「ピッツバーグでであった動物たち」で、わたしがネコ語で猫と会話して、
と書いたところ、そのネコ語に対して質問がありましたので、
その時の会話をYouTubeにアップしておきました。
コメント欄で告知しましたが、そんなところまで読まんという人のために
ここに貼っておきます。
アメリカのネコにネコ語で話しかけてみた
さて、気を取り直して、 映画「原子力潜水艦浮上せず」、後半です。
とっさに二人は自分を犠牲に他の者の命を救う選択をしたのでした。
しかし、衝突に責任を感じていたマーフィーはわからないではありませんが、
最初から艦長に反抗的で沈没のの責任は艦長にあるとして責めていた
この副長が、そういう行動に出るに至る心情などが全く表されていません。
副長はマーフィーにも脱出を促しますが、彼はレバーを握った手を放しません。
そして副長は、
「ドアは重くて外(艦長のいる方)から閉められません!」
そういって副長は艦長の差し出した手を払いのけ、
下からドアを持ち上げて自分とマーフィーを浸水する側に締め出そうとしました。
「ヘルプミー、サノバビッチ!」(手伝え、こん畜生!!)
躊躇っていた艦長は、副長のこの言葉に思わず手を差し伸べ、
ドアを閉めて彼らを永久に艦から締め出しました。
「何が何でも生きて帰りたい」
と公言し、事故の責任を艦長に押し付けて非難していた副長を。
自分が海中に没してもレバーを引き続けるマーフィ(´;ω;`)
途端に艦体は復元し始めました。
深海でハッチ一つで水をせき止めているだけだというのに、これで
まだ隔壁がビクともしないなんてさすがはゼネラルダイナミクス製です。
しかし、一難去ってまた一難、復元しようとした艦体の軌道に
大きな岩が挟まっていて、角度はまだ60度に傾いたまま。
当然DSRVの装着はこのままでは不可能です。
さて、こちら閉鎖したドアの前の艦長。
ドアの向こうはもう海水で満たされています。
ここでよせばいいのに艦長、丸窓をのぞいてしまいました。
そして見てしまったのです。
艦長は艦と運命をともにする、という海の男の不文律がありますが、
ブランチャードはとっさにそれを選択することができず、その結果
部下である副長を死の任務に就かせることを余儀なくされました。
しかし、自分が犠牲になるべきところを部下にその役目を替わられ、
しかも目の前で彼が死んでいくのですから、海軍指揮官ならば
むしろしっかり最後を見届けてやるのが筋ではないかと思うのですが、
ここで描かれたブランチャード艦長の一連の反応は、はっきりいって
ど素人のそれです。
まず、次の瞬間窓から目を背け、転がるようにドアを離れ、
顔面蒼白になって縺れる足で艦長室に逃げ込みます。
「キャプテン、何があったんですか?」
「どうしたんですか?」
皆が心配するのを振り切って艦長室に入り、ドアを閉め、
そのまま座り込んで膝を抱え震えながら涙ぐむのでした。
”艦長だけど涙が出ちゃう。人間だもん”
ってか。
一般に、潜水艦映画に出てくる艦長というのは、意志が強く精強で
人間的な弱さを決して部下に見せない理想の軍人というのがテンプレですが、
本作における、結構キレやすく(反抗する副長に食ってかかったりする)
感情的で(『どうしていいか俺だってわからん!とか部下の前で叫んだりする)
そして副長の最後を見てしまったことに恐れおののくという弱さを持つ艦長像は
等身大の一人の人間であることをあえて描いているのかと思われるシーンです。
というかですね。
製作者は軍人がぎりぎりの場面で選択するであろう徹底した職業的自己放棄、
そのためにこそ彼らには長年にわたって訓練が繰り返されてくるのだということを、
全く知らないのか、あるいはあまりにも甘くみておらんかね?
ましてやブランチャードのような司令官クラスでこれはない。(断言)
内心いかに動揺していようと、決して表に見せないのが軍人というものです。
もはや救出の打つ手なし、と思われたとき、ベネット大佐が思いつきました。
「スナーク」で指向性爆薬を岩にセットし、岩を爆破するという作戦です。
もはや無茶苦茶ですが、ここまできたらやらないで死なすより
何かやって死なせたほうがまし、と考えるのがアメリカン。(たぶん)
海軍の爆破チームがすぐさま呼ばれました。
航空機からパラシュートで海面に着水するという派手な着任です。
爆破のスペシャリストである大尉がミッキーの代わりに乗り込むことになりますが、
流石のゲイツ大佐もこの専門家を拒むことはできません。
こんな状態でもチクチクやりあう二人。
ベネット「ゲイツ、落ち着け」
ゲイツ「うるさいやつだ」
マニュピュレータで爆薬設置完了。
スイッチを押せるのは潜行艇に乗った大尉だけです。
爆破1分後にはDSRV出動という流れ。
ここでゲイツ大佐、一人で「スナーク」を操縦し、
現場に戻って爆破を見届けると言い出します。
「わたしが先ですよ」
ミッキーが必死にいうのをかるーくあしらって、ゲイツはハッチを閉めてしまいます。
「テイク・ハー・ダウン」(潜行させろ)
そしてあの指を立てて左右に振る挨拶をして行ってしまいました。
(´・ω・`)とするミッキー。
流石の専門家、爆破は成功し、艦体から岩だけを取り除くことに成功しました。
こちら唯一顔が映るDSRV乗員。
ほとんどが「ピジョン」の乗員のエキストラだったということですが、
もしかしたらこの人だけが俳優だったのかもしれません。
前にも説明したことがありますが、艦体の中央に設置してあるDSRVは、
センターウェル(井戸)という部分から海面に降ろされます。
DSRVを搭載している潜水艦救難艦は中央がこのようにくり抜かれた状態で、
ここからDERVが発進し、また揚収されます。
海中の潜航中DSRV。海軍大サービスです。
真ん中か下部に見えるのが潜水艦とドッキングするスカートとなります。
DSRVが接触する衝撃を感じた艦長は、早速与圧された外の音を聞き、
ハッチを開けました。
「サラダとコールスローとチキンをお届けにあがりました」
こういう時にこういうジョークをいうのがアメリカ映画の定石ですが、
海軍でもやはりこういうノリなんでしょうか。
これに答えて艦長は、
「コールドターキーもな」(”Cold turkey, too.”)
なんて答えています。
字幕ではこれを意訳して、
「遅かったじゃないか」
となっていますが、コールドターキーにはちょい否定的な意味があり、
(日本語だと『冷飯』に相当する)艦長はジョークに対して
ちょっとした皮肉まじりのジョークをかまして応酬したということです。
そして、救難艇は怪我をした者を優先して乗り込ませ、無事出発しました。
しかし、両者を至近距離で見ている潜航艇のゲイツは気が気ではありません。
再び潜水艦が擱座している地盤では地崩れが始まっていたのです。
ベネット大佐は「ピジョン」に移乗しました。
DSRVが帰投するのを迎えるためです。
センターウェルにDSRVが浮上。
この作業をしているのはおそらく間違いなく本物の乗員。
ペグのようなものを差し込んで艇を固定しているようです。
早速負傷者のためのストレッチャーが運び込まれました。
後ろの人たちもまず間違いなく「ピジョン」乗員だと思われます。
乗員がDSRV上部で補助を行うために駆け上って行きました。
生還第一号は副長にサプライズを企画したカルーソです。
拍手で迎える本物の「ピジョン」乗員たち。
給養の人までいますね。
重症の乗員も無事救助されました。
しかしすぐさま現場に戻ったDSRVが残りの乗員を救出し始めたとき、
ついに「ネプチューン」艦体が地滑りを起こし始めたのです。
そこでゲイツのとった驚くべき行動とは。
「スナーク」を艦体の下に潜り込ませ、その動きを止めることでした。
DSRVが救出を終え、潜水艦から離脱するのを待っていたかのように
すぐに「スナーク」は潜水艦に押しつぶされ、
潜水艦とともに地滑りを起こして海底に沈んでいきました。
それはゲイツ大佐の命が絶たれた瞬間でもありました。
画面を見守っていた人々は無言でミッキーの周りを離れて行きます。
ゲイツ大佐、我が身を呈して艦を守った副長と若き士官マーフィー。
彼らは”That others may live”を体現したのでした。
彼らの犠牲のうえに第二弾のDSRVも無事に帰投しました。
最初に乗艦したのは「ネプチューン」艦長ベネット大佐です。
「ピジョン」には鐘が2回ずつ鳴らされ、艦長がハシゴを降りるとともに
「ネプチューン・アライビング」というアナウンスが流されました。
「ポール」
ベネット大佐は旧知のブランチャードをまずファーストネームで呼びますが、
次の瞬間敬礼をして、
「ウェルカム・アボード・キャプテン」
「ピジョン」の乗員が皆集まってきて握手を求め、その中の一人は
早速艦長に熱いコーヒーを手渡しました。
命からがら死地から脱出してきた人にいきなりコーヒーを渡し、
もらった方も美味そうにそれを飲むというのが、いかにもアメリカです。
一口コーヒーを口にした艦長の表情は、しかし悲痛なものでした。
エンディングには、こんな字幕が流れます。
米海軍のDSRVは今日実在している。
世界中どこの海であろうと、アメリカ海軍の潜水艦から
乗員を救出することが可能である。
米国のDSRVは原子力潜水艦「スレッシャー」の沈没事故(1963)
をきっかけに開発されました。
「ミスティック」級DSRVが完成したのは1970年、
運用が正式に始まったのはその7年後となります。
この映画が制作された1978年は、運用が始まってすぐの頃で、
アメリカ海軍としては「スレッシャー」のトラウマから立ち直り、
深海でも潜水艦救助ができるということを世に広く膾炙させるために
全面的な本作への映画制作協力を行ったのではないかと思われます。
終わり。