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Channel: ネイビーブルーに恋をして
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フランク・ロイド・ライト「フォーリングウォーター」

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うちの玄関ホールには、MKがレゴで作った世界の建築シリーズの
「帝国ホテル」を中心に「グッゲンハイム美術館」そしてライトの
「フォーリングウォーター」が飾ってあります。

ピッツバーグ滞在の時、知人に車で2時間ほど郊外に行けば
この有名な歴史的建築が見られると知人に教えてもらい、
最初の週末に早速家族で行くことにしました。

しばらく郊外に向かって走ると、農村地帯が現れました。

何だろうこのロールは・・・。

草のないところに転がっているのが何か意味があるんだと思いますが。

ピッツバーグを出てフリーウェイを約1時間半。
フォーリング・ウォーターに続く道は山の中の一本道になりました。

見学は前もってインターネットで申し込むことができます。
HPには見学ツァーの空き情報が公開されていますから、そこから予約し、
ゲートにあるセキュリティでその予約番号を照合してもらって入場し、
駐車スペースに車を停めて現地まで歩いていきます。

たくさんの人が見学に訪れるため、観光客用の受付&待機場所が設置されています。

見たところごく最近リニューアルされたのではないかと思われました。
受付にチェックインすると、ツァーの出発時間までここで待ちます。

奥に立っているグループのいるところが、ツァー出発場所です。
ここからグループは現地まで約5分間の距離を歩き、現地に待っている
ボランティアのガイドの案内で見学を行うというわけです。

早く着いてしまいツァー開始まで時間を潰す人のためにショップも用意されています。
こんなところで買う人がいるのかどうかわかりませんが、ライトの照明器具、
有名なタリアセンも売っていました。

ライトのぼんやりとしたファンであるところの(笑)我が家は、このランプを
カード会社のポイントを貯めて手に入れ、常夜灯として愛用しています。

流石に建築を見に来る人に向けてのショップなので、センスのいいものが多く、
旅行先でなければ目の色を変えて見てしまいそうなお洒落なグッズであふれています。

今回アメリカのこの手のお土産物屋で、幾度となく目撃したのがこの
フリーダ・カーロの人形。
画家として有名というよりキャラクターみたいになっていて、
一目でフリーダだとわかる人形がいろんな趣向で販売されていました。

アメリカ人にとってのフリーダ・カーロって一体・・・。

 

わたしはちょうどマウスパッドが欲しかったのを思い出し、
記念にフォーリングウォーターのプリントされたのを買いました。

時間になり、集合場所に行くと、そこにいるボランティアが、

「ここを歩いていくとガイドが待っています」

といって送り出します。
この同じグループの人たちとは1時間余りずっと一緒にいるので、
終わる頃にはすっかりお互い見知った仲になっていて、
ちょっとお互い話をしたりすることもあります。

前を歩いている三人のうちとてもよく喋る左の女性は、MKに

「中国人?」

と聞いてノー、と一言ぴしゃりと返されていました。

どこの観光地にも中国人が溢れかえっている昨今ですが、流石に
ピッツバーグから1時間半離れたここでは、爽やかなくらい?
中国人団体観光客の姿を見ることはありませんでした。

たまに東洋人を見ても、それは現地に住んでいる人たちです。

今回インターネットで調べたところ、日本ではいつの間にか
フォーリングウォーターを「落水荘」とまるで鬼怒川温泉の宿みたいな名前で
呼ぶのが正式(wikiもそうなっている)であるらしいことがわかりました。

いちいちタイプするのが面倒というわけではありませんが、
当ブログもそれに倣って落水荘とします。

さて、落水荘前に到着すると、番頭が・・じゃなくてガイドが現れ、
ツァーの前に外観の説明から始めました。

この屋敷は「ベア・ラン」(熊走り)という名前の川に続く
名前のない小川と滝の上にまたがるように建築されています。

家の中から画像左手の階段を降りると水面に降りることができるのですが、
さて、果たして住人がこの階段を水辺に行くために降りたことが
何回あったんだろう、と思うほどの非実用的な建築です。

もっとも、この家はピッツバーグで財を成した百貨店経営の
エドガー・カウフマンが、当時工業が盛んで、工場の出す肺炎などで汚れた
ピッツバーグの空気にうんざりし、週末だけでも自然の中で過ごしたい、
という希望のもとに依頼されたものだったので、
実用的かどうかなどということは最初から度外視されていました。

建築されたのは1935年、それから今日までの間に、
ライトの手によって新しく切り開かれ、構造物が構築された場所には
自然がそれを包み込むように木々の枝や緑が覆って一体となっています。

このあとわたしたちは内部を見学したのですが、最初に見たのがこの写真の
下の階にあったダイニング&リビングルームです。

大きな鍋を仕込むファイアプレースを中心とした広い空間ですが、
アメリカの家にしては天井は低めでした。

そして、思ったのが夏はともかく冬は相当寒かっただろうなということ。
ガイドの話によると、やはり住んでいる人たちは冬の間、
皆出来るだけ上階の(水面から離れた)狭い部屋しか使わなかったとか。

歴史的かつ革新的なデザインの建築であり、スミソニアン曰く

「死ぬ前に訪れるべき28の場所のライフリストの一つ」

また、タイム誌曰く

「フランク・ロイド・ライトのもっとも美しい仕事の一つ」

である代わりに住んで心地の良い住まいではなかっただろうなと
わたしは予想できていたことながら実物を見て確信しました。

フォーリングウォーターが建設される前の現地の写真です。
少年が抱えている「ベア・ラン」というのはこの地方に流れる川の名前で、
現在はこの一帯に広がる自然保護区の名称ともなっています。

カウフマン家の夫妻とその息子が、新築の家で撮った記念写真。
真ん中の建物の写真がカウフマン家が経営した百貨店、カウフマンズです。

名前からもお分かりのようにドイツから移民してきたユダヤ人の息子で、
イエール大学を出て叔父が創業したカウフマンズの経営に参加し、
実業家としたのちは芸術に惜しげも無く援助を行いパトロンとなりました。

右側は彼の最初の妻であったリリアン。
彼らはいとこ同士(リリアンはカウフマンズ創業者の娘)だったので、
ペンシルバニア州では結婚できず、わざわざニューヨークに行って
そこで結婚をしたということです。

左側のイケメンは、彼らの息子エドガーです。
居間には息子のエドガー・カウフマン・ジュニアの若い頃の肖像画がありました。

https://fallingwater.org/wp-content/uploads/2017/09/Collections-FW-198973-FallingwaterLivingRoom-500x500-1.jpg

長身のイケメンで富豪の一人息子、さぞかしモテただろうなどと思いますが、
彼は生涯独身で、1989年に亡くなったときにはパートナーのポール・マイエンの手で
遺灰をフォーリングウォーター敷地内に散骨されました。

ちなみに、このマイエンという人は、先ほどわたしたちが通過してきたカフェ、
ギフトショップ、受付のあるパビリオンの建設を監督したという人物で、
死後は彼もここで散骨されてパートナーと共に眠っているということです。

 

ところでこのジュニア、わたしたちがピッツバーグに来る前滞在したウィーンで
宿泊していたホテルの近くにあり、いつも通り過ぎるときに見ていた
ウィーン応用美術学校で若き日に留学して勉強していたことを知りました。

モノンガヒラに沈んだ爆撃機の話に続いて、この二都市間に関係のあるちょっとした
エピソードを知り、またしても不思議な気がしたものです。

それはともかく、この美大出のジュニアがライトの自伝を読んでファンになり、
彼の工房で少しインターンをしたのが、落水荘誕生のきっかけとなります。

エドガーとリリアン夫妻は、息子の職場を訪ねて工房に立ち寄り、そこで
初めて彼らはこの世界的な建築家と出会うことになります。

大気の汚れた当時のピッツバーグから週末「ハイドアウェイ」するための
別荘の建築を、フランク・ロイド・ライトに任せたいという希望は
もともとカウフマンの思いつきでしたが、ジュニアはそれをつよく支持しました。

ライトがこの地に建築を任されたとき、志したのが「自然との調和」でした。
その思想の一端をここに典型的な例として見ることができます。

元からある自然構造物を出来るだけそのままに、そこに調和させるように
建築物を付け足していく。
この部分など、大きな岩の強度なども考慮した上でそこに楔のように基礎を打ち込み、
建物と繋げてあります。

 

こうして見ると、よくぞここまで設計を、と驚愕します。

そもそも、滝に跨るように家を作る、というライトの思いつきは、
滝に面した川の南岸に位置する家を静かな求めていたカウフマンの想像を遥かに超え、
当初彼はそのアイデアをとんでもないと激怒したとまで言われています。

経年劣化による剥落などの修復をいつも行う必要があるらしく、
見学コースの最後には専用の部屋に集められ、是非ともご寄付を・・、
というようなお願いがありました。


劣化が激しいのは湿度と日光への露出の大部分が原因で、雪解け水のため
外壁は頻繁な塗り替えが要求されます。

また、バスルームに使われたコルクタイルは、水がしみて破損するため、
コルクを取り替えて修復し続ける必要があります。

この写真にも見られる片持ち式の梁は経年とともに激しくたわみ、 
一時は支える部分が破損限界に達したため、重量を支えるための支えを設置しました。

これらの崩壊を防ぐため、高強度のスチールケーブルが
ブロックとコンクリートの外壁に通され、恒久的な強度を保っているそうです。

家を支える構造物は、切り開かれた岩の壁に刺さるように取り付けられています。

ライトが石を積み重ねた柱のデザインの着想を得たのは右側の岩層からです。

彼はこの依頼を受けた時もう67歳、建築家としての評価はもう終わっていました。
しかし、この、芸術に対しては鷹揚すぎるほどのパトロンからの依頼は、
天井知らずに経費がかかる彼の芸術魂に火をつけ(笑)、結果として
それが70歳になったライトの代表的な作品となったばかりか、これ以降彼には
依頼が殺到して、それはとても本人が生きている間には終わらないだろう、
というくらい売れっ子になってしまったというから人生わかりません。

ライトの年表を見てみると、帝国ホテルから10年間の間、全く作品がなく、
それと対照的にフォーリングウォーター完成から1年の間に
有名な作品だけでも13にも上る量をこなしています。

ライトはフォーリングウォーター設計の最中、
かかるコストも天井知らずになり、流石にそこまでは、ということで
アイデアを諦める場面もあったそうですが、芸術家にとって
そのインスピレーションを形にするのにはパトロンが必要である、
という事実を、これほど具体的に表した例はないのではないでしょうか。

室内は完璧に撮影禁止でしたが、外観からは撮り放題。
フォーリングウォーターを望むベストポジションから。

内部の見学では、いくつかの部屋に日本の版画が飾ってあるのに、
日本人であるわたしは大変誇らしい気分になりました。

フランク・ロイド・ライトは日本滞在中浮世絵などをたくさん買い求め、
持って帰って依頼主に家ごと売っていたようです。

ボランティアも彼の自然との調和する作品のコンセプトは
日本と深く結びついている、というようなことをいっていましたし、
この地を訪ねた安藤忠雄氏もこういっています。

「ライトは日本の建築から建築の最も重要な側面、空間の扱いを学んだと思います。
フォーリングウォーターを訪れたとき、わたしは両者に通じる共通の感性を見出しました。
しかし、ここにはさらに魅力的な自然の音が加わっています」

先ほども書きましたが、極寒のペンシルヴァニアの山中にあるこの家は、
特に冬の間寒く、人々は上の階に固まっていたそうです。

わたしはモルジブで海の上に立つコテージに宿泊したとき、夜、
波の音がうるさくて寝られなかったことを思い出しました。
波の音でああなのに、勢いよく流れる滝の水音が夜どうだったか(笑)

週末の隠れ家だからこそ我慢?できたということかもしれません。

カウフマン家は、その人脈からあらゆる有名人を招待し、
ゲストハウスとしてここに宿泊させました。 

カウフマンの妻、リリアン。

馬術と自然を愛し、ベアランではそれらを存分に満喫しました。
美術愛好家としては、メキシコの画家ディエゴ・リベラの作品を蒐集し、
邸内にはいたるところでそれをみることができます。

ディエゴ・リベラはフリーダ・カーロの夫でもありました。
(なるほど、それでフリーダ人形が売店に)

しかし、傍目から見て何の不自由もないこのセレブリティ夫人は、1952年、
セコナール(不眠症治療薬)の過剰摂取で亡くなっています。

夫人の死後、カウフマンもまた、

「長年の愛人であった秘書と結婚し、7ヶ月後に骨がんで死亡した」

とあるのですが、これらの淡々とした事実から、決して彼らの夫婦生活が
上手くいっていなかったような匂いを嗅ぎとるのはわたしだけでしょうか。

しかしながら、カウフマンは死後、リリアンとともに
フォーリングウォーター敷地内の霊廟に眠っています。

カウフマン家の三人は、死してなおフォーリングウォーターに
魂を留めることを選んだということになります。

それにしても、カウフマンの後妻はここに眠ることを許されなかったのに、
息子のパートナーという男性が、ちゃっかりここに
遺灰を撒いてもらったというのは、便乗しすぎ?と思いました。

絶景ポイントには人だかりができていました。

皆順番にいい場所で自撮りをしたりしています。

多額の寄付をしたドナーでしょうか。
ベンチに刻まれた名前を検索してみたら、ピッツバーグの篤志家のデータが出てきました。

タイムズ紙の言うところの「人生で一度は訪れるべき場所」の一つ、
といえるのかどうかまではわかりませんが、今回ここに来られたのは
大変ラッキーなことだったと思います。

だって、わざわざこれを見るためにピッツバーグに行くことなんて
アメリカ人か安藤忠雄でもない限り普通思いつきませんよね。

 

 


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