映画「Uボート」、二日目です。
今更ですが、当ブログでは解説とツッコミと主目的として
映画をご紹介しているので、基本「ネタバレ上等」という態度です。
特にこの映画に関しては文字通りの微に入り細に入りになりそうなので、
映画をまだご覧になっておられない方は、その点ご了解を賜り、
あくまでも自己責任でお読みいただくことをお願いします。
さて、Uボートがラ・ロシェルを出航して一日が終わりました。
初めての夜、寝苦しくて目を覚ました報道班員ヴェルナー少尉は、
向かいのベッドのウルマンが手紙を書いているのに気がつきます。
ウルマンは駐留していた町の花屋のフランス娘と婚約しており、
彼女はすでに自分の子を妊娠している、と告白しました。
オリジナルの小説「ダス・ブート」では、ヴェルナー少尉について
もっと詳しく言及されていて、フランス人の恋人がいるのは
実はこのヴェルナーであり、レジスタンスだったとか・・。
ヴェルナーを演じたヘルベルト・グレーネマイヤーは、ドイツでは俳優より
歌手、作曲家として有名(誰でも知っているレベル)な人なんだとかで、
日本で言えば「戦メリ」のころの坂本龍一みたいなポジションでしょうか。
食事の時も相変わらずネクタイをビシッと締めている先任士官。
まるで解剖のように魚の骨をナイフとフォークで切り分ける先任に
当て付けるように、わざと行儀悪く食べる次席でした。
チャーチルをディスるドイツ本国のラジオ放送を聞きながら、
「そんな男に攻撃されてるんだ」
と艦長。
ところがそれに対し先任士官が生真面目に
「でも我々はやつを屈服させると確信します」
言い返すものだから、ただでさえイラついていた艦長、
彼に当て付けるようにさんざんナチ上層部の悪口を吐いた末、
「お前ティペラリーソングをかけろ!」と命じるのでした。
"It's a long way to Tipperari"(ティペラリへの遥かな道)
はイギリスで1917年作曲され、イギリス軍の愛唱歌になったことから
軍歌のような扱いをされており、現在でも人気があります。
間奏部に「ルール・ブリタニア」(ブリテンは世界を統べる)
が挿入されていますが、歌詞は極めて単純で、
♫ It's a long way to Tipperary, It's a long way to go.
It's a long way to Tipperary To the sweetest girl I know!
Goodbye, Piccadilly, Farewell, Leicester Square!
It's a long long way to Tipperary, But my heart's right there.
♫ティペラリへの道のりは遠い そこには素敵な彼女がいる
ピカデリーよ、ライチェスター広場よさらば!
ティペラリへの道は遠いが 私の心はそこにある♫
「俺たちイギリス兵かよ!」
もちろん節操のない兵隊たちはこれに大喜び。
コーラス部分の英語は簡単なので誰でも歌えます。
「ヒトラーユーゲント青年隊長」に敵国軍のの愛唱歌をかけさせる艦長って一体。
というかなんでそんな曲がUボートにあるんだって話ですが。
なんかわかんないけど僕も歌っちゃう〜♫
おっと一人だけ歌ってない人が(笑)
そこで思い出すのが先日ご紹介したアメリカの潜水艦映画「眼下の敵」。
あの時はアメリカ軍に聞かせるためにUボート艦長がかけたのは
「デッサウアー」というドイツ軍歌でした。
「眼下の敵」は1954年作品ですから、「Uボート」が
「ドイツ軍がみんなで歌って元気になるシリーズ」の元祖として
このシーンを参考にしなかったはずはありません。
睨み合っている敵に聞こえるように大音量で音楽を鳴らす、
というサプライズがあの映画にはありましたが、こちらは
敵の曲を歌って盛り上がるという(観客への)サプライズです。
そういえばあの映画もナチス嫌いの艦長に、部下には一人
コチコチのヒトラーユーゲント上がりがいましたっけ。
ヴェルナー少尉にとって、艦内生活のもっとも辛いことは
もしかしたら下士官と寝室が一緒であることかもしれません。
寝ているものがいてもお構いなしに大声で騒ぎ、節操なく盛り上がる。
しかも、インテリで育ちの良い彼には何が面白いのかわからん下品なネタばかり。
もうこんな生活イヤ・・・・。
そんな艦内の穢雑さを象徴するかのようにデーニッツの写真を徘徊するハエ。
(とそれを眺めるヴェルナー少尉)
澱んだ空気が人の思考能力も奪っていくようです。
新聞のクロスワードをしている機関長が
「体を洗う場所・・・三文字」
「BAD」
「・・・ダンケ」
風呂場という言葉すらすぐ出てこなくなるのか、やる気がないのか。
「くだらない遊びです」
いやまあそうなんですけどね。
相変わらず空気読まんやつだな。
しかし原作ではヴェルナー少尉が皆から嫌われる先任士官の日記を読んで、
彼の「真実」を知り尊敬するに至るというサイドストーリーがあるそうです。
あー、それ映画でもやって欲しかったな。
ノーカット版ではあったりするのかしら。
(実はわたし先任士官の隠れファン///)
エニグマで送られてきた暗号をデコードし艦長に渡す。
次席士官、ちゃんと仕事してるじゃん。
この人のドイツ語はパリッパリのベルリンなまりなんだそうですよ。
ちなみにこのシーンで出てくるエニグマにはローターが4つ見えますが、
このころ(1941年)には海軍はまだ3ローターを使用していました。
エニグマ受信機についての蘊蓄にかけてはこのわたし、
ボストンの第二次世界大戦博物館で実物を見てるのでちょっとうるさいよ?
電文を受け取るなりチャートに向かいコンパスを使いだす艦長。
敵の護衛船団を発見したというU37からの電文ですが、
現在艦位からは遠すぎです。
「くそ(Scheiße)!」
はい、ドイツ人の生(なま)シャイセいただきました〜!
機関長イライラしすぎ。
これってあれかしら、出航の日に奥さんが出産で入院したのに
子供がどうも無事でなかったらしいことと関係あるかしら。
こちらそろそろ仕事でもすっか、と気力を振り絞り、というか
妙なハイテンションで写真を撮り始めるヴェルナー少尉。
魚雷にワセリン?を塗りたくっている魚雷発射室に突入し、
皆の迷惑そうな顔もものともせず写真を撮りまくり。
こんな鉄火場みたいな現場、入るのも憚られそうですが、
ヴェルナー少尉はそれが自分の任務と思っているのでお構いなし。
うわー、迷惑そうな顔^^と思ったら・・
本作ショッキングな場面ベスト3に入るべき名シーン。
「どこからともなく飛んできて顔に命中するウェス」
「あああああああ〜」
ああ・・あれ?さっきのコマと汚れてる場所が違う・・。
「誰だ」「誰がやった!」
ミナシランプリー
右側で顔を逸らしてる奴が怪しい。
というわけでヴェルナー少尉にとってはさんざんな一日が暮れました。
まあ、暮れようが明けようが、潜水艦の中なんで関係ないですけどね。
いざとなる瞬間までは暇なのが潜水艦生活です。
艦内で筋肉を鍛えるのが趣味の下士官、フレンセン。
彼と下品なジョークを言い合うコンビの片割れ「ピルグリム」。
花屋のフランス娘を妊娠させてしまったウルマン君は少尉候補生です。
「Liebe Françoise, ma chère amie!」
(愛するフランソワーズ、僕の親愛なる恋人)
ドイツ語とフランス語の混じった出だしで手紙を書いています。
こちらは日記を書きながら寝てしまったヴェルナー少尉。
「出航して二十日目。(中略)悪臭の中で発狂寸前だ」
臭いはつらいよね・・・お察しします。
翌朝、見張りが艦影を発見し今度こそマジの警報が鳴り響きました。
ただちに潜望鏡の深さまで潜航する命令が下されます。
「スクリュー音・・・遠ざかりました」
しかし艦長は大事をとって潜航を続けることを決定。
「兵士は内面もしっかりと磨かねばならない!」
真面目士官先任がウルマン候補生に「士官心得」を伝授している横で、
次席士官はヘラヘラしながら、レモンを絞って
そこに缶のミルクを入れるという不味そうなカクテルを作り、
「Uボートカクテル・・飲みます?」
ミルクとレモンで凝固しているんですがそれは。
先任の空気読まない堅物さもさることながら、次席の
この無神経な脳天気もそれはそれで苛立たせられるもの。
つくづく潜水艦って人との調和が必要な職場です。
しかし機関長はまたしてもそこにいない先任士官の悪口を・・。
「あいつは出世間違いなしだ。いい気分で講釈たれやがって」
そしてニュースのテーマソングらしきリストの交響詩「前奏曲」が流れてくると、
「消せ!」
とやつあたり。
「物静かで穏やか」なんてキャラ説明と全然違うじゃないですかー。
「(なんなんだよ・・・)」
しかし次の瞬間、艦内が一転急に活気付きました。
「U32から連絡があった!イギリス船団を発見したとな!」
これから前進全速で現地に急行すると聞いて、艦内に歓声が湧きあがりました。
まさに水を得た魚、暇なときとは皆別人のようです。
「30隻以上いるそうだ!俺たちが着くまで待ってろよ!」
まるで魚群を見つけた漁師のようにはしゃぐ艦長。
艦橋で潮水をシャワーのように浴びながらも興奮して、
「俺はUボートが本当に好きだ」
そして、ついでに自分がかつて帆船に乗っていたこと、
帆船は美しく中は教会みたいに広い、などと
意気揚々といった感じでヴェルナーに語るのでした。
しかし、予定時刻となっても船団の影は見えず、
天候は荒れ模様でU32からの連絡もありません。
調音して海中から相手を探すために潜航することにしました。
頼みは調音長の耳だけです。
「艦長、弱い反応が」
「爆雷だ・・・・砲撃している」
艦長は浮上して対船団戦を行うことにしました。
機関室はフル稼働。
「幽霊」のヨハンはエンジンに直接「調音」して調子を確かめます。
海上には船団はおらず、よりによって駆逐艦の艦影が認められました。
こちらに向かってやってきます。
急速潜航して潜望鏡で駆逐艦を捕らえようとする艦長。
機関長は二人の操舵員の肩に両手を置いて、
あたかも合図を与えようとするように待機の姿勢。
「戦闘用意!」
「駆逐艦と戦う気だ・・どうかしてるよ」
「(えーそうなのー?)」
魚雷を発射するために艦の角度を慎重に設定します。
「発射口開け!」
二人の発射員以外はすることがないので皆ベッドに座って見ています。
魚雷の発射準備がなされると艦内の電気が消えてブルーのライトだけになりました。
この沈黙の時間何故か無駄にアップになるフレンセン。
「見失った」
艦長が駆逐艦の艦影を求めて潜望鏡を回していくと・・・
でえたあああ〜!
爆雷クル〜!
(それにしても模型丸出しなどと言わないように。1982年作品です)
最初の爆雷の洗礼を受けたヴェルナー少尉をごらんください。
しかし百戦錬磨の艦長はうっすらと微笑みさえ浮かべて
「潜望鏡を見つけたんだな。この天気なのに」
「ここからが心理戦だ」
小声で送られる情報に間髪入れず艦長は指示を出していきます。
「潜航する。艦首15下げ艦尾10上げ」
「これくらいで慌てるな。落ち着け」
頭をぶつけて血を流しながら泣いているこの人、
「Bibelforscher(聖書研究家?)」というあだ名です。
「高速で敵艦が近づいてきています」
「急接近!」
そこで艦長はもっと深く深度をとることを命令。
160mを超えて目盛りが赤のゾーン180mに突入し艦体は軋み始めます。
そのとき爆雷が降ってきて、艦のあちこちから浸水してきました。
深度を150に戻し浸水をなんとか止めたところで、
なんと別の艦が接近という情報がもたらされました。
どうなるUボート!
続く。