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ナチス党の軍服と国防軍無罪論〜ウィーン軍事史博物館

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アドルフ・ヒトラーが最高権力者に上り詰めて最初に何をしたかというと、
ナチス党の制服のデザインを熱意を込めて制定することでした。

そのミッションに直接関わり指揮したのが宣伝相だったゲッベルスです。

ゲッベルスは貧相な小男で、外見の魅力に恵まれていなかったこともあってか、
自分を包む服装については執念とも言える完璧さを求め、なんでも1日として
同じスーツを着ないというくらいのお洒落さんだったそうですが、その彼が

「みすぼらしい軍服では人々に畏怖を感じさせることはできない。
完璧な美を誇る制服なら、着るだけで長身で堂々とした体躯に見せることができ、
強い軍隊であるというイメージを植え付けることができるのだ」

という考えで選びに選んだナチスの制服は、その完成度の高さと、
人の心を掴んで離さない魅力で、のちのファッション史にまで影響を与えました。

その制服を作っていたのが今もある紳士服ブランド「ヒューゴ・ボス」の創始者、
フーゴ・フェルディナンド・ボスであることもここでお話ししたことがありますが、
巷間言われるように全てをボスがデザインしたわけではありませんので念のため。

今日は主にウィーン軍事博物館に展示されていた併合時代の、
オーストリアナチス軍の制服を中心にご紹介していいきます。

まず、アンシュルス以降、第二次世界大戦が終わるまでのオーストリア軍の制服が
このように並べて鉄兜や鞄などの装備とともに紹介されています。

その前に、ガラスケースの上部にみえる

「OPFER DER AGGECION」(侵略の犠牲者)

の下には、わざわざ赤い文字で

ソ連
北アフリカ
ギリシャ
ユーゴスラビア
フランス
オランダ
ベルギー
ルクセンブルク

とドイツ語の国名が書かれています。
侵略とはもちろんナチスドイツが行ったことでしょう。

制服の展示の上の部分にスペースが余ったからといって
わざわざこういうことを書くというのはどうかと思いますが、
これが当博物館の姿勢の表れかもしれません。

右側のプロペラは戦闘機

メッサーシュミット Me 109

のものです。

Messerschmitt Me 109 engine start (original sound)

このプロペラが回っているだけの映像を見つけました。
この次のバージョンではきっと本当に飛ぶんだと思います。

画像左側の制服は、国防軍の将校(士官より将校という言葉がぴったり)
のものですが、ちょうど先日、作業をしながら流していたyoutubeの映画、

「フランス組曲」

で、フランス系ユダヤ人の主人公と恋に落ちるナチス将校が
まさにこの制服で(当たり前か)出てくるのを見たばかりです。

映画『フランス組曲』予告編

前に一度「なぜ戦争映画にはピアノを弾く将校が出てくるのか」というテーマで
その「事始め」となった映画と「シンドラーのリスト」を紹介したことがありますが、
この映画でも、ナチス将校は娑婆では作曲家だったというありがち設定。

進駐し接収した女性の自宅で自作の美しいピアノ曲を奏で、
女性は人妻でありながら彼に惹かれていく、という、
もうこれだけでなんというかお腹いっぱいのシチュエーションでした。

ナチス将校を演じるマティアス・スーナールツという俳優が、
背の高いモッくんに見えてしょうがなかったのですが(笑)
とにかくこの軍服が似合うタイプを抜擢したと見た。

ところで、余談ついでに、あらためて「シンドラーのリスト」
の将校ピアノシーンをYouTubeで見つけたので貼っておきます。

Schindler's List (4/9) Movie CLIP - Bach or Mozart? (1993) HD

きっとスピルバーグ監督は金髪でドイツ風イケメンの音大生かなんかを
エキストラで呼んできたんじゃないかと思います。

というのは、彼の指の動きを見る限り本当に弾いています。
吹き替えでないことは、ちょうど彼が映った瞬間、(1:45)
左手をミスることでも明らかです。(鬼の首とったように)

ちなみにこの曲(バッハのイギリス組曲前奏曲)最後まで音が止まることがなく、
それだけにミスなしで弾き切ったときの達成感が半端ありません。
おそらくこのナチス将校も、ちょうど任務中にピアノを見つけたので
練習中のこの曲を弾きたくてたまらなくなったのではないかと想像できます。

もちろん監督のシーン挿入意図は全く別だと思いますが。

前から空軍のいわゆるトゥーフロックというわれるジャケット、同じく空軍、
海軍水兵、海軍士官で一番向こうは海軍のカーキの制服のようです。

赤いラインが入った制服は、国防軍士官用でしょう。
この辺、だいたいの予想で言っていますので、もし間違っていたら教えてください。

国防軍の制服各種とその装備のいろいろ。
迷彩服がとっても今風でびっくりです。

ドイツ国防軍は昔から鉄十字を使用しており、それは
ナチスの鉤十字とは違うものとして現在もドイツ軍のシンボルです。

国防軍とナチスについて、ちょっと整理するために書いておきますが、
ドイツ軍にはいわゆる「国防軍無罪論」が存在します。

これは、

「ドイツ国防軍は国家元首であるヒトラーの命令に従っただけで、
戦争に関する責任はない」

と国防軍の軍人がニュールンベルグ裁判で主張したことに端を発します。

ドイツ国防軍は非政治的なヒトラーの道具に過ぎず、あくまでも
国家元首に服従しただけであり、またユダヤ人やスラブ人に対する残虐行為は
ナチ親衛隊によって行われたもので、ドイツ国防軍は通常の戦争を行ったに過ぎない、
として、ナチズム体制と国防軍を明確に分離するのがその主張です。

「クラウス・フォン・シュタウフェンベルク大佐」の画像検索結果

「ワルキューレ」でトム・クルーズが演じたヒトラー暗殺計画の首謀者、
クラウス・フォン・シュタウフェンベルク大佐らも国防軍でした。

国防軍はプロフェッショナル集団であり、政治に関与していなかったとされたのです。

 

しかし、だからといっていわゆる戦争犯罪を糾弾されなかったわけもなく、
東部戦線で国防軍がユダヤ人の組織虐殺を行っていたことも戦後明らかになりましたが、
これを

「純粋に組織的な犯罪とするか」

「国防軍もまたナチスの犠牲者か」

については、今でも議論がなされている状態なのだそうです。

 

ソ連軍兵士の制服も紹介されています。
兵士の制服一つとってもやはり洗練度においてイマイチな気がします。

言わずと知れたSS、親衛隊の黒い制服です。
ちょうど光ってしまって見えませんが、軍帽の真ん中には
トーテンコップ(髑髏)帽章があしらわれています。

SSに黒いスーツが採用されたのは1932年からで、黒という色はドイツにとって、
神聖ローマ帝国やプロイセン王国の旗の一部を構成する色でもあり、
象徴的な色であることから、「高貴な部隊」を意味していました。

圧倒的にデザインの評価が高いのがこの黒に褐色のシャツの取り合わせですね。 

アメリカ軍の装備やフライトスーツ一式も展示されています。
曲がった機銃やB-17の部品など、これらは撃墜された機体のものでしょうか。


前面にあるものは、

1945年5月7日「Ostmark」の降伏証明書

ドイツ語と英語による

と書かれています。
「オストマルク」ってどこの地方のこと?と思われるでしょう。

オーストリアという国は、ドイツに併合された後、ドイツという帝国の
「一つの州」ということになったのですが、1940年からプロパガンダ的に
地域名称も「 Land Österreich」から「Ostmark」に変更されていました。

ヒトラーが地下室で自決したのが4月30日、その一週間後には
オーストリアは降伏したということになります。


続く。

 

 

 


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