と思うレストランの一つが
この美術館の中にあるので、食事をしに行くついでに?美術鑑賞しようという感じ。
実にイージーな美術館の利用法ですが、アメリカ人にとってこれが普通です。
世界に冠たるコレクションを誇る美術館なのにやたらと敷居が低く、
明らかに日本におけるそれとは違って訪れる人の層が広いのがボストン美術館。
独立記念日前の週末というこの日、ボストンでは大雨が降りました。
どこかに行こうかという話になったとき、わたしたちは
「雨がひどいし、こんなときには美術館でしょう!」
といかにもいいこと思いついた!みたいなノリで来て見たら、
嗚呼考えることは皆同じ、美術館前で車を預かってもらうバレーは
もうとっくに許容量を超えて預かりを締め切っている状態でした。
仕方がないので、自力で外の駐車場に停めにいくことにしました。
駐車場のゲートの上にもさりげにアートが・・・。
目的はレストランなので、通り道の絵を鑑賞しながら進んでいきます。
これはだれが描いたかは不明ながら、ナポレオン・ボナパルト肖像。
おそらくここで最も人気のあるアメリカ絵画の一つであろうと思われる
サージェントの
「エドワード・ダーレイ・ボイトの娘たち」。
たくさんの人が前に佇んでいました。
今知ったのですが、エドワード某はサージェントの義理の息子だそうです。
つまり、この娘たちはサージェントの孫ということになります。
「わしの孫たち」
というより絵画のタイトルとしてはドラマチックな気がしますね。
全裸にヘルメットと首からスカーフだけという兵士の大理石像。
おそらくモネのサーカスをテーマにした絵を眺める人。
空中ブランコ乗りのドヤ顔とピエロの表情に注目。
レストランの近くの天井を浮遊している人たち。
ところで、こういう具合に人が詰めかけている状態なので、当然ながら
レストランは予約だけでいっぱいになっており、入り口では
一列に並んだ人たちに向かって一人ずつマネージャーが
「今ご案内は受け付けておりません」
と説明をしておりました。
カウンターでパックのランチを買って、テーブルで食べることにしました。
果物のヨーグルト添えとロールチキンサンド。
この廊下の壁にもアート。
これはどちらも影ではなく、壁にペイントされた絵です。
手前の影はペイント、向こう側は本物。
ポツンと隅っこにかかっていた絵。
こう見ると普通ですが・・・・、
アップで見ると実に質感が気持ち悪い。
右側は食べ物を買うための列ですが、途中にアメリカ人が群がっているケースがあるので
何だろうと思ったら、ボストンレッドソックスのデビッド・オルティスコーナーでした。
ドミニカ共和国の貧しい生まれから大リーガーに登りつめた人です。
アワードにもらったダイヤの指輪が4つ飾ってありました。
熱心に写真を撮っている人がいっぱいいて、ボストンではヒーローなのだと思われます。
今回は特別展というのか、今まで見たことがないコーナーがありました。
強制収用所に入っていたある一人のユダヤ人が撮りためた写真。
それを全て箱に入れて土中に埋めてあったのを掘り起こしたというコレクションです。
その人の名はヘンリク・ロス。
ドイツ国内のウッチというところににあったリッツマンシュタット・ゲットー
(ウッチ・ゲットーともいう)にいた人で、そこでの写真が多数残されることになりました。
左、ユダヤ人がつける「ダビデの星」。
右はユダヤ人専用の郵便に使われたゲットーの切手。
ロスの写真の中から。おそらく息子と共に撮った写真。
ゲットーでポートレートを撮っているところだと思われます。
何をしているのか説明を読まなかったのですが、団体写真ではなさそうです。
おそらく一人一人のポートレートを撮るのにこうやって並んでもらって、
カメラが一人ずつ焦点を合わせたのかもしれません。
写真屋さんの手間省きというわけです。
ボロボロになった写真には、ユダヤ人たちが移動している様子が写っていました。
ドイツ当局より2万人の「労働不能」なゲットー住民をヘウムノ絶滅収容所へ
「移住」させよ、という移送命令があり、まずジプシーが、続いてユダヤ人が移送され、
1942年5月末までにかけて、ウッチ・ゲットー内の5万5,000人のユダヤ人は
ヘウムノ絶滅収容所へと移送され、そこでガス殺された、とウィキにはあります。
ゲットーの中の人たちの写真。
ダビデの星をつけている人もいます。
どうしてロスがみんなの写真を持っていたかはわかりませんでした。
ゲットー内でのユダヤ人たちが仕事をしている様子です。
一番右は皮革を加工しているようですね。
土中に隠されていたロスの写真のうち、プリントされていたもの。
会場のモニターではそれらの写真が解説されていました。
これもゲットーの中での出来事でしょうか。
道端で子供が倒れておそらく死んでいるのに、誰も近づきません。
いずれの写真もゲットー内の「モルグ」(屍体収容所)で撮られたものだそうです。
下の二枚は「ボディ・パーツ」と説明がありますが、なぜモルグに体の一部分が
しかもこれだけたくさんの足や手が積み重ねられているのかまでは説明がありませんでした。
いずれも歴史的な資料としては大変貴重なものだとは思うのですが、
これをボストン「美術館」で展示していたことについては少し違和感を感じました。
さて、ゲットー生存者の写真コーナーを出ると、仏教美術のセクションです。
それにしてもこの仏様は少し態度が悪くないか?
やっぱり中国の仏像は日本のとは佇まいが違う気がしますね。
こちらも中国仏像らしいです。
前にも書きましたが、ボストン美術館と日本は大変縁が深く、コレクションも膨大です。
ということで、日本に対して随所で敬意を払う展示が目につくのですが、これなどもそう。
美術館の中にまるで日本の寺院の本殿のような一角を再現して、
見学者はその中に設えられたベンチで仏像と対面しながら過ごすことができます。
「日本の寺にいるつもりで見学してください」
と現地の説明にはありますが、線香の匂いなどが全くないのでわたしたち日本人には
とてもそのつもりにはなれません。
阿修羅像の額には仏眼という「第3の目」があります。
手塚治虫の「三つ目がとおる」を読んだ方はご存知ですね。
この6本の手のうち2本は何も持っていないのですが、時代とともに
破損するか失われてしまったのでしょうか。
手の形を見ると、どちらも長剣のような長いものを持っていた気がするのですが。
前回にはなかった、大正時代の日本の版画を紹介するコーナーがありました。
左のグラスを前にした美人画は小早川清の作品で「ほろ酔い」。
王道の伊東深水の版画もありました。
左は「眉墨」で、右は小早川清の作品です。
こちらも伊東深水で「雪の日」という題がついているようですが、後ろに雪の積もった
クリスマスツリーがあるのが目を引きます。
アメリカ人はこの絵を見てどのような感想を持つのかちょっと興味あります。
これらも当時の版画家の作品ですが、ほとんどが雑誌の挿絵に使われたような、
今でいうとイラストレーターの仕事なので、当時は「芸術作品」という扱いではありません。
当時の文芸雑誌「文芸倶楽部」に掲載された絵だそうです。
小説のストーリーに合わせて描かれたものでしょうね。
手ぬぐいで頰被りしている女性が、男性のことを考えているの図。
なぜかこの後も日本に関する展示が続きました。
こちら、明治時代に典礼などで用いられた礼装のセット。
ジャケットの胸部分と袖にあしらわれた金糸の刺繍の精緻さ、
ズボンの金線の織りの見事さは、これぞ芸術作品という感じです。
今回のボストンミュージアムの特別展は、サンドロ・ボッティチェリでした。
イタリアに行った時ウフィツィ美術館で見たものが引っ越ししてきているようです。
小さい時に画集で見て大変怖かった覚えのあるこの絵に再会しました。
ケンタウルスの髪の毛をぐいっと容赦無く掴んでいるのはミネルバだそうです。
ケンタの「やーめーろーよー」みたいな歪んだ顔に、ミネルバの非情さが、
ある傾向の方々にはとても魅力的に見える(かもしれない)作品。
しかしなんだって髪の毛掴まれてるの?
「どの口が生意気言ってるの、このケダモノが!」
「ああっお許しくださいませ女神様〜」(ゾクゾク)
みたいな?
ウフィツィでは「ビーナスの誕生」の実物を見ることができましたが、ここでは
その習作のようなビーナスの単身立像が展示されていました。
教会に置かれていたらしい磔刑の十字架実物。
「見て見て、なんか矢印の落書きされてる」
「これ落書きじゃなくて後ろから釘を刺されてるんじゃあ・・・」
状況から見てパリスの審判らしい大作もありました。
パリスのもとにヘラ、アテナ、アプロディーテーがやってきて、
誰が一番美しいか判定させようとし、彼はこの世で一番美しい女を妻にくれると言った
アプロディーテーを、最も美しいとした
って話なんですが、
賄賂をやってまでこの羊飼いに自分を美しいと言わせることで、
女神たちにとって一体どういうメリットがあるのだろうか、
とかねがね思っているのはわたしだけではありますまい。
単に3人の女の見栄の張り合い?
しかも、賄賂の甲斐あってパリスが美しいと言ったアプロディーテー、
「パリスに、船を作ってスパルタに赴き、ヘレネーをさらって妻にするようにと命じた」
って、これ何?
「世界一美しい女を妻にさせてくれるって言ったから
あんたを一番美しいと言ってやったのに、なに?
俺が全部自分でするのかよ!」
って普通の男なら言い返すと思うんですが。
さて、たとえ食事をしに行くだけのつもりでも、あまりに広いので、
自動的に美術鑑賞もできてしまうというボストン美術館。
今回の訪問にも満足して帰路につきました。
ホテルに向かう通称マスパイク、I-90は、驚くべきことに今回
前線で料金所が廃止されており、通行が無料になっていました。
厳密にいうと、全ての車にETCに当たる器械の取り付けが義務付けられ、
ゲートではなくところどころにある道路の上のカウンターのようなもので
車の通行がカウントされ、その料金は「州が払う」ということになったようです。
どういう経緯かは知りませんが、大変な変革です。
それはともかく、マスパイク沿いの壁面に、なかなかの芸術作品が・・・。
このミニヨン+ホーマー・シンプソンみたいなのを含め、気軽にアートに浸った1日でした。
(ただしゲットーの写真除く)