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Channel: ネイビーブルーに恋をして
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映画「Uボート」〜”J'attendrai”(待ちましょう)

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映画「Uボート」三日目です。

爆雷攻撃を仕掛けてきた駆逐艦が去っていったとおもいきや、
また別の艦が現場にやってきたらしいという調音長の報告に
絶望が走った我らがUボートですが、息を殺して待っていると、

なんと遠ざかっていくではないですか。
そして遠くで爆雷の音が聴こえました。

「22発目」

なんと爆雷の数をこの状況下でチェックしている人がいました。
いつも冷静な操舵長です。

浮上して暗視モード(赤灯に黒メガネ)で潜望鏡から捜索した結果、
とりあえずは近くにいないということが確認できましたが、
待ち伏せされている可能性を勘案し、潜航して時間を稼ぐことに。

とはいえ皆の様子にはわずかにほっとした空気が漂います。
音楽が流され、次席士官がめずらしく無邪気そうに

「好きな曲だ♫」

このとき士官たちが食べているのは
プディングにラズベリーを乗せたようなものです。
潜水艦の中なのにちょっとおしゃれなカフェデザート風。


その中でショックが解けずただひとり固まっているヴェルナー少尉でした。

緊張が解かれた艦内は早速下士官主催の
どんちゃん騒ぎで思いっきりハジけております。

どこにメイクの道具があったのかって話ですが、
このダンサーは、当時パリで絶大な人気があったダンサー、
「黒いビーナス」ことジョセフィン・ベイカーをオマージュ(笑)しています。

ちょっと見にくいですが、ちゃんとベイカーのお得意ダンスも取り入れて。
どうやって調達したのかミラーボール風照明まであってムード満点です。

ジョセフィン・ベーカー(1906ー1975) - 空の鳥これですわ

しかし水を指すようですが、「Uボート」原作者のブーフハイムは、
この映画を観たときに、

「本当のUボート乗員はあんな騒ぎ方はしないし、
後ろでそれを囃し立てて喜んだりしない」

と言い切ったそうです。

方や調音室に入り込み、深刻な顔の掌帆長。

イライラしながら帽子をかぶると、下士官バンクに向かって

「おい静かにしやがれ!」

警戒態勢でもないのになんなんだ?と兵たちが黙り込むと、

「5対0で負けた。準決勝は無理だ」

贔屓のサッカーチームが負けて八つ当たりかよ。

こちら医務室(というか医務官のいるところ)。
ゲラゲラ笑われながらパンツを脱いで診察を受けているのは
さっきまで頑張っていた操舵員(左)くんです。

戦闘中はずっとイヤフォンを聴き続けた調音長、
メディックを兼ねているので平時だというのにこのハードモード。
何が悲しくてシラミの発生した人の秘所を見なくてはいけないのか。

そこでなぜかシーンが切り替わり士官の食事がアップになるのでした。
なんなのこの肉・・・。

 

ここでまたしてもハイになったヴェルナー少尉、艦橋で大はしゃぎ。
感情がエスカレーターのようにアップダウンしております。

「あーっはっははは」「少尉、見張りを」「ナニー聞こえないー」

すぐにこうなるんですけどね。

大しけで艦内はこのとおりですが、

仲間の婚約者の写真を盗んでみんなでからかったりして皆元気です。

艦長など、この揺れでもコンパスを使える超人。
船団を追うのが不可能だと航海長に言われると途端に不機嫌に。

潜航して揺れが収まると皆床の上で
ごんずい玉みたいになって安らかにおやすみに・・。

そんな状態でも寝ないのが艦長と調音長。

そこで艦長は「音楽係」でもある調音長に「いつものやつ」
をかけさせるのでした

Rina Ketty - J'attendrai

艦長お気に入りというこの曲はシャンソンの「J'attendrai」、
待ちましょうというリタ・ケリーのヒット曲です。

潜水艦にとって「待つ」という言葉は特別の意味がありますが、
待つのが商売の歴戦の潜水艦乗りがこの曲を愛聴している、というのは
監督の洒落というか皮肉が効いた設定だと思われます。

そういえばこの曲は、ドイツ占領下のフランスで
「自由になる日を待ちましょう」という隠された意味を持って歌われ、
レジスタンスのテーマのようになっていたと聞いたことがあります。

アウシュビッツ収容所の音楽隊のために編曲していた囚人の女性は、
マスネの「カヴァレリア・ルスティカーナ」の最初の部分がこの
「待ちましょう」に似ていることから、これをナチスのために
演奏するたびに内心快哉を叫んでいたと戦後告白しています。

このシーンにはナチスの海軍である艦長がレジスタンスの愛唱歌を愛している、
という二重の裏の意味が込められているのです。

一方「待ちすぎた」潜水艦乗員たちは夢の中・・。

事件発生。
悪天候下でワッチを行っていた乗員(艦長、次席、毛ジラミ、ピルグリム)
の一人が波にさらわれました。

落ちたのはワイ談コンビの片割れピルグリムです。

幸い海にではなく銃座に落ちたのですが、負傷です。

このシーン、実は元々の台本にありませんでした。
水の中にセットされた艦橋で撮影しているとき、ピルグリムを演じていた俳優、
ヤン・フェダーが手摺りを掴み損ねてが本当にセットから落ちたのです。
一緒に演じていた俳優がすぐさま「人が落ちた!」と叫ぶと、
監督は

「ヤン、それいただき!もう一回やってくれ」

しかしヤン・フェダーは脳震盪を起こし肋骨を骨折していたので、
落ちたシーンをそのまま維持し、脚本を書き直して
ピルグリムがベッドで寝ているシーンを付け加えたそうです。
フェダーは毎日病院から撮影所に通うはめになったとか・・。

おそるべし非情な監督魂(笑)

無茶しやがって・・・。

「ひどいもんだ」

ええ、映画監督ってだいたい酷いもんですよ。
スタントを使わせず俳優を怖い目に合わせたり酷い目に合わせたり、
実際に怪我させたりした監督なんて星の数ほどいますから。
負傷した俳優を病院から担ぎ出すくらいは良心的な部類です。

ってそういう話じゃない?

このあと次席が肉のカビを取る作業をしながら

「肋骨三本骨折、裂傷一箇所」

とピルグリムの怪我についていうのですが、これは
実際のフェダーの怪我について語っています。
レントゲンもないのに肋骨が何本折れているかなんて、さすがに調音長でも
音を聞いたくらいでそこまで診断はできないはずです。

機関長は写真を眺めて物思いにふけっています。

髭面のヨレヨレである現在からは別人のように男前の機関長と
それにふさわしい金髪美人の奥さん。

「何年も雪を見ていない」

メンバーは雪の故郷に思いを馳せるのでした。

次のワッチでなんと別の潜水艦発見。

物凄いドルフィン運動です。

この撮影は実写プラススクリーンかな。

艦長が出てきて興奮気味に「トムゼンの艦だ!」
なんと、涙ぐんでU 96を見送っていたトムゼン大尉のUボートと
大西洋で遭遇するということに。

「どうなってんだ!」

発見したときには大喜びして(かのように見え)発光信号で
「健闘を祈る」などと通信していたのに、
艦橋から降りてきた艦長、むっちゃ不機嫌に。

「だだっ広い大西洋にUボートが1ダースいて
なんでそのうち2隻がこんな近くにいるんだ!」

まあね。
それってつまりどこかが手薄になってるってことですから。

「位置は確かか」

「だいたいは」

「だいたいってなんだ!(激怒)」

「2週間嵐で計測不可能です。カーロイ」

「ぐぬぬ:( •ᾥ•):」

静かな夜はいつまでも続きません。
夜中、気配に起こされたヴェルナー少尉が艦橋に上がってみると、

気色満面の次席士官が5隻の船団を見つけたと報告します。
民間船団は潜水艦にとっていいカモってところです。

ただし護衛の艦がいなければの話ですが。

「護衛艦も駆逐艦も見えません」

「妙だな・・・後ろにいるのかな」

しかし艦長は攻撃を決断しました。
この決断に際しては、操舵長に意見を尋ねています。
寡黙な操舵長を艦長は誰より信頼していると分かるシーンです。

月が雲に隠れるのを見て、攻撃準備命令が下されました。
距離2200の位置まで全速で接近です。

「照準よし」「右舷15微速前進」「発射口開け」

「1番、2番用意」「位置変更63」「目標追尾」

次々と出される命令にワクワクしている風のヴェルナー少尉。

艦内で糸巻きしてるんですけど・・・これ何しているんでしょう。

「発射!」

発射命令を出すのは主席士官です。

1隻目、2隻目、3隻目に次々と魚雷を放ち、4隻目に行こうとしたら

駆逐艦出えたああああ!

手の空いているものはおなじみの「人間バラスト」となって
艦首にぶっ飛び、急速潜航です。

しかし今の総員はそれより撃った魚雷の行方が気になる・・。

着弾予想時間からストップウォッチを作動させ始める
航海長の手元を息を飲んで見つめます。

そのとき衝撃音が響きました。
喉の奥から声にならない声を上げる次席士官。

2発目の魚雷も命中です。

三発目は・・・

三発目は?

爆発音の代わりに聴こえてくるのは駆逐艦のレーダー音のみ。


何人かはあからさまにがっかりしますが、艦長はニヤリと笑って

「2隻撃沈だ」

指揮官たるもの常にプラス思考です。
コップに水が半分残っているのを見て、ある人は半分しかないと考えますが(略)

この頃からすでに挙動不審な幽霊ヨハン(予告)

「奴らはお陀仏だな」

このときそれを聴いた機関長がゆっくりと彼の顔を凝視します。

軍人であるからには敵国の船を撃沈するのは任務ですが、
そのさい失われるはずの「人の命」については考えたくない、
あるいは考えないようにしている、という者もいるでしょう。

この映画の機関長はそういう人間だとわかる描写です。

「お返しが来るぞ」

顔面神経痛のように顔をひきつらすヨハン。

そして第一波の攻撃が襲いました。

「両機関 全速前進!」

第一波が去り、不気味な沈黙の中に駆逐艦のソナー音が響きます。
実戦を経験した潜水艦乗りは生涯この音に夢でうなされるに違いありません。

次席がこれを「ASDICだな」と呟きますが、アスディックとは

Anti-Submarine Division"の略語に 接尾辞-icsをつけたもの

または

Anti-Submarine Detection Information Comittiee

Anti-Submorine Detection Investigation Commitee

などといわれており、つまり潜水艦探査装置のことです。
1910年代イギリスが開発した頃はこの名称で、「ソナー」は」
第二次世界大戦の時のころアメリカが「発明した呼び名」です。

1941年代のドイツではイギリス式の名称で呼んでいたのかもしれません。

蛇足ですが我が帝国海軍はアメリカ式からきた「ソーナー」が正式名称であり、
さりげに海上自衛隊にもこの呼び名が継承されています。

 

ソナー音の中、操舵員の一人が豚野郎、の意味で

「シュバイネン」

と呟きます。
そういえば、アメリカ映画「ペチコート作戦」で、さらってきた豚さんを
酔っぱらった水兵ということにして浴室に閉じ込め、MPに

「彼は飲むと手がつけられない野郎 (スワインSwine)でね」

というシーンがあったのを思い出しました。

潜水艦のことは「ピッグボート」と呼ぶなんて超どうでもいいことを、
わたしはみんなこの映画で知りましたが、「Uボート」監督だって
ハリウッドの潜水艦映画の名作「ペチコート作戦」を観ていないはずはないので、
この一言も無自覚に選ばれたものではないと思います。


息を殺すUボートに降り注ぐソナーの音が大きくなり、
だんだん音の感覚が短くなってきてついにはひっきりなしに・・。

と思ったら第二波攻撃がきて、浸水と火災が発生。
機関長がそれを消し止め、全員にマスク着用が義務付けられます。

艦長は「しつこい奴らだ」と言った後、操舵長に笑いながら

「魚雷は命中した。2隻も仕留めたんだぞ」

流石の操舵長も呆れたように顔を逸らします。

深度を深く取ったUボートにまたしても近くソナー音。

「・・・・・さあ来い」

「機関長、もっと深く潜れ」

そして不敵な笑みを浮かべながらいうのでした。

「逃げてやる」

沈黙の時間が破られる瞬間をいち早く知った調音長、
目の前の装置を慌ただしく動かしていたかと思うと、

「(シャイセ!!!!)」

(ドイツ人の生シャイセもう一ついただきました〜)

「援軍か・・・あいつらめ」

字幕ではあいつらですが、艦長ここでも「シュバイン」と言ってます。

「もっと潜れ」

演習で行った深度を遥かに超えてきました。

「190m」

「200・・・210・・220」

ヨハンにはこの後何が起こるかがよくわかっています。

「ボルトが飛んだ!」

「10m浮上!」

そのとき・・・・

ダメ押しの攻撃にパイプは破れパッキンが破損、機関室浸水。
魚雷発射管ハッチからも浸水。

艦長自ら機関室に突入してダメコンを行い、なんとか浸水を食い止めました。
動揺する皆に向かって

「そのうち奴らも爆雷を使い果たすさ」

そのときです。

機関室の奥から這い出してくる影が・・・。
人か?幽霊か?それとも?

 

続く。

 

 


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