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Channel: ネイビーブルーに恋をして
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映画「人間魚雷 回天」〜出撃前夜

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元海軍予備士官であった映画監督、松林宗恵作品で1955年に公開されました。
脚本は

「潜水艦イ-57降伏せず」
「太平洋の翼」
「太平洋奇跡の作戦 キスカ」
「連合艦隊司令長官 山本五十六」
「連合艦隊」

などを手がけ、さらに特殊潜航艇に参加した10名の軍人について書いた

「真珠湾再考 二階級特進の周辺」

という著書もある須崎勝彌、とくれば価値ありと判断し、観ることにしました。
(観る価値がなくても観てここでネタにするのが当ブログでもありますが)

「人間魚雷回天」とはまた直裁な、センセーショナルなタイトルです。
この二人のコンビで回天を描くのであれば、当然ながら
散華した若者たちの苦悩に焦点を当てたドラマになるだろうと予想しましたが、
実際は予想以上でした。

舞台は大津島基地隊の回天基地。

瀬戸内に面した山口県の大津島を、漫画家の佐藤秀峯はその作品で
「特攻の島」と呼びました。
今でも訓練施設が残るその島で、おそらくこの作品も撮影されたのでしょう。
大津島には「回天記念館」が現在も当時の様子をしのぶよすがとして残されています。


さて、このこの基地で、潜航艇の搭乗訓練が今行われております。
早速予備士官である搭乗員が、乗り込みながら仲間に、

「今日の特別食の配給な、また酒を羊羹と交換してくれよ」

ああ・・・・・

戦争映画でその日の夕食の約束をした者が生きて帰ってきたことはない、
という黄金の鉄則があるというのに・・・・。

撮影データが残っていないのでわかりませんが、これらの引き込み線も
もしかしたら本当に元回天基地の遺跡だったりして・・・。

そしてしょっぱなからフラグを立てた回天搭乗員は、
案の定、岩に艇体を激突させて死んでしまうのでした。

(-人-)ナムー

教訓:出撃前に今夜の食べ物について語ってはいけない。

あと、

「子犬や小鳥などの小動物を飼ってはいけない」

「国に帰ったら結婚するんだ、と仲間にいってはいけない」

というのもありますね。

死んだ士官の席に軍帽を置いて、戦友の死を悼む予備士官たち。
艇には速度計もなく、ゲージが狂っていてスピードが出ているのに
操縦者が自分の艇の速さを全く認識できていなかったのが原因でした。

「乗ってるもんが速度わからへんやなんて、そんな兵器ありまっかいな」

「人間をもっと大事に取り扱ってもらわんと、回天も役に立たんなあ」

「こんな兵器に乗るのは嫌だ!」
「恐ろしいのは俺だけなのか?どうしてみな本当のことを言わない?」

極端にパニクる繊細な玉井少尉。(木村功)
彼の後ろには同時に着任したのに次々に事故で殉職した仲間の写真が。
十五人だったのが、今や半分以下の七人になってしまいました。

「みんな自分の気持ちをこらえるのに精一杯なんだ」

こんなときに場を収めにかかるリーダー格は朝倉少尉。(岡田英次)
和製ジャン・マレーです。

「みんなで岡田少尉の母校の歌を歌おう!」

「♪白雲なびく〜す〜る〜が〜だ〜い〜」

全員が明治大学の応援歌を知っていて、空で歌えるのが不思議ー。

そのとき、兵学校出身士官がその歌を聞き咎め、

「貴様らの娑婆っ気はなんだ!
仲間の一人や二人死んだからってメソメソするのは回天を怖がっている証拠だ!」

と言って鉄拳制裁を行います。

殴られ終わった玉井少尉が廊下の隅をふと見ると、

で、出た〜!

そこには出撃して壁の写真となっていたはずの仲間の予備士官村瀬少尉の姿が!
実は村瀬はトラック島で回天戦用意の声がかかるも、艇が故障して発進できず、
こっそり隊に帰って来ていたのでした。

驚きながらも村瀬少尉を暖かく迎える予備学生たち。

同じ回天戦で、やはり生きて帰ってきた予科練の玉井の部下は

「私は予科練の面汚しです」

と自分を詰りますが、玉井は兄のような気持ちで彼を慰めます。
そして村瀬のように自分にも生還の可能性があるのでは、とわずかな希望を抱くのでした。

そんな玉井少尉に生への執着を断ち切れ、と叱責する村瀬。
いや、そう言ってる本人が死なずに生きて帰ってきたんちゃうんかい。

しかし出撃しながら死なず生き残ったことは、村瀬に苦悩しか与えなかったのです。

「生きていれば苦しくなるだけだ」

訓練で玉井少尉は他の艇とニアミスをしてドルフィン運動で浮上してしまいます。

なぜか気を失っている玉井少尉。酸素不足かな?

「玉井!おい、玉井!」

(金属棒で外からコンコン)

これは酸素不足ではなくただ寝てただけに見えます。
当然、捕虜になったらどうするんだ、と兵学校卒士官にむちゃくちゃ怒られます。

「問題を起こすのはいつも予備士官だ!」

とプリプリしながら会議している基地の偉い人たち。
しかしそこで彼らの上官である兵学校士官がなぜか彼らをかばいます。

ところでこの真ん中の人・・・。

丹波哲郎さんじゃないですかー!

確かにクレジットには丹波哲郎の名前があるのだけど、こりゃーほんとにちょい役だわ。


とにかく、上層部は村瀬少尉を次に突入する部隊に編入しました。

「本人のためにも早く死なせなければ」

そんなことを上官が言っているのを立ち聞きし、さらに落ち込む村瀬。

しかも、この、自称18歳の老けた部下に、

「村瀬少尉が先発部隊に編入されたので私は編成から外されました。
私を元に戻してください!」

と文句を言われるはめに・・。
村瀬、上からも下からも踏んだり蹴ったりです。

「お前はせめて俺の歳まで生きてくれ」

さて、次の訓練では朝倉少尉の艇に問題が起こります。
海中で艇が動かなくなり、海底に鎮座してしまいました。

あれこれと試していると、艇は幸いにも浮上しました。

文字通り死の淵から生還した朝倉少尉がハッチから顔を出し、
生きている喜びを味わっていると・・

「・・・ん?なんだ?」

岸辺を歩いている子供達の歌う「赤とんぼ」が聞こえてきたのでした。
(ストリングスの伴奏付きで)

そこに彼を捜索に来た仲間たち。
朝倉は彼らに向かって、たった今感じた通りを口にします。

「おい、生きてるってことは文句なしに素晴らしいぞ」

思わず目を伏せる二人。

「どうしたんだ」

「朝倉・・・・出撃だぞ」

 

出撃が決まり、見かけは陽気に歌い、飲み騒ぐ搭乗員たち。
参加しないものも遺書を書いたり、私物をふるさとに送ったりして過ごします。

この司令官、出撃が決まった予備士官の隊長に、

「即成で教育した貴様たち予備士官の唯一のご奉公は特攻隊だ」

どうも須崎&松林コンビは、松林が予備士官だったせいか、
必要以上に上官を貶めて描く傾向にありますが、実際の回天隊司令、
板倉光馬少佐は体を張って部下の命を守ろうとしたのをお忘れなく。

だいたい今から死にに行く若者に、司令官がわざわざこんなこと言いますかね。

予備士官の隊長は関谷中尉。(沼田曜一)
「激闘の地平線」では陸自レンジャー過程の教官をしてました。

皆が最後の入湯上陸に賑やかに行ってしまった後の隊舎で。
どうも皆と一緒に飲みに行く気になれない玉井少尉。

同じく、最後の夜を一人静かに過ごしたい朝倉少尉。

出撃に備えて夜を徹して潜航艇の整備が行われています。

ここに一人やって来て、自分の艇の特眼鏡に数珠をかける僧侶の川村少尉。
京都龍谷大学卒業という設定です。

「これ一発で敵さん何千人も殺すんやさかい、どう考えても地獄行きやな」


川村少尉の艇を整備しているのは黄門様、西村晃ではないですか。

何をするでもなく、祖国での最後の一日をぶらぶらして過ごす朝倉少尉。
梨の木を植えている老人にふと目を留め、話しかけます。

「梨の実が取れるのは、わしの10歳の孫があんたくらいの歳になった頃だろう」

こんな老人にさえ10年後の夢を描くことが許されているのに
若い俺には明日の夢さえなくなった・・・。

あらためて絶望する朝倉少尉。

さて、その頃レスでは宴会の真っ最中。

ちなみに丹波哲郎のこの映画での役。

「司令室で黙って立っている」

「宴会で踊りまくる」

「玉井少尉に芸者と一晩過ごせとけしかける」

「玉井少尉の恋人にこの女はなんだという」

続いて各自持ち歌の披露。

「♪ 私は真っ赤なりんごです〜」

「♪ きっさまっとお〜れ〜と〜は〜同期の桜〜」

盛り上がると芸者を囲んで輪になってぐーるぐる。

皆が程なく死ぬのがわかっているので、芸者の様子も実に微妙です。

(朗報)ただし丹羽さんは死にません。

丹波哲郎は、主計士官の役なので役作りのためメガネをかけていますが、
残念ながらはっきりいって全く似合っていません。

主計士官どころか、どう贔屓目にいってもインテリヤクザって感じです。

芸者視点から見たみなさんの様子。

こちら回天隊基地。

予備士官の従兵二人が些細なことで下士官から修正を受けているところに、
ぶらぶらしていた朝倉少尉が遭遇します。

「私たちは海軍で10年飯を食っていました」

「これが海軍のやり方です」

制裁をやめさせた朝倉少尉に、下士官たちは傲慢に言い放ちます。
思わずカッとして拳を振り上げた朝倉少尉ですが、次の瞬間思い直し、

「人間を人間として扱わないことがもし帝国海軍の伝統なら、それは大変な誤りだと、
学生上がりの予備士官が言い遺して出撃して行ったことを時々は思い出してくれ」

これは予備士官だった松林監督の本音であったに違いありません。
ご自身もかなり殴られたんでしょうねえ。

修正の危機から救った従兵に朝倉が用を言いつけました。

「ベッドの上の本を持って来てくれ」

歩いて数歩のところにあるものくらい自分で取れよ、という気がしますが、
とにかく、その本の表紙は

「Krutif der reinen Dernunft」

このころの大学生ちうのは今と違って?インテリゲンチャですからね。
原語で「純粋性物理批判」なんかも読んでしまうわけだ。

そこでこの従兵、本を渡しながらさりげに自己アピールを行います。

「出撃の日までよくこんな本をお読みになれると思いまして」

「貴様、ドイツ語が読めるのか」

「はい、多少は読めます」

「シャバで何しとった」

「私立大学の教師をしておりました」

絶句する朝倉。驚く同僚の従兵。

「あなたはどこの大学ですか」

いきなり「貴様」呼ばわりから敬語になる朝倉少尉。

「帝大であります」

「じゃ先輩だ」

朝倉少尉は従兵に本を渡し、いつかまた教壇に戻る日が来たら
未来の若者たちに何ページかを講義してやってほしい、と頼むのでした。

「その人たちは僕たちよりもっと優秀で立派で、そして、
もっと勇気のある青年にならなければいけないのですから」

そういう朝倉少尉に、従兵の田辺一水は、慈しむような目を向け、
子供達から送られて来た自らのお守りの人形を渡すのでした。


続く。

 

 


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