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殊勲艦〜実験開発潜水艦「ドルフィン」AGSS-555

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さて、前回この実験潜水艦「ドルフィン」が遭遇した事故と、
最悪の状態から死傷者をゼロにし艦体を失わずに済んだのは
一人でポンプ室で排水を行った機関士の働きのおかげ、ということを
お話ししたわけですが、その原因は魚雷発射管の扉の故障でした。

艦内から魚雷を外に撃つ仕組みというのは、魚雷発射管に魚雷を装填した後に
扉を閉め、管内に水を注入してから前扉を開けるというものです。

魚雷発射管から海水が逆流してきたという状況には間違いがないと思うのですが、
英語での解説によると

when a torpedo tube door gasket failed, and the boat began to flood.

となっているので、どうやらドアのパッキンの不具合のようです。
つまり、魚雷発射管のドアを閉めているのに水が入ってくる、どうして?
となった可能性がありますね。


機関士の献身的なダメージコントロールのおかげで沈むのを免れた「ドルフィン」は、
その後サンディエゴで3年半に及ぶ修復工事を受けました。
その後任務に復帰したのですが、一年も経たないうちに海軍は退役を決めています。

この理由はなんだったのか、なぜ50億円以上もかけて修理したのに
わずか1年で運用をやめなければならなかったのかはあまり詳しくわかりません。

修理したもののどうも調子が良くなかった(一度海水に浸かってしまった機器類に
不具合が出るのは当然)ということも考えられますが、わたしはむしろ海軍としては
一度海水が流入した潜水艦を実験艦として使うことはもうできないとしながらも、
せっかくヒーローが命をかけて沈没から救った艦体を無下にスクラップにするにしのびず、
とにかく使えるようにして再就役させることにしたのだと踏んでいます。

1年、つまり形だけ使ってもういいよね?って感じでこの金食い虫(運用費が年20億円)
を仕方なくといったていで退役させたのではないでしょうか。

さて、続きと参りましょう。

このドア(丸窓がついていたところ)はここから外に出入りできるようになっており、
全ての乗員と全ての物資はこのセンターハッチを通りました。

もし大型の機器類を搭載する場合には、分解して小さくするか、主要構造物の場合には、
艦体をカットして運び入れることもありだったそうです。

今回わたしたちが通ってきた入り口と出口はここに展示されるようになってから
見学者のためにつけられたものでもともとはありません。

「ドルフィン」には外付けの換気口があり、海上航走などの際に
エンジンルームに空気を送っていましたが、
潜航中のエンジンを動かすためのシュノーケルはありません。

開口部はブリッジ部分へと繋がっており、そこには通信機器やsound-powered phone
(外部電源を使用せずに、ハンドセットを使用して話すことができるデバイス)
などがあります。

いかにも冷戦時代の潜水艦内部ですが、1968年の就役ですから当然です。
つまり、そろそろお役御免という2002年になって事故を起こしたのですから、
やっぱり本来はそこで廃艦のはずが、命をかけて艦を救った機関士に免じて
あえて修理して1年間だけ使ったというのが正解のような気がしてきました。

だとすると、アメリカ海軍というのは情を汲む組織というか、
「ヒーロー」というキーワードにはあくまでも敬意を払うんだなと思います。

この部分はバラストコントロールやベント、
非常用のバルブ操作スイッチなどがあるパネル類です。

電源パネル。ウィットモア社製品です。

アンプなど電気関係パネル。
それにしても、この前にみたソ連の潜水艦とはほぼ同時期に建造されているのに、
この違いというのは一体なんなのでしょうか。

建造にかかった期間も4年(ドルフィン)に対して2ヶ月(ソ連潜)です。

時代を感じさせるスライド式のスイッチはエンジンの状態をチェックするもの。

個室のデスクに星条旗柄のリボンとともに置かれた白いヘルメットには

「コマンディングオフィサー USS ドルフィン」

とあります。

こちらはお手洗い。
手は?手はどこで洗ったらいいの?

アクリル板で塞がれたハッチがありました。
左に二本のレールがありますが、ここを両手で握って、ハッチ下の
梯子段に足を乗せ、上り下りするわけです。
一度実際に入ってみて知ったのですが、潜水艦の上り下りはこのように、
ハッチを密閉する必要から梯子が繋がっていないのが普通みたいですね。

一人だったらもう少し丁寧に下の階を撮ったのですが・・

しかも左側壁のバーを掴んで降りていくと、その先で梯子段が奥に変わるので、
体をねじりながら降りていかなくてはなりません。
大変難易度の高い梯子なので、寝ぼけていたり酔っていたら踏み外すのは必至。

ダイニングホール、ワークステーション、レクリエーションエリアなど、
食事全般を作るキッチンで、軍艦には珍しく階級によって分かれていません。
全体の人数がそんなに多くないせいか、大変リベラルというか民主的な作りです。

ところで、なぜか調理台の上にゆで卵の殻が落ちてるんですが・・・いつの?

ここではお泊まり企画はもちろん、貸し出しもパーティもしていないはずですが・・。

エンジンのような大きな構造物の上に建物が載っているような部分。
プロペラ(推進器)のモーターがこの下にあります。


なんとここにも洗眼器があるではないですか。
よっぽど目に埃の入りやすい状況だったのか?

DOLPHININST 5400. 2D CH-13

としてスピードの段階別の推進器の状態が書かれています。

おそらく「ドルフィン」の推進器ということで勝手に名前をつけたのではないか、
と思われるのですが、下線部の部分、スペルミスではないかという疑いが・・。


このピカピカしたテーブルはぐるぐる回すともしかしたら人力でプロペラが回るとか?

ここにあるのは推進器関係のモーターなどです。

機械関係がメインデッキ階に収まっているのが独特の構造です。

こういうのをみても何が何だかわからないのですが、一応わかる人もいるかと思いまして。
AHPって何かしらと検索してみたのですがわかりません。
別のところに ”HP AIR DISTRIBUTION”とあるので、空気を送るものだと思うのですが。

こちらはHPAC関係ときた。

Heating Piping Air Conditioning

って感じ?(適当)

さて、実験艦「ドルフィン」の見学はここで終わりです。
おそらく下の階には寝室やレクリエーションセンターなどがあったのでしょうが、
そこに行くには先ほどのラッタルを降りて行くしかないので公開していません。

さすがに一般人用の階段をもう一段設置する余力は博物館にはなかったようです。

外に出ると、後ろにもう一つ帆船が展示されていました。
スコットランドの城主のために建造されたスチーム式木造ヨット、
「メデア」号ですが、朝からずっと見学を続けたわたしたちは
さすがに疲労困憊して「メデア」を見る気は全く残っていませんでした。

「ドルフィン」の尾翼上には、これでもかと鳥避けが建てられています。
こうでもしないと、彼らの落し物で真っ白になってしまうからです。

退出するためには一人しか通れない通路をこうやって一列で進んで行くしかありません。
ちなみに前の一団は我が日本国のボーイズでした。


こうやって改めてセイルを見ると、潜望鏡は一本だけ。
あとは通信関係のアンテナらしきものがあるのみです。

もちろん実験艦ですから魚雷を撃ったりはするわけですが、ナイトビジョンなど
潜望鏡を二本つける必要はなかったせいか、大変シンプルな外観です。

ボランティアの解説員らしいおじさんがニコニコとお見送りしてくれました。
あ、よくみたらカメラ目線だ(笑)


最後に、実験艦「ドルフィン」の「戦果」をあげておきましょう。
彼女がどんな実験と記録達成を行なったかの一覧です。

●潜水艦から航空機への光通信に最初に成功

●レーザーイメージングシステム鮮明度を上げる開発

●オハイオ級潜水艦用超低周波(ELF)アンテナの開発

●様々な非音響ASW技術の評価

●アクティブソナー傍受の様々な評価

●モバイル・サブマリン・シミュレータ(MOSS)システムの初の潜水艇発射

●BQS-15ソナーシステムの潜水試験に最初に成功

●高精度(10cm)の牽引体位置監視システムの開発

●障害物除去 Sonarシステムの開発

●高精度な目標管理システムの開発

「5th・システム・オブ・ネイチャー」の評価

●潜水艦から航空機への双方向レーザー通信に最初に成功

●最深度潜行、3000フィート以上に成功

なお、一度改装された後に行われたソナーシステムの実験の結果、
現在のアメリカ海軍の潜水艦はそれを搭載しています。


これだけの実績を上げ、かつ乗員の英雄的な行動で沈没を免れたという
功績艦なのですから、こうやってその姿を後世に残すことになったのも
アメリカ海軍的には当然だったといえましょう。

 

 


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