オーストリアには合計1週間滞在し、中三日ザルツブルグに行きました。
今日ウィーンを出発しザルツに移動という日の朝のことです。
ホテルのコンプリメンタリーの朝食にも飽きてしまったので、
外で食べようということになり、スタッドパークに沿って流れる川の
辺りにあるレストランに行ってみることにしました。
おしゃれなウィーンっ子に人気(でも観光客はあまり来ない)、
「メイエレイ」Meierei(乳製品という意味)は、ウィーンの三つ星レストラン、
シュタイラーエックに併設されたカフェ風レストランです。
朝食にもいくつかのコースがあり、三人ともそれを頼んでみました。
飲み物に紅茶を頼むと、可愛らしい牛乳瓶に入れた温めたミルク、
紅茶の葉を入れた袋がポットのお湯とともに出てきます。
卵料理、ハムなどの肉料理、普通のレストランではとても朝食に出ないような
手間のかかった繊細な料理が、アフタヌーンティ用のトレイで出てきます。
店内で爽やかに立ち働いているのは金髪碧眼の若いゲルマン系の男女ばかり。
全員容姿端麗で完璧に英語が話せます。
オーストリアは他の豊かな国と同じく、移民の多い国ですが、
やはり高級な店ほど人は国産にこだわっているようです。
ポーチドエッグのトッピングにあしらわれた穀類、
ヨーグルトにもチアシードとレモンをあしらい、目にも楽しい朝食です。
後から、ここの朝食はいつも予約でいっぱいで、たまたま
通りかかってテラス席が空いていたのは偶然だったと知りました。
川の向こう岸では、スタッドパーク散策で見た変な彫像の下で
市の清掃員が池の水を抜い掃除を始めていました。
カップルの犬が水入りたがっていたところですが、
清掃員に追い出されています。
池の底の栓を抜くと、水は横の川に流れ込む仕組みです。
朝食に満足して川沿いの道を戻る途中、ホームレスに説教している
犬の散歩途中のおばちゃんがいました。
近くを通りかかりましたが、言葉はわからないなりに、
おばちゃんはホームレスにあれこれと質問し、彼の行く末について
あれこれとお節介焼いているらしいのがわかりました。
おばちゃんのお節介は世界共通ですが、日本のおばちゃんは
流石にここまでやらんだろうなあ。
橋の欄干で追いかけっこをしていた鳩のつがい。
カメラを向けると急におとなしくなりました。
ザルツブルグにはホテルに荷物を預けて汽車で行こう、
ということになっていたのですが、朝食からの帰り、ホテルのロビーに
地元のレンタカーが店を出していることを知り、急に思いついて
わたしが運転して行くことになりました。
ヨーロッパでは何も言わないとマニュアル車になることがあるので、
とにかくオートマチックね、と強調したところ、割り当てられたのは
なんとジープでした。
オーストリアなのでBMWかアウディになるかと思っていたのですが。
ナビに従って高速道路に乗り、しばらくして気づいたのですが、
他の車のスピードが速い(笑)
それもそのはず、高速道路の制限速度は130キロ。
運転される方は、日本で130キロを継続して出すことは
不可能であることをよくご存知だと思いますが、ここではとにかく
道路が非常に機能的に作られているせいか、なんの問題もないのです。
三車線ある一番右をトラックなどの速度の遅い車が走り、
真ん中を走る車はだいたい130キロくらいで走行、
追い越しをする車は一番左側を140〜50くらいで走ります。
ニューヨーク郊外のフリーウェイでも皆が飛ばすので驚きましたが、
それでも130キロは出ていなかったと思うので、これは
ちょっとしたカルチャーショックです。
もっと驚いたのは、可変式の電光掲示板に制限速度が記載され、
工事をしていたりその他の理由によって、頻繁に
スピードリミットが変わることでした。
130で機嫌よく走っていると、前に「100」と出てきます。
右側にトラックが停まっているとか、工事をしているとか、
そういう事情で制限速度を集中管理しているセンターが変えるのですが、
カーナビとも連動していて、制限速度をオーバーするとたちまち
ナビゲーションが音声で、
「制限速度をオーバーしています」
と警告してきます。
周りを見ると皆真面目にこのシステムを守っているようで、
わたしももちろん厳密に規制を守って走っていました。
オーストリアはドイツではありませんが、(両者の感情的なものは
我々には伺い知ることはできませんが、どうもいる間に知ったところ、
オーストリア人はドイツ人を田舎者と思っているらしい)
ドイツのアウトバーン方式というのか、交通システムは実に機能的で、
やはり同じ民族なのだなとうっすら思わされました。
大型車に多いメルセデス・ベンツ製。
これもドイツ文化圏ですから当たり前です。
機嫌よく走り出してすぐ、わたしはフロントパネルの警告に気がつきました。
それは、禍々しくも大きな文字で、
「今すぐDEFを補給してください。
あとXキロで車のエンジンを切ってからリスタートできなくなります」
車の中は騒然となりました。
「DEFって何〜〜〜!?」
「今すぐレンタカーに電話して!」
「えー、次のガソリンスタンドで聞けばいいんじゃないの」
「アメリカみたいに人がいないかもしれないでしょ?」
こういう時に聞き間違いがあってはいけないので(笑)息子に、
(わたしは運転しているのでもちろんできませんが)電話させると、
「”ブルーを入れるんだ”って言ってるけど」
「ブルー?」
「ブルーって何〜〜〜!?」
次に出てきたガソリンスタンドには、確かに「アドブルー」という
何かを補給するガソリンスタンドみたいのがあります。
案の定人がいないので、中で売店の人に聞くと、
「ここはトラック用のスタンドだから普通のところに行って」
としか教えてくれません。
とにかくアドブルーがなんなのか、どうやったら買えるのか、スタンドで
点検してみても全く見当がつかないので、わたしたちはパーキングエリアの
建物の中に入ってwi-fiでアドブルーのなんたるかを調べるところから始めました。
とほほ。
そしてなんとかわかったことによると、アドブルーとは、
ディーゼル車の排気を抑えるための尿素水であるということ。
ヨーロッパ車は普通にディーゼル車のガソリン注入口の隣にDEF口があるのです。
「というか、自分が乗っているのがディーゼル車だって知らんかった」
DEFとはディーゼルエグゾーストフルード(Diesel exhaust fluid)で、
ディーゼルエンジンが排出する窒素酸化物(NOx)を浄化する機能を持ち、
ガソリンと同じように走行によって消費され、無くなると
警告にも出ていたようにエンジンがかけられなくなるのです。
「はえ〜こんなシステムが世の中にあったとは」
またしてもカルチャーショック。
いや、世界は広い。旅行は見聞を広めると言いますが、その通りです。
そこまではわかりましたが、問題はアドブルーはどんな形で売っていて、
どうやって車に注入すればいいのかです。
「仕方ない。とにかくガソリンスタンドで聞いてみよう」
「アイス食べていい?」
「・・・・・」
一刻も早くザルツブルグに着いてホテルを満喫したいTOは
アドブルーのあたりから珍しく超不機嫌になっておりましたが、
唐突にアイスを食べたがる息子に黙って買ってやっていました。
ちなみにオーストリアのパーキングエリアはアメリカと違い、
ものすごくちゃんとしたレストランがあります。
アイスクリームをすくってくれるのもシェフコート着用の人だったり。
アイスクリームを持ってレジに並んだところでわたしは目を疑いました。
この棚にあるのは全てタバコのパッケージなのですが、どれにも
グロテスクだったりショッキングな「タバコの害」が印刷されているのです。
心臓麻痺、奇形、白内障、舌癌、うつ病、不妊。
ありとあらゆる、考えられる限りのデメリットがこれでもかと。
どうやらこれは、日本のタバコ会社が
「健康のため吸いすぎに注意しましょう」
とパッケージに書かされているのと同じ目的のもので、
これでタバコを吸うことをためらわせる目的があると思われます。
「つまりこれを印刷したパッケージでないと売らせてもらえない・・・」
「そうなんでしょうな」
「でも、吸う人はこれでも吸うんだ」
「どうしても吸いたい人には焼け石に水でしょう」
でも、タバコを手にとるたびにこんなグロ画像を目にしていたら
とても美味しくタバコを吸うことはできなさそう。
さて、先ほど立ち寄ったガソリンスタンドにもう一回いき、
お店(アメリカと同じでガソリンスタンドにはコンビニが併設されている)
の女性店員にアドブルーのことを聞くと、案の定一人は英語が喋れず。
若い人に聞いて、店先にある1リットルタンクを20ユーロで購入しました。
「しかし、レンタカーなのにこれくらいちゃんと補充しとけよな」
TOはプンスカ怒っていましたが、このアドブルー、ガソリンと一緒で
頻繁に補充しないとならず、その割にパネルでは残量がわからないため、
点検のときに残が少ないことに気がつかなくても無理はありません。
レンタカー屋は、アドブルーを購入したらレシートを取っておいてくれ、
返金するから、と言ったらしいのですが、TOは何を思ったのか、
アドブルーの空のタンクを一緒に窓口に持って行って見せたようです。
(こういうとき、そんなの意味ないんじゃね?と内心思っていても、
何も言わず好きにさせておくのが長年の夫婦生活で得たわたしの知恵です)
とにかく購入後、苦心してタンクを開け、同梱されているホースで
ガソリン補給口の隣にあるDEF用注ぎ口から投入して警告が消えたのを確かめ、
わたしたちはようやく全員肩で息をつきました。
都会から次第に周りの景色は田園風景になってきました。
高速道路脇にはこのようにソーラーパネル畑?もありましたし、
丘陵一帯に風力発電機が生えている地帯もありました。
オーストリアは1960年以降、国内に二つの原子力発電所を有していましたが、
反原発運動の流れで行われた国民投票によって、わずか2万票差で
反原発に舵を切った「脱原発国」でもあります。
車体中がひよこで埋め尽くされたトラック。
上のドイツ語を翻訳機にかけたところ、
「オーストリア発の七面鳥のひよこ」
だそうです。
シチメンチョウってひよこの時こんななの?
と思って調べてみたら、その通りでした。
大きくなるとシマシマができて、あのトサカも生えてくるんですね。
のち
ウィーンを出てアドブルー騒ぎを含め4時間後、ようやくわたしたちは
ザルツブルグに到着しました。
TOは
「せっかくホテルにアーリーチェックインできるように頼んでたのに」
とえらくおかんむりでしたが、わたしにはスリリングでとっても楽しかったです♫
違う文化に驚いたり戸惑ったり、解決法を探して右往左往したり。
これが旅の醍醐味ってやつですよね?
続く。