平成30年度降下始めシリーズ最終回です。
フリーフォールを今度はかなりの高高度から行うようです。
本日降下を行った中でも選りすぐりのベテランがトリを務めるのです。
説明が聞こえなかったのでどのくらいの高さから降りたのかわかりませんが、
グリーンベレーが行うHALO(ヘイロー)降下、高高度降下低高度開傘は、
文字通り高高度から降下して、そのまま自由降下して、低高度では傘を開き、
それは実際には
高度10,000メートルから降下
高度300メートルで開傘
という凄まじいものです。
生身で9,700メートル落下していくというのはどんなものなのでしょうか。
その間ブラックアウトしたり、手足の自由が利かなくなったり、
精神に異常をきたしたり、と人体の調整がちょっと狂っただけでも
残り300mで間違いなく開傘することは不可能になるような気がします。
飛行機が敵のレーダーに捉えられないくらい高高度からの降下は、
生身では確実に失神しますので、酸素マスクと防寒着が必須です。
しかし自衛隊ではさすがの空挺団もこんな無茶な降下は行いません。
もちろん彼らのことですからやらなければいけなくなったら装備を使って
やるでしょうが、そもそも HALOを用いる作戦というのは
「国境付近などの潜入任務に用いられることが多い」
ということなので、自衛隊ではそこまで想定していないのでしょう。
場面もそうですが潜入する国境がそもそもありませんのでね。
自由落下はある程度高さがないと逆に危ないと思われます。
ただ、習志野で高高度から降下をすることは、あまりに着地範囲が狭いので、
やはり訓練されたベテラン隊員にしかできないに違いありません。
前々回ご紹介した「ライザーの血」のライザーは、この写真で
ハーネスから4本出ているベルトのことです。
人一人の命をたった4本のライザーで傘とつないでいるって考えたら凄いですね。
そうそう、兒玉陸将補のFF効果について、とっておきのニュースがあります。
陸将補は昔FFの資格を持っていて、「昔取った杵柄降下」を行ったのではないか、
と書いたのですが、その後、防衛団体の新年会で陸自の方から聞いたところによると、
「兒玉陸将補は空挺団長になってからFFの資格を取った」
ということが判明しました。
これはもう素直に凄いの一言です。
こんな老齢(52歳)でFFの資格を取った例は過去の歴史でも初めてだそうで、
陸自の中でも当時相当話題になったということでした。
そうかと思えば、やはりわたしがここで薄々予想したように、それまでの配置が
補給とか装備とかで、全然体がなまりきっていたところに内示が来て、
しかも着任の10日くらい後に指揮官降下をしなければならないと知り、
慌てて毎日特訓をして当日に備えた指揮官の話も聞きました。
その方はおっしゃったそうです。
「天はわたしに味方しました」
ナイスコンディションで、10日の付け焼き刃でも華麗に飛べたのか?
と思いきや、
「降下始め当日、天候不良で降下が中止になったのです」
・・・・それ、味方って言わないと思う。
しかしこの人たちはそんな付け焼き刃降下とは次元の違う、
熟練のダイバーであることは、この着地にも表れています。
もうほとんど楽しいお散歩状態で着地してます(笑)
ふわり。
彼らの着地を見ていると誰にでもできそうな気さえしてきます。
傘を動かして降下する方向を調整するブレークコードは、
フリーフォールで飛び降り、傘が開いてからこれを探して掴むので、
目の端でも捉えられるように取っ手が赤になっています。
降下後、一列になって退場していくFF降下の隊員たち。
このヘルメットはもしかしたらインカムついてるんですか?
目印に焚かれたスモーク越しに降下した後の隊員がたくさん見えます。
青いキャップをかぶった隊員は安全係のようです。
これをもって200名の空挺降下は終了です。
ひやっとなる場面もありましたが、無事にすんで何よりでした。
最後に、陸自のヘリコプターがご挨拶がわりに習志野演習場を通過していきました。
まずAh-1コブラ2機。
アパッチロングボウ。
国内で保有している11機(2015年現在)のうちの貴重な1機です。
多用途ヘリUH-1は傑作機といわれ、自衛隊でもたくさん装備しています。
UH-1JとHの見分け方は単純に「おでこにツノのあるなし」なのですが、
この3機はツノがあるのでUH-1Jということになります。
まだHも活躍中なんですよね?
たくさんの降下をさせ大活躍のチヌークCH-47も2機でご挨拶です。
あっ、窓からのぞいている人が写ってる!
演習が終わってからマイクのセッティングを行う隊員。
これで降下訓練は全て終了です。
本日小野寺防衛大臣の訓示を受ける部隊が整列し、敬礼。
中央音楽隊は観閲の音楽を最初と最後にわずか8小節演奏するために
寒い中延々と待機していたことになります。
こんなに寒いと、金管楽器は冷えまくりで、音程が下がるはずなので
特にフルートなど結構大変なのではないかと思います。
指が凍えても手袋をして演奏するわけにいきませんからね。
小野寺防衛大臣は、
「北朝鮮が核、ミサイル開発を進めており、また、
昨日には潜没潜水艦と中国艦艇が同時に尖閣諸島接続水域に入域するなど、
我が国を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増しております」
と訓示をしました。
この「潜没潜水艦」という言葉をどの報道機関も横並びで記事にしていました。
「潜水艦が急激に潜行すること」という意味の「潜没」を
小野寺大臣が本当に使っていたからです。
耳で聞いただけでセンボツを「潜没」という意味だと理解した人は
おそらく現場にはあまりいなかったのではないかと思われます。
また、小野寺大臣は、鳥インフルエンザに対する災害派遣や
海賊対策での海外派遣などを例に挙げて、
「自衛隊への期待がこれまでになく高まっている」
とも激励しました。
ちなみに、降下始めについて報じた新聞は軒並み
「小野寺大臣が檄」
というタイトルで、中国潜水艦や北朝鮮などの言葉を含む訓示内容が中心だったのですが、
産経新聞だけは、そのタイトルを
「精鋭無比」の陸自空挺団 降下訓練始めで「傘の花」
とし、
陸上自衛隊第1空挺団の降下訓練始めが12日、
陸自習志野演習場(千葉県船橋市など)で行われた。
「精鋭無比」を標語とする空挺団員ら約500人に加え、
米陸軍も沖縄や米アラスカの部隊から約80人が参加。
団員らはヘリコプターや空自の輸送機から次々とパラシュートで降下し、
澄み切った青空に「傘の花」を咲かせた。
小野寺五典防衛相は訓示で「空挺団の精強性は諸君の気概に加え、
厳しい訓練で培われた高い技量に支えられている」と激励した。
という、至極真っ当な報道を行ったとわたしは思いました。
アメリカの部隊がアラスカからも来ていた、ということについては
そう言われてみれば現地の放送で小耳に挟んだ覚えがあります。
産経新聞を見て初めて調べることができたのですが、
これは
第4旅団戦闘集団(空挺)第25歩兵部隊
4th Brigade Combat Team (Airborne), 25th Infantry Division
であったことが判明しました。
過日ここでご紹介した「ライザーの血」という空挺歌は、
まさにこの部隊が代々歌い継いで来ているものです。
なるほど・・・この部隊のために流していたのか・・・。
この写真がこの日最後に撮ったものです。
一度も立ち上がらなかったため、終わってから自動車教習所横の出口を出て、
駐車場まで足が痺れたまま歩いていました。
あまりにもこの日の寒さが過酷だったせいで、その後、どんなに寒くても
「あの日の辛さに比べればヘーキヘーキ」
と思えるようになったから凄いものです。
帰ってからは「もう二度と降下始めなんて行かない」と思うのですが、
来年になればまた喉元過ぎれば寒さを忘れて行ってしまうんだろうなあ。
まあそのときにはせいぜいカメラの電池を忘れないようにしようっと。
さて、降下始めそのもののご報告はこれで終わりですが、次回、
番外編をお送りします。
続く。