USS「スレーター」の見学が続いています。
いわゆる甲板階から一階下の「ファースト・プラットフォーム」にある
CPOと下士官の居住区兼食堂であるワードルーム、クルーメスを見学し、
もう一度甲板階=メインデッキに上がってきました。
最初に見かけた時にも何かわからなかったこの物体ですが、
クォーターデッキの後方に位置しており、先端から線につながっていること、
「ハイボルテージ」と書かれていることから、電源を後方の装置に
供給するためのコンデンサではないかと想像します。
「クォーターデッキ」は、帆船時代はメインマストの後ろのデッキのことで、
ここで船長が指揮を執り、船旗が揚げられていた場所です。
日本語では普通に「後甲板」と呼んでいますが、これを英語で調べたところ、
なぜか我が海上自衛隊の、いまは亡き「かとり」の写真が出てきました。
わたしはこの部分をいままで「舷門」だと思ってきたのですが、
英語Wikiの説明によると、
Quarterdeck of a Japanese warship.
Note the watchstanders in dress uniforms, the wooden plaque,
and the proximity to the accommodation ladder.
日本の軍艦のクォーターデッキ。
特筆すべきはドレスユニフォームを着用した見張りが立っていること、
木製のプラーク(艦名が書かれた看板)があること、そして
通常のラッタルが近くにあることである。
ちなみに、どういうわけか「Quarterdeck」のWiki日本語はありません。
せっかくですのでこの部分の日本語訳を載せておくと、
今日、 クォーターデッキとは特定のデッキではなく、儀式エリアとなっていて、
艦が港にある時にはレセプションエリアとして使用されます。
帆船の時代からの伝統で、そこでは艦長が特別な権限と特権を持ちます。
港では、クォーターデッキが艦船の最も重要な場所となり、
その主要な活動すべての中心的な制御ポイントですが、航海中は
ブリッジが艦のコントロールを行うため、ここでの重要性は減少します。
クォーターデッキでは清潔さと外観に特別な注意が払われています。
ここに立つ者は、 「ユニフォーム・オブ・ザ・デイ」といって、その日
上級士官によって決定され、指示された制服を着用しますが、彼らは
特に清潔さとスマートな外見を呈している必要があるとされます。
「その日の制服」を着ていない乗員は、任務上必要でない限り、
クォーターデッキを横断することを避けるのが決まりです。
また、このエリアに制服を着た人員が入ると敬礼しなければなりません。
司令官によって特別に許可され流ようなことがない限り、クォーターデッキでの
喫煙およびレクリエーション活動は禁止されています。
ところで、岸壁に係留されている自衛艦でのレセプションに参加した方は
ご存知だと思いますが、デッキには二箇所ラッタルが掛けられますよね。
このラッタルも名前がついていて、岸壁から見て右側を「starboard」
左側を「port」とアメリカ海軍では呼んでいるようです。
また、ラッタルのような船の乗り降りに使う通路の名称は
「ギャングウェイ(gangway)」なので、左なら「ポートギャングウェイ」と呼びます。
そして右側、スターボードギャングウェイは、通常、
士官とその訪問者専用、左のポートギャングウェイは他の全員、
と使用できるラッタルは階級で決まっているのですが、
悪天候の場合は階級に関わりなく全員が風下にある方を使用します。
小さくてギャングウェイが一つしかない場合はこの限りではありません。
その下にあるのが時鐘。
風で鳴らないようにベルを固定してあります。
15世期から船の上では鐘によって時間を知らせる方法を取っていました。
30分おきにひとつづつ鐘の音が増えていく方法です。
たとえば時間区画でいう「モーニング」は0430の1点鐘から始まります。
その後、
8点鐘が鳴らされる4時間を一塊りとして「モーニング」。
その次は「フォアヌーン」としてまた1点から始まるという具合です。
ワッチを行っている乗員は、8回鳴らしたら仕事は終わりです。
ただし、「ドッグワッチ」と呼ばれる1600から2000までの間は、
「ファーストドッグワッチ」4PM-6PM
「セカンドドッグワッチ」6PM-8PM
と分けられて、この時間にワッチ勤務に当たった人も、
夕ご飯を食べ損なうようなことがないようになっています。
このワッチのシステムがアメリカで法制化されたのは1915年のことです。
それ以降、100総トン以上のすべての米国商船は、法律により、
「乗組員を3つのグループにに分割し、4時間オンと8時間オフで任務につくこと、
そしてドッグワッチを『ワッチ一回分』と数えること」
と決められたのです。
またドッグワッチについては、この時間が1日のうち一番、
人が疲労のため気が緩む「魔の時間帯」で事故が起こりやすいので、
全員の気を引き締めるために変則にしているという話もあります。
我々はそのクォーターデッキ付近を歩いています。
後ろに見えているのは#3の 3″/50口径砲。
ちなみにこの砲はまだ生きていて、砲撃が可能です。
展示されているハドソン川河岸で今火を吹く50口径。
軍艦の上にも潤いを。
ここでわたしたちは階段を上がってスーパーストラクチャーと呼ばれる
構造物の2階に案内されました。
メインデッキの一階上にあたるスーパーストラクチャーに設置された
ボートダビッドです。
ホエールボートと呼ばれる作業艇を収納しておくところですが、
この時ボートは仕事を終えたばかりで岸壁にいました。
駆逐艦におけるホエールボートの役割というのはパイロットの救助です。
また、艦同士の連絡や、外側のペンキ塗りにも活躍しました。
もちろん艦が沈む時にはライフボートになります。
スペック上22名が最大積載人員数ですが、それは最悪の場合に限られます。
ボートダビッドの説明を聞くツァーの人々。
HPより。ここにボートが吊られている時の状態。
ご覧のようにたくさんの索を必要とします。
ここに見える索の全てはホエールボートを繋ぐために必要です。
もやい結びかどうかわかりませんが、結び目が無数にありますね。
さりげなく砲弾がありましたが、この形からみて
これは砲弾のラックであった可能性高し。
スーパーストラクチャーの上は、いろんなものがひしめいています。
ダズルカモフラージュの二色に塗り分けられたスタック(煙突)は右。
左は20ミリ二連装マシンガンのシールド(銃座)です。
実はこの手前に、本当は野菜の倉庫があったらしいのですが、
改装後の「スレーター」にはありません。
スーパーストラクチャーデッキの前方にあるのは
レイディオルーム、無線室です。
入ってすぐのところには安全のしおりが貼ってありました。
一般にラジオルームまたはラジオシャックと呼ばれる
メインラジオセントラルは、無線送信機と受信機を備え、
艦の長距離および短距離の電子通信を行っていた部署です。
通常、3人の乗員(オペレーター2、指揮官)が配置されていました。
一般的に、軍艦は無線沈黙下で運用され、必要な敵情報のみを送信します。
今は知りませんが、海軍本部が全艦隊に向けて送ってくるメッセージを、
「ザ・フォックス・スケジュール」と称していました。
(アメリカのフォックスニュースがこの意味と関係あるのかどうかは知りません)
この、ほとんど絶え間なく流れてくるメッセージを一言も聞き漏らすことなく
捉え続けることを“Guarding the Fox”(フォックス監視)といい、
それは決して終わることのないプロセスでした。
艦船は一般的に電波のない静寂の下で運航されていたため、
メッセージをすべて受信したかどうかの確認は全く期待できませんでした。
しかし、少なくともそれを聞き逃すということは
艦は主要な行動に参加できなくなる可能性があるのですから、
フォックス監視は艦の命運をも握る重要な任務だったのです。
第二次世界大戦中、無線オペレーターはタイプライター、または
「ミル」(mill)に座って、暗号化されたモールス信号で
受信機に届いたメッセージをタイプアウトしていました。
艦宛てのメッセージは通信担当者に引き渡され、通信担当者は
「暗号化」マシンのコードルームで解読し、艦長に渡しました。
それがこれです。
昔はもちろんこのようなクリップなどはありませんでしたが。
続く。