昨年夏のアメリカ滞在時、メア・アイランドに行きました。
アメリカ海軍について調べたり書いたりしていると、しょっちゅう
艦船が建造された、ということで「メアアイランド海軍工廠」という名前を見ます。
調べてみると、メア・アイランド海軍工廠は1996年、つい最近まで稼働しており、
そこには現在当時の建物を利用した博物館があるというではありませんか。
これは多少無理をしても行くしかあるまい。
その時に滞在していたのはパロアルトだったので、朝息子をキャンプに送り届け、
すぐに現地に向かって車を走らせました。
パロアルトからはまずブリッジで対岸に渡り、そのまま北上して、
バークリーを通過し、さらにこの写真のカークィネス橋を渡って、
海を渡り、バレーホ(Valejo)という街に行きます。
サンフランシスコに住んでいた頃、このカークィネス橋は、シックスフラッグという
遊園地や、ナパ・バレーに行くときに必ず通る印象深い地点でした。
メア・アイランドは正確にはアイランド、島ではなく、ナパ川を挟んで
バレーホの対岸にある長い半島というか砂州なのですが、とにかく
バレーホからは、たった二本しかない橋を渡って行くしかありません。
この閉鎖性も、海軍がここに工廠を置いた原因だったのだろうと思われます。
ナパ川、または「メア・アイランド海峡」に架かる橋は
「メア・アイランド・コーズウェイ」。
これはそのブリッジを渡っている写真ですが、艦船が通過するため、
跳ね橋になっているだけでなく、橋の中央に運搬のためのレールが
一本敷設されているのがおわかりでしょうか。
船舶通過時に跳ね上げる部分は、舗装されていないメッシュ状です。
船舶がブリッジを上げてもらうためには、管制室に音信号を送るか、
ビジュアルでは発光信号、手旗信号でリクエストができます。
もちろん直接電話してもOKです。
ザ・ゴーストタウンのこの雰囲気、どこかで見たと思ったら、
サンフランシスコの対岸にあるアラメダです。
アラメダには昔海軍航空基地があり、1997年に閉鎖されて、今では
空母「ホーネット」を軍事記念館として公開するほかは廃墟となっています。
凄いのは飛行場ごと廃墟になっていること。
上空からでもわかるくらい、滑走路が荒れ放題になっています。
かつて管制塔などがあったらしい部分からは根こそぎ建物がなくなり、
そのあとになぜかワイナリー、スポーツジム、そしてピザ屋が並んでいます。
アメリカというのは土地がいくらでもあるせいか、こういう
何というかとてつもなく豪快な廃墟が結構あちこちに存在するのですが、
メア・アイランドもその一つ。
メア・アイランドで最初に船が造られたのは1859年のことです。
海軍工廠の142年間の歴史で最初の海軍所属艦船として建造されたのは
USS「サギノー」( Saginaw)というスループ船でした。
また、史上初の「航空母艦」として木造のデッキを甲板に乗せ、
史上初の飛行機の発艦を行なった装甲巡洋艦「ペンシルバニア」はここで造られています。
こういった建物の佇まいを見ると、海軍工廠として
設備が充実していった時期の1900年初頭の建築だと思われます。
建物の屋上からはダクトが出ていて右側の巨大な煙突につながっており、
内部の換気を行っていたのだと思われます。
また、屋上に異質の素材の構造物が見えますが、これはグーグルマップで見ると、
後から何か必要性が生じて屋上に増築された2棟のうちの一つです。
路駐の車はこの道が駐禁ではないから車庫がわりに置いているようで、
おそらくはこの向かいにある復員軍人援護局病院の関係者のものでしょう。
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おかしなことですが、この「ミュージアム」という看板の下には
それらしい出入り口はないのです。
「おかしいな〜」
そう言いながらとりあえず周りをウロウロしていると、
一人の男性がわたしたちに
「博物館ってどこから入るのかなー」
と、やっぱり困っていたらしく聞いてきました。
「どこなんでしょうねー。わたしたちも探してるんですが」
赤レンガの工場のような建物で、錨が置いてあるので、
確かにここが博物館なのだろうとは思うのですが、まず
入り口がどこかわからず、しかも看板もなくて人もおらず、
いったいどこから入っていけばいいのか困り果てました。
やっと入り口が見つかりました。
この博物館、毎日オープンしているわけではないので、
訪問にあたってはオープンしている日時を慎重に調べておいたのですが、
それにしてもこれ、見てくださいよ。
開館時間
平日 正午から午後2時まで
第1、第3週のみ正午から4時まで
つまり第2、第4週は2時間営業ってことですね。
どうしてこんなにやる気がないのかというと、博物館に詰めている人が、
おそらくはボランティアかなんかで人手がないのに加え、
博物館を見に来る人も滅多にいないせいなんだと思います。
そういえばアラメダにも同じような博物館がありましたが、
そちらは時間が合わず、訪問することができませんでした。
それから掲示板の下には電話番号があって、
アポイントメントを入れてくれればシップヤード見学ツァーもできますよ、
値段は一人5ドルです、とあります。
機会があれば是非ツァーにも行ってみたいとは思いましたが、
例えばたった一人二人のためにツァーをしてくれるんでしょうか。
しかし、やる気のなさというのは展示状態にも現れていて、冒頭写真の
建物の前にあった錨もただ転がしておいてあるだけで正体も全くわかりませんし、
この巨大な「何かの輪切り」も、なんの説明もなく全く何かわかりません。
戦艦の主砲の筒部分を裁断したものかもしれませんが、何でしょうか。
赤錆の浮いた錨鎖、鎖。
かろうじて錨の刻印に穿たれた文字は読めます。
1935年ノーフォーク海軍工廠で造られた錨です。
この看板の横にあった鉄扉を開けてみると、入っていくことができました。
そこにも人がおらず、しばらく待っているとおばちゃんが出てきて、
「見学してもいいですか〜?」
と聞くと、いいわよー、と答えます。
入館料を払わなければ人のうちに上がらせてもらうような気分です。
入ってすぐのコーナーがこれ。
タグボートの舵輪なんですが、下の説明によると、
何やらの創立者であるケネス・ザドウィックの80歳の誕生日を
記念して、再生しましたとかなんとか。
これはもしかして・・・・。
隣がこれ。
模型の艦、何かお分かりですよね?
ケースの左端にあるモニュメントからもわかるように「アリゾナ」です。
そしてどうもこのケースは、
戦艦「アリゾナ」元乗員の会コーナー
ランプは「アリゾナ」で使われていたものでしょうか。
それはいいとして、なぜ原潜の模型が・・・・。
もしかしたら「アリゾナ」元乗員の作った趣味の模型コーナーだったりして。
ますます人の家にきた感が・・・。
かつてのメア・アイランド海軍工廠の写真もありました。
海軍のマーチングバンドが先頭になって、おそらく後ろには
パレードが続くのでしょう。
工廠の工員と海軍の水兵たちがゆるーい感じで自分の職場の前に立ってみています。
これはどこだろうとグーグルマップで調べてみたところ、
似た建物があることから、おそらくドライドックの横を通る
ニミッツ・アベニューで撮られたものらしいことが判明しました。
ただし、この写真の頃にはニミッツはまだそんなに偉くないので、
おそらくは違う名前の道だったと思います。
1940年2月、3番ドライドック建造中の写真。
ドックの形状から、これもグーグルマップで探し当てました。
なんと3番ドック、現役で仕事をしております。
今ドック入りしているこの船、みなさん、なんだと思います?
なんとこれ、アメリカ沿岸警備隊の船なんですよ。
コーストガードの船は、この間も海保の観閲式で見た方はご存知でしょうが、
白地に赤いポイントの入った船体なのでそれと正反対の色使い。
なぜ赤く、目立つように塗装しているかというと、これは
だからです。
海上自衛隊が所有する「しらせ」は「砕氷艦」ですが、こちらは
USCGC(ユナイテッドステイツ・コーストガードカッター)
なので、砕氷船、あるいは砕氷カッターと呼ぶべきでしょう。
40年前に建造されてから宗谷並みに頑張っているカッターで、
なんども南極に行き、なんども改装を受けていますが、それでも
乗員から「錆びたバケツ」なんて嬉しくないあだ名があるそうです。
何しろ40歳のご老体なのでこれ以外にも、
「ビルディング10」(10番目の建物)
「ポーラースペア」(ポーラスターに掛けて。スペアは『オールドミス』)
「ブランドX」(そういうロックバンドもあります)
「クソでかい官公庁のビル」
「楽しい真っ赤なお風呂」
まあ、図体でかくて使いにくいけど憎めないよね、みたいな?
そしてこの写真、ちょっとわたし、偶然にびっくりしてしまいました。
グーグルマップにコーストガードの「ポーラースター」がドック入りしているのが
写っていたのは本当に偶然なのですが、この次の写真、これも実は
コーストガードのUSS「ベアー」なのです。
当ブログでコーストガードアカデミーの博物館展示をご紹介しましたが、
コーストガードアカデミーで割と最近まで熊を飼育していた理由に、
黎明期にコーストガードが(当時は税収カッター部隊といった)
南極に派遣したカッターの名前が「ベアー」だったから、という説明を
もしかしたら覚えてくださっている方もおられるでしょうか。
この写真は、ここメア・アイランドのドックにいる「ベアー」、
1903年の撮影です。
この船、なんとあのバード提督を乗せて南極にも行ってるんですよね。
さて、そんな感じで、いろんな海軍の写真や資料がそれこそ無造作に、
非体系的に羅列されているメア・アイランド海軍博物館。
展示についてゆっくり、のんびりお話ししていこうと思います。
続く。