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Channel: ネイビーブルーに恋をして
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映画「Uボート」〜"Mußi denn (別れ)”

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ついにこの映画を取り上げるときがやってきました。

「Uボート」。

なんと公開されたのは1981年、もう40年近く前のことになります。

わたしは当時そんな映画が公開されていたことすら知らなかったのですが、
当時は世界中で大ヒット(といってもハリウッド的なヒットではなく)し、
外国映画が流行るのが稀といわれるアメリカでも、場所によっては
映画終了時に観客が立ち上がって拍手したというくらい評価されました。

戦争映画の枠を超えて、「一度は観るべき映画」として名前が上がることもあります。

わたしもこの世界に足を突っ込んでから初めて観た映画ですが、
まず40年前の映画だというのに古さやチャチさを全く感じません。
そして戦争映画なのに何度も観たくなる作品の一つです。

それでは先も長いことですし、さっさと始めましょう。
映画は第二次世界大戦中のUボートが大西洋に次々と出撃し、
4万人のUボート要員のうち3万人が帰らなかった、という
英語の字幕から始まります。

本作はもともとドイツ製作のドイツ映画ですが、日本で配布されているのは
コロンビアピクチャーズのタイトルとなっています。

日本人はドイツ語を字幕で観ることになんの抵抗もないのですが、
アメリカ人には字幕を読む習慣がないため、ドイツ語の他に
アメリカ配給向けに英語バージョンがわざわざ制作されているのだそうです。

撮影は同じシーンをドイツ語と英語で繰り返して撮っていくという
なんとも手間のかかる方法で行われたのですが、出演者は全員が
英語が堪能だったため、吹き替えなしで行われました。


映画の原作は、実際にU-96に乗り組んで取材を行った小説家、
ロータル=ギュンター・ブーフハイムの小説がもとになっています。

ブーフハイムは映画で海軍報道班員のヴェルナー少尉がやっていたように
写真を大量に撮りまくって記録を残したそうですが、映画化にあたっては
それらの五千枚におよぶ写真をもとに模型が作られ、撮影に使用されました。

 

さて、そこで映画が始まるわけですが、字幕の後、画面が緑色になって
いつまでも変わらないので、CDに不具合があるのかと思ってチェックした途端、
前に観た時も同じ勘違いをしたことを思い出しました。

延々と続く緑の画面から微かに潜水艦のソナー音が聞こえてきて
鯨のような艦体が海中を横切り「Das Boot」というタイトルが現れて映画は始まります。

Uボートがラ・ロシェールから出撃する前夜、壮行パーティが開かれました。
画面手前が本作の主人公でありUボート艦長(役名)です。

演じたユルゲン・プロホノフ(ロシア系?)は、自主映画に出ていた俳優で、
この映画をきっかけに有名になりその後はハリウッド作品にも出ています。

映画のヒットにより監督のヴォルフガング・ペーターセンも
その後ハリウッド映画に進出を果たしました。

士官クラブへの道中、車の前に水兵が立ち塞がり、
すっかり泥酔状態でメルセデスのボンネットをバンバン。

「ボーツマン(乗員)だ」

艦長は全く動じず、道端に並んだ後水兵たちの「水の放列」に見舞われても
平然とメルセデスのワイパーを動かして進みます。

ちなみにこのシーンでは背後から仕込まれたホースが使用されました。

右は艦長と付き合いの長い機関長。
役名は L.I. (Leitende Ingenieur)。
”Leitende”は「主任」 Ingenieurは「エンジニア」で機関長です。


艦長は劇中「ヘア・カーロイ」と呼ばれていますが、
「カーロイ」は「カピタン・ロイテナント」の略でドイツ海軍の慣習です。

艦長はドイツ語のwikiによると、「Der Alte」が役名となっています。
意味は「老人」ですが、ドイツ軍でも艦長を「オヤジ」と呼ぶ慣習があるのでしょう。

左はこの映画の「観察者」であり、原作者がモデルと思われる、
報道班員のヴェルナー少尉。

(わたしの予想によると予備士官で大学は文系、専攻はドイツ文学)

世界中から突っ込まれていた映画「ミッドウェイ」のオフィサーズクラブと違い、
ここは士官ばかりで下士官兵はおりません。
士官なのに(いや、士官だけだからか)皆だらしなくベロンベロンです。

ここに来ている潜水艦野郎たちの多くが明日出港を控えています。

テーブルクロスを引っ張り卓上のものをぶちまける狼藉を働いていたのは
U96の次席士官、 Wachoffizier (II. WO)。

んー?ワッチって英語ですよね。
帝国海軍で当直は「ワッチ」はそのまま使われていたけれど、ドイツもなのか・・。

艦長を見ると慌てて敬礼をして(帽子かぶってないのにいいのか)

「ヘア・カーロイ!」

そうかと思えば踵をカチーン!と合わせる挨拶をしたこの士官は、
クラブだというのに仕事モード全開で

「報告します。燃料弾薬食料補給を終わりました」

「ご苦労」

「まだあります。
ここに来る途中、ひどい目に遭いまして・・
つまり・・あの・・ある者が」

それは酔っ払い水兵たちの『散水車』ですねわかります。

全く冗談の通じなさそうなコチコチのヒトラーユーゲント上がり、
先任当直士官の役名はI WO(Erster Wachoffizier)。

ここで、場内に古株のサブマリナー、トムゼン艦長(大尉)が紹介されます。
トムゼンのUボートは昨日哨戒から帰ってきたばかりで、
彼はその哨戒実績に対し騎士十字章を授与されたのでした。

しかし、煮しめたような汚らしい帽子を被って咥えタバコ、
泥酔状態でスピーチとは名ばかりのクダを巻き、

トイレの床(自分の吐瀉物のうえ)に撃沈。きったねえええ!

ちなみにこの撮影の時、トムゼン役の
オットー・ザンダーは本当に酔っ払っていたそうです。

「ブンカー」とドイツ語でいうところの潜水艦基地のあったのは
フランスのラ・ロシェルで、この歌手もフランス人です。

明日出撃で荒れ放題の男たちがスカートをめくったり水をかけたり、
無茶苦茶するので、多少のことは馴れている彼女もかなりキレ気味・・・。

トムゼン大尉にもモデルらしき実在の人物はいるそうですが、
実際のU-572の指揮官であるハインツ・ヒルザッカーは勲章を授与されたことはなく、
それどころか敵の船を繰り返し避け、敵前逃亡の罪で有罪判決を受け、
死刑が執行される前に自殺しちゃった人なんだとか・・。

それってつまりモデルっていわないんじゃないかって気がしますが。

場面はいきなり変わって翌朝。
ラ・ロシェールのUボートブンカーでは出港準備がはじまっています。

この潜水艦基地はフランスを占領したドイツ軍が建造した本物のブンカーで、
ノルマンディ上陸作戦後、他の都市が開放されていく中、ラ・ロシェルは
最後までドイツ軍が保持した場所の一つでした。

最後に連合軍による包囲作戦が行われています。

昨夜と同じ並び方でやってきた艦長、機関長とヴェルナー中尉。

本物の潜水艦基地に浮かんでいるのは実物大の模型?
トリビアによると、これも小型模型である可能性はあります。

艦長乗艦・・・・ですが、サイドパイプは鳴りません。

潜水艦の艦橋には笑うノコギリザメのマークがペイントされています。
これと同じ実物のマークやバッジをわたしはボストンの博物館で目撃しました。

このマークもU96のものですが、実際のU96の行動と映画で描かれた
この潜水艦の行動とは全く違っているそうです。

U96は、11回の戦闘行動の間も撃沈されず帰還した強運艦でした。

わたしがこの映画の好きなシーンベスト3を挙げるなら
必ず入れたいのが出港前の艦長と乗員の無言の対面です。

あまりに好きすぎて今日の冒頭イラストに艦長のその時の表情を描きました。

ノーカット版ではこのときヴェルナー少尉が隣の(多分)機関長に
大演説が始まるぞ、と耳打ちされるんだとか。

乗員たちの表情からは昨日の自暴自棄な様子はすっかり消えています。

艦長は乗艦してくると整列している乗員の前を歩いて
一人ひとりの目を見るその口元には微笑みの影すら・・・。

その自信に満ちた表情を見るうち、体の中から湧き上がってくるように
表情に昂揚が滲んでくる次席士官・・。

「Na Männer」(では諸君)「Alles Klar」(いいか)

「Jawohl!  Herr Kaleun!」(はい、艦長どの!)

そこであらためて従軍記者としてヴェルナー中尉が紹介されます。

「ドイツ中に報告されるぞ」(字幕では逐一報告されるぞとだけ)

ブンカー跡はそのまま使えますが、映画撮影当時はCGなどという魔法はまだないので、
映っては都合の悪いものは隠すしかなかったそうです。
その手段の一つが「煙」だったそうで、おそらく手前の砂利の下にも
1940年代には存在しなかった「何か」があったのに違いありません。

「アウフヴィーダーゼーン!」

という言葉が飛ぶ中、軍楽隊が演奏しているという設定の曲は、
ドイツ民謡の「別れ」という曲で、日本では学校で歌うこともあります。

♫さらば さらば わが友

しばしの別れぞ 今は

さらば さらば わが友

しばしの別れぞ 今は♫

ドイツ語の歌詞の最初が"Muß i denn"なので、
「ムシデン」とも呼ばれるこの歌がドイツ海軍の「蛍の光」に当たるんですね。

敬礼をしている軍人もいますが、ほとんど皆手を振っています。
日本軍なら「帽振れ」をし、アメリカ軍なら敬礼をして整列しそうですが、
ドイツ海軍、こういう時には案外ラフなんだなと思ったり。

そういえば、艦内での格好もセーターを着たりして結構いい加減です。

ところでこのシーンで艦橋の艦長の隣に結構いい歳のおじさんが見えますが、
この後のシーンには二度と出てきません。

もしやどうしてもどこかに出演したいとごねたスポンサー?

出航の引きのシーンを見ていると、一台の黒塗りの車が埠頭をやってきて、
その右側のドアが開き、一人の人物転がり出てくるのがわかります。

昨日泥酔していたトムゼン大尉でした。
一晩寝て復活したんだね。
寝坊したけどシャツは新品を着込んでいます。

まず両手バイバイで

「無事に帰還するんだぞ!」

そして敬礼を送るのですが、一つため息をつき、

こーんな表情に・・・。(´・ω・`)

乗艦したお客様であるヴェルナー中尉にボーツマン(Bootsman掌帆長、
wikiでは「兵曹長」となっていますが、ここは海軍なので)が
艦内ツァーを行い、ついでに観客にもUボートの案内をしてくれます。

「食料格納庫だ」

と説明しているような字幕になっていますが、ドイツ語では

「魚雷発射管の近くに食料を貯蔵する」

というようなことを言っているように聞こえます。

五十人の艦内にトイレは一つ。
士官も同じところを使ったのでしょうか。

掌帆長である彼には「部屋」があると説明されますが、士官と同じく
部屋といっても独立したものではなくせいぜい「コーナー」です。

潜水艦の「司令室」、英語のコニング・タワーでは
掌帆長の記念写真を。

巨大な肉の塊を吊るしているのにヴェルナーは目を見張ります。

ソーセージの暖簾をくぐれば下士官室。
わたしが「ウンターオフィツィーレ」という言葉を理解できたのも、
オーストリアの軍事博物館について調べたおかげです。

というか、ベッドの上に何も敷かないでパン並べてるんですが・・・。
きったねえええ!

ここで十二人の下士官がベッドを二人で一台使う、という
一部世界の潜水艦業界では常識となっている「ホットベッド」システムが
紹介されて、映画公開以降一般に膾炙していくことになります。

「非番のものがベッドを温めておくってわけさ」

と説明されている間、ヴェルナー少尉はいかにも嫌そうな顔をしていますが、
自分だけは一人でベッドを使わせてもらうことがわかり、ホッとした表情に。

しかし、下士官の寝室でこの温室育ちっぽいヴェルナー、耐えられるのか?

下士官室の後ろが厨房、そしてその奥には・・・

「幽霊のヨハンがいる」

いつも機関室にいて外に出ないので幽霊のように色が白い機関兵曹長。
ちなみに映画の撮影においては、潜水艦員らしさを出すため、俳優は
撮影期間中できるだけ陽に当たらないよう室内に閉じ込められていたそうです。

だからこの海上での撮影は彼らにとって嬉しかったんじゃないかな。
ワッチする隊員の写真を撮りまくるヴェルナー少尉。

まだこの頃は気力も体力もあるので張り切っています。
そんなヴェルナーを皮肉な表情で眺め、艦長が一言。

「降りる時の隊員のために残して起きたまえ。
その頃には全員髭面だ」

映画の撮影は、俳優の髭の成長に合わせるため、時系列順に行われました。
これは普通の映画撮影にはあまりないことです。

しかし、どうしても後から撮り直しをしなければならなくなったとき、
制作は苦肉の策で髭をカットしたり元に戻して付け足したり、
この髭問題は結構なストレスを生むことになったとか・・・。

続いて艦長は、新聞に彼らの写真が載ったら全員子供で驚くから、
といい、こう付け加えるのでした。

「わたしは老人になった気分だ・・・。
皆母親の乳を飲んでるような子供十字軍だからな」

「少年十字軍」が、フランスでは奴隷として売り飛ばされた史実や
「ハーメルンの笛吹き」のイメージの意味で言ったのでしょうか。

この映画に描かれている士官はヴェルナーを入れて5人ですが、
本当はもう一人は士官が乗艦しているはずだそうです。

彼らの食事は決まったところで行われますが、通路にあたる
手前の二人は、人が来ると席を立って道を空けなければなりません。

この食事風景では先任当直士官の几帳面すぎるナイフとフォーク使いが
艦長始め士官連中すらも苛立たせている様子が描かれています。
(ただし、育ちの良さそうなヴェルナー少尉はそれに気づかず、
自分もフォークとナイフを使って食事をしている)

メキシコのドイツ人農園主の養子として育てられたことを
聞かれて答えたあと彼がワッチの任務のため席を立つと、
艦長は

「生真面目な男だ。愚直で・・凝り固まっている」

と居ない者を評論してみせますが、そのくせ次席が
下品な言葉で追従すると、

「それは言い過ぎだ」

食事を終えたヴェルナーが艦橋に上がろうとした途端、

「アラ〜〜〜〜〜〜ム!」

ドイツ語でも警報はアラームなんですね。
警報イコール潜水艦では注水、潜航です。

トイレに入っていたものはズボンも履かずに転がり出て配置につきます。

「全員前へ!」

Uボート名物「人間バラスト」になるべく前部に突入していく水兵たち。
掌帆長に怒鳴られながら狭い管内を転がっていき、前部で団子になります。

特にこれなどそれまでの潜水艦映画では描かれたことのない「潜水艦の真実」でした。

どうみても空母かせいぜい巡洋艦の広さの艦内で皆が天井を見上げている、
それがわりと多い映画での潜水艦内の描写だったのです。

ペーターゼン監督は、閉所によるストレスで精神をやられる潜水艦隊員が
実際にいたことから、撮影の際も俳優に同じストレスを与えるため、
あえてセットも極限まで狭くしたそうですが・・・性格わりー。

潜航していく艦内を緊張が支配します。
流石にお調子者の次席の顔もこわばっています。

そしてこれも潜水艦名物「何も見えないのについ上を見てしまう」

その様子にニヤリと笑い、

「訓練だ」

汗びっしょりになっていたヴェルナー少尉は思わず安堵のため息をつきます。

しかし、せっかくここまで来たのだからとついでに
耐圧テストを命じる艦長。

発令をする艦長の背後では、自分もビビっていたくせに、
シロートのヴェルナー少尉の怯える様子を見て楽しむ次席士官。

銀行員上がりだそうですが、なかなか性格が悪い。

限界を超えたら艦がぺちゃんこになるなどと手振り付きで
ヴェルナーをさらに脅かし、先ほど汗びっしょりで天井を見ていた乗員も
ヴェルナーが脅かされているのを見てニヤニヤしています。

ギシッと艦体の歪む音がすると

「水圧さ」(ニヤニヤ)

「わかってる」

こんどはゴゴーンと大きな音がして、ヴェルナーが次席を振り向くと
なぜか慌てて目を逸らし、思わず目を瞑ったヴェルナーを見てまたニヤニヤ。

 

ようやく艦長が命じた浮上命令にまたしても大きく息をつくヴェルナーを
こんどは掌帆長が向こうからニヤつきながら見ているのでした。

 

続く。

 


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