何の気なしに始めた「ミリタリー・アニマル」シリーズですが、
結構面白いので制作のために調べることをとても楽しみました。
犬や猫、クマですら階級を与えられて任務についていたという話は
まるでおとぎ話を聞いているような気すらします。
人の命令を聞かない猫はともかく、頭のいい動物はわかった上で
人間に従うものだということも数ある例が証明していますね。
さて、頭のいい動物というと、その筆頭はイルカではないでしょうか。
■ イルカ
かつて地球上に現れた高い知能を持つ動物が二種類いた。
陸に住むことを選んだのが人間、海に残ることを選んだのがイルカ。
いや、それほどじゃないだろう、という話も聞かないわけではないですが、
とにかく「わんぱくフリッパー」以来、イルカの知能の高さはワールドワイドで
有名になったと思われます。
しかしアメリカ海軍ではそれよりもっと昔、50年以上前からイルカに
救われてきた歴史を持っています。
1965年には、海軍で「海軍海洋生物プログラム」というプロジェクトが始まり、
写真のバンドウイルカの「タフィー」が200フィートもの深海に潜水し、
SEALAB IIと呼ばれた海底のステーションに滞在するアクアノー
(aquanaut、水の中で生きる人の意で宇宙飛行士のアストロノーの水中版)
のところまでなんども往復してツールを運搬する役目を果たしました。
シーラブ計画とは飽和潜水(減圧症を避けつつ深海に人間が滞在するための技術)
の可能性と、長期間隔離された人間の生活を証明するために1960年代から
アメリカ海軍によって開発された実験的な水中ステーション計画です。
イルカのタフィーが導入されたのはその第二計画を意味するIIからで、
アクアノーの一人は30日間、その他は15日の滞在記録を作りましたが、
地上からダイバーへ、ダイバーからダイバー(カプセルは一人用)の元を回遊し、
メッセージを運んで非常時には水上警察に連絡することもできました。
タフィーの活躍でIIは成功で、次回プロジェクトにも彼を投入するということが
ほぼ決まっていましたがが、SEALABIIIでは海洋ではなくIIの三倍の深海と同等の
圧力をかけたチェンバーで実験されたため、彼の出番はありませんでした。
なお、海洋で行われた実験では二酸化酸素中毒による殉職を出しています。
冒頭写真のタフィーが加えているのは認識用のブイで、
彼は例えば機雷を発見したら近くに目印になるブイを設置して
人間がそれを処理できるようにすることもできたということです。
高速で泳ぐことができ、ステルス性のあるイルカは優秀なスパイになります。
セキュリティネットをかい潜ることを訓練すれば、例えば敵の艦船に近づき
情報を収集することも可能でしょう。
これは名前をK-ドッグという名前のバンドウイルカで、
ペルシャ湾での機雷処理を任務としていました。
彼が右のヒレにつけているのはスパイ用ではなく、ハンドラーが
潜水中の彼がどこにイルカがわかるためのカメラです。
イルカが初めて戦闘に使われたのはベトナム戦争時、70年代初頭でした。
その時の任務は、停泊している艦船の周囲を彼らの反響定位を用いて
不審なものなどがいれば人間に知らせるという仕事をしていました。
反響定位(エコロケーション、Echolocation)はしばしば動物に備わっている
ソナーのようなもので、イルカの他にはクジラ、コウモリ、一部の鳥に見られます。
水中で、自分が出した音が何かにぶつかって反響し帰ってきた音から、
その何かの方向と位置を知ることができるというもので、コウモリが暗闇でも
活動できるのはこの能力によるものです。
2003年から始まったイラク戦争にもイルカは投入されています。
食べ物や医薬品、そのた救急用品を港に運ぶ船が安全に航行できるように、
ペルシャ湾の機雷を探知するのが彼らの役目でした。
外地だけでなく、アメリカ国内でもイルカは海軍の仕事をしています。
1996年、「海軍イルカ」は共和党全国大会がサンディエゴで行われている間、
シークレットサービスの周辺海域の警備警戒を助けたということです。
(仕事が終わったらサンディエゴのシーワールドに帰ったのかな)
イルカというのは案外目つきが悪いとこの写真を見て思うわけですがそれはともかく。
彼がくわえているのは何かはわかりませんが『スパイグッズ』だそうです。
その下にちらっと見えるのがバスケットボールをくわえるベルーガで、
海軍はベルーガも訓練して何か利用できないかテストをしたことがあります。
その成果についてはわかっていませんが、ベルーガがターゲットになったのは
イルカやアシカより深海に行くことができ、さらには低温にも強いからだとか。
というわけで色々と海軍は彼らを使う方法を模索し続けてきたのですが、
現在ではロボットを採用する方向に進んでおり、「ドルフィンソルジャー」が
海軍によって正式に雇用される機会は少しずつ減ってきています。
しかし、それらがイルカと同等のソナーや何より高度な知能を持つ日は
まだまだ先のことだと言われています。
■ アシカ
イルカの持つ探査能力ーソナーはおそらく海洋生物一でしょう。
しかし、彼らに備わっていない優れた探査能力を備えているのがアシカです。
カリフォルニアアシカはずば抜けた視力と聴力を備えており、
たとえ夜間や暗黒、濁った海中でもはっきりとものを捉えることができます。
そのアシカの優れた視力を海軍は海中探査のために利用しています。
海軍が訓練などで使用し、海底に落としたり沈んだりした武器や装備。
こういうものを探し出すことで、彼らは海軍に何百万ドルもの利益を提供します。
彼らは650フィートもの深海にも楽々と泳いで行くことができるのです。
アシカは訓練を施すことによって、不審なスイマーを発見すると、その足に
警戒船と繋がった紐の先のクランプや手錠をかけることまでできるようになります。
あとは船上から魚釣りのように紐を引っ張って文字通りお縄、という流れ。
アシカが泳いできたと思ったら可愛らしく足の先に手錠?をかけてしまう。
彼らの海中での動きは目にも留まらぬくらい早く、しかもほとんどの人は
自分の足に金具がはまってからそうと気付くくらいの素早さなんだとか。
こんな体験ができる人をちょっと羨ましく思いませんか?
ついでに、アシカは逃げ足も早く、悪者(笑)がそうと気づいて
アシカに危害を加える前に現場を離脱し、船上の人間に
「今悪い奴がいたので、ア シ カ ら先に手錠かけてきましたー」
と報告するのだそうです。
ちなみに、海軍に雇われているアシカは「Neutered」、
つまり去勢したオスと決められています。
去勢した動物のオスは一般的によく言えば温和に、悪く言えば覇気がなくなり、
アグレッシブさがなくなるので人間にとっては扱いやすくなるのです。
海軍アシカ軍団はボーイズラブ・・じゃなくてボーイズクラブってことですね。
体重も300パウンドを維持するように厳しく管理されており、海軍では
デブのオカマは使い物にならない、とされているようです。
■ ペンギン
階級章を肩?につけて閲兵を行ういかにも偉そうな・・・このお方は?
軍隊が採用する動物は多々あれど、命令を下す側の動物は滅多にいません。
しかし、スコットランドはエジンバラ動物園のこのペンギンは
Norwegian Royal Guard、ノルウェー陸軍近衛部隊の司令官で、
「サー」の称号を持つニルス・オラフ(Sir Nils Olav)。
彼は2016年現在で准将の地位と騎士号を持っています。
(言っておきますが本当に持っています)
一体どうしてこんなことになったのでしょうか。
自衛隊の音楽隊も参加することで有名になった世界の軍楽隊による音楽祭、
ミリタリー・タトゥーが1961年にここエジンバラで行われた時のことです。
ノルウェー陸軍近衛部隊もこの祭典に参加するためにエジンバラを訪れ、
その際隊員たちは余暇を利用して動物園に遊びにきたのですが、
隊員の一人ニルス・エジェリン中尉はペンギンにいたく魅了され、
その次に行われたなんと11年後のミリタリータトゥーで、ここのペンギンを
正式にマスコットにしたいと動物園に申し出たのです。
動物園側が快く承諾したため、一羽のペンギンはニルス・オラフ(国王の名前)
と名前をつけられて上等兵からの軍人生活をスタートさせました。
その後、音楽祭に近衛部隊が参加するたびに彼は昇進してゆき、1982年に伍長、
1987年には軍曹となりました。
しかし軍曹に昇進してまもなく、1世は死去したので、引き続き2世が指名され、
階級を引き継いで1993年には連隊上級曹長、2001年には名誉連隊上級曹長となります。
2005年には、ニルスは名誉連隊長(Colonel-in-Chief)の称号が与えられ、
エジンバラ動物園に銅像が設置されることになりました。
2008年にはニルス・オーラヴ二世に対し、ノルウェー国王より
騎士号が授けられましたが、二世はそこで死去。
その後、ニルス・オーラヴ3世が引き継ぎ、2016年には准将に昇進しました。
その際ノルウェー陸軍近衛部隊50名が参加しての「閲兵」セレモニーが行われており、
この写真はその時のものです。
動画もあるので閲兵の様子をご覧ください。
Sir Nils Olav promoted to Brigadier by Norwegian King's Guard
指揮官の前で立ち止まり、羽をパタパタさせるのが可愛すぎる・・。
それにしてもなぜノルウェーとスコットランドが?と思ったのですが、
実はエジンバラ動物園に最初にペンギン三羽を送ったのがノルウェーなんだそうです。
1913年に 捕鯨に行って連れて帰ってきたペンギンだったとか。
■ ヤギ
アメリカの独立戦争におけるあのバンカーヒルの戦いにおいて、
野生のヤギがイギリス軍の兵士たちの一団を案内して戦場を突っ切り、
丘を登り、アメリカ軍の防衛ラインを急襲することに成功させたという話があります。
それ以来、ロイヤル・ウェールズ・フュージリアーズ連隊(Royal Welch Fusiliers)
ではヤギを正式なマスコット、というか軍隊階級を持つメンバーとしているのだそうです。
ちなみに「フュージリアー」とは本来、「フュージル」(fusil)と呼ばれた
軽いフリントロック式マスケット銃で武装した兵士のことです。
この言葉は1680年頃に初出し、後には連隊の名称として使われるようになりました。
現在のRWFでマスコットになっているヤギは、そのツノも神々しい
ウィリアム・ウィンザー二世(William Windsor II )。
ウィリアムなので、あだ名はビリー・フォー・ショート、
普段はライトにビリーと呼ばれているようです(笑)
二世というからには当然初代もいたわけですが、南北戦争の後、
イギリス王室は定期的に王室所有のヤギの中から一匹ずつ、
連隊にプレゼントしていたのだそうです。
先代のウィリアム・ウィンザー一世は、2006年のエリザベス二世の
80歳の誕生日がキプロスで行われた時、
「不適切な行動をとった」
ということでマジで降格になってしまったことがありました。
その不適切な行動とは、
列の中にいることを命じられたにもかかわらず命令に従うことを拒み
足並みをそろえることに失敗し
ドラム奏者に頭突きをしようとした
「ヤギ少佐」であった22歳のデイビス兵長は、ビリーを統御することができず、
ビリーは「容認できない行動」「無礼」「直列指令への不服従」で告発され、
懲戒委員会の後に、フュージリアー(兵士)に格下げされました。
ビリーが兵長だった時、兵士たちはすれ違うさい敬礼をしなくてはいけなかったのですが、
この処置のあとはその必要がなくなったわけです。
ここでなぜかカナダの動物愛護団体が出てきて、彼は「ヤギらしくふるまった」にすぎず
復位されるべきだと述べイギリス陸軍に抗議する騒ぎになりました。
3か月後の勝利を祝うパレードでビリーはもとの地位に復帰しました。
「彼はひと夏中女王の生誕祭での彼の振る舞いをよく反省し、
明らかにもとの階級にふさわしい振る舞いをした」
と評価されたのです。
ヤギの反省の形がどのようなものか知りたいような気もしますがそれはともかく。
歴史的にこのような措置をされたのはビリーだけではなく、「将官への無礼」に対して
最終的に軍法議会にかけられ降格させられたり、制服のズボンのストラップを固定するために
身をかがめた大佐を角で突いたりして降格されたヤギは存在するそうです。
特にこの出来事は「不服従の恥ずべき行動」と言われ厳しく非難されたそうですが、
まあなんちうか、ヤギ相手に何をやっているのかという気もしないでもありません。
現在のビリー二世は、そういう問題をできるだけ避けるために、
性質の穏やかで「冷静な」ヤギを厳選したということですので、
今のところ問題は起こしていないようです。
アメリカ海軍では船にペット兼非常食として船にヤギを載せていたことがあります。
また、ある時一人の士官が海軍兵学校対どこかのフットボールの試合の時
面白半分にハーフタイムに剥製になっていたヤギの皮を被って
サイドラインを走り回ったところ、後半になって海軍兵学校が大勝したことから、
その後兵学校のマスコットはヤギと決められているのだそうです。
さて、今まで「ミリタリーアニマル」についてお話ししてきましたが、
最後に、動物をマスコットにしている軍隊(主にイギリス軍)を列挙しておきます。
(イギリス軍)
第1ビクトリア女王近衛竜騎兵連隊 ポニー(エムリス)
ロイヤルスコッツ近衛竜騎兵 ドラムホース(タラベラ)
クィーンズオブ・ロイヤルアイルランド ドラムホース(アラメイン)
パラシュート連隊 シェトランドポニー(ペガサスとフォークランド)
ロイヤル・スコットランド連隊 シェトランドポニー(クルアチャンとイズレー)
ロイヤル・アイリッシュ連隊 アイリッシュ・ウルフハウンド(ブライアン・ボル)
アイリッシュガード アイリッシュ・ウルフハウンド(ドムナル)
メルシャン連隊 スウェルデール羊(ダービーラム)
ロイヤル・レジメント・オブ・フュージリアズ アンテロープ(ボビー)
第3大隊メルシャン連隊 スタッフォードシャーブルテリア(ワッチマン)
ヨークシャー連隊 フェレット (インファルとケベック)
(アメリカ海軍)
USS「ヴァンデクリフト」FFG-48 犬(シーマン・ジェナ)
(米海兵隊)
ブルドッグ (初代ジグ一等兵に始まり現在は十六匹目、チェスティ)
(アメリカ陸軍)
ウェストポイント 騾馬
(カナダ軍)
ロイヤル22連隊 ヤギ(バティス)
(オーストラリア軍)
王立オーストラリア連隊 第1大隊 シェトランドポニー(セプトムス)
第5大隊 スマトラ虎 (カンタス)
第6大隊 オーストラリアカウドック(リッジレイ・ブルー)故人
空軍 はやぶさ(ペニー・アラート)
(ニュージーランド軍) 亀
(スペイン軍) ヤギ
(スリランカ軍)象
やっぱりスリランカ軍は象ですか。
個人的に虎をマスコットにしている王立オーストラリア連隊と、
はやぶさを飼っているオーストラリア空軍はイケてると評価します。
あと、イギリスパラシュート連隊のポニーが「フォークランド」がじわじわきます。
たいていの動物はパレードに借り出したりするわけですがフェレットは無理かも。
ミリタリーアニマルシリーズ、終わり。