アメリカに行くたびにチェックする番組があります。
とてつもなく太ってしまった人を医療で救済する「My 600lbs life」、
ジャングルに裸の男女が放置され2週間サバイバルする「Naked and afraid」、
そしてもう一つがこの「Hoarders」です。
Hoarders、というのは「貯め込む人」または「溜め込む人」という意味です。
この番組に出てくるのはモノを捨てられない、片付けられないが高じて、
家がいわゆる「ゴミ屋敷」になり、地域で問題視されたり、家族に見捨てられたりした人を、
テレビ局が救済という名前のお節介をしながら世間に暴露し、これを見た人が、
我が身を振り返って色々と考えたり考えなかったり、という・・・。
いうならば他人の恥を覗き見するというコンセプトに基づいた番組なのです。
今日は何度目かになりますが、この番組をご紹介します。
まず画面には
「強迫的ため込み行為は、たとえその対象物が無価値、危険、または不衛生であっても、
取得して保持するという強迫的な必要観念に駆られることを特徴とする精神障害です」
という説明が現れます。
はっきりと片付けられないのは症候群ではなく「精神障害」と言い切っているわけです。
続いて、
「アメリカではおよそ300万人の人々が脅迫的溜め込み障害であるといわれています。
今日ご紹介するのはそのうち二人のストーリーです」
この番組は毎回二人の「ホーダーズ」を交互に紹介していく、
という方法で番組が進行して行きますが、当ブログでは
煩雑さを避けるため一人ずつ項を分けたいと思います。
今日の「ホーダーズ」は、ジョニさん。
彼女はかつて学校の先生をしていました。
アメリカでは軍人でもそうですが、引退後の身分について、
「リタイアード(引退した)教師」「リタイアード・オフィサー」
という言い方で語ります。
今は無職であっても「無職」とは言いません。
これは現役時代のタイトルが生涯「リタイアド」として持ち越される、
という社会慣習によるものだと思われます。
溜め込み屋さんにもいろんなパターンがありますが、とにかくジョニさんは
洋服やジュエリー、雑誌、ありとあらゆるものが「大好き」で、
とにかく買い物をせずにはいられないというタイプです。
買っておいて一度も身につけていないものもたくさんありそうですが、
とにかく言えることはジャンクなものが多いですね。
財布を逼迫せず悩むこともなく買える「お手軽なもの」に手が出てしまうようです。
そして片付けられない。捨てられない。
一つ一つのものは不潔なものではなくても、こんな具合に床を埋め尽くし、
全体的にゴミとなって層を成していくというわけです。
車の中もこの通り。
もう少しでバックミラーから後ろが見えなくなりそうです。
彼女の孫のテレサさんに言わせると、とにかくジョニさんは買い物依存症。
二日と開けず店に通うのですが、例えばガム一箱が安くなるクーポンを持っていっても、
買ってくるのはマカロニアンドチーズ一箱だったりしてとにかく無計画で衝動的。
そして続いては、彼女の長男であるジョーイさんが証言を行います。
「もうとにかく1インチの隙間にも物が埋め尽くされて、歩ける部屋がないんだよ」
「とにかく完璧に『FILTHY』(不潔極まりない)なんだ」
そうこうしているうちに、ジョニさんの家は立派な「汚屋敷」に。
「フィルシー」な匂いは外に流れ出し、近所の人たちが苦情を申し立てるようになり、
市が動き始めました。
最初に市が彼女に行ってきた注意勧告は、
「ファイア・ハザード(火災の危険)」
でした。
電気関係、ガス、それらからいつ火災が起きてもおかしくないというのです。
続いて、サルという男性が証言を行いました。
なんと驚くことにサルはジョニのボーイフレンドだというのです。
いやまあ、いいんですけどね。
汚部屋の住人である小汚い老女にボーイフレンドがいたって。
サルはいいます。
「とにかくそのとき彼女は家が散らかって大変だった。
かといって行くところもないので気の毒に思い、家に住まわせた」
するとたちまち服やジュエリーや雑誌をサルの家で広げ出し、
サルの家を汚屋敷に変えてしまいました。
呆れたサルは彼女に
「どうするつもりなんだ?」
と苛立って詰問したそうです。
「俺も物に押しつぶす気か」
サルも彼女を放り出すには忍びないのですが、このままでは
息もできなくなってしまうため、最後通帳を手渡しました。
つまり、ジョニが家を掃除して、自分のうちに荷物を送り返さないなら
もうこの家から出ていってもらうと。
そうなれば彼女はホームレスになるかもしれません。
ボーイフレンドなら放り出せば済みますが、息子は彼女と縁を切るわけにはいきません。
どんな問題があっても彼女はとにかく母親なのですから。
しかし、この写真を見てもわかるように、子供が小さい頃、
母親は子供を放置していたというわけではなさそうです。
若き日のジョニさん。
学校の先生だったということですが、まともすぎるくらいまともな人に見えます。
しかし息子はこのように証言しているのです。
「子供時代は食べ物に困ったこともないしいつもいい服を着ていた。
欲しいものはなんでも与えられた」
「ただし部屋はいつも散らかっていた」
「ため込み行為」にはトリガーと呼ばれるきっかけがあるといいます。
それはジョニさんにとって早い時期に母親を亡くしたことだというのですが、
それが悪化したのは夫と離婚したことでした。
離婚で夫を失ったことで散らかしたいという気持ちを我慢できなくなった、
彼女は自分で分析するのですが・・。
しかし、この女性が老人になるとああなるのか。
老いとは残酷なものですね。
周りに誰かいたときにはまだ制御できていた彼女の性癖は、
彼女の家族が彼女に業を煮やして離れて行き、一人になることで
とめどなくなっていったのです。
悪影響は子供達にも及びました。
こんな母親ではそうなっても全く驚きませんが、成人した次男のジョーイは
結婚して子供もいたのに麻薬中毒となり、娘の親権を母方の祖母に渡すことになります。
こうやって不幸が再生産されて行くわけですね。
番組では彼らの救済のために何人かの「プロ」を用意しています。
このマット・パクストン氏はプロの「汚部屋片付け人」です。
何をもってそう決まっているのかはわかりませんが、彼のタイトルは
「アメリカでトップのホーディング・クリンアップエキスパート」
彼はこれまで10年の汚部屋掃除経験上、300匹の猫や、
8フィート幅のネズミの巣など、ありとあらゆる「汚いもの」を見てきました。
彼は豊富な経験を利用して、ため込みに苦しんでいる人に対し、
思いやりに焦点を当てた清掃を提供するプログラムを開発し、
日々汚部屋の人々を救済しています。
エキスパートなりのメソッドを彼は持っているようで、まずは
対象者の家を虚心坦懐に(知らんけど)見て、彼女の生活が
どのようなものかをチェックすることから始めました。
どういう意味があるのかはわかりませんが、今住んでいない彼女の家に
夜訪れて中を点検しています。
「ここは玄関です・・・こちらはリビングルーム」
画面ではわかりませんが、臭いもかなりのようです。
そしてついに、マットの率いる「片付け隊」が出動するときになりました。
いすゞのトラックにデカデカと書かれた
GOT-JUNKはそのまま電話番号となっています。
ところが一時が万事というのか、立ち会う約束をしていたもう一人の兄弟、
そして肝心のジョニ本人が時間通りに現場に来ないわけですわ。
現場からせいぜい30分のところに住んでいるにもかかわらず、です。
そうなると勝手に掃除を始めるわけにいかないのですが、
このジョーイというおっさんは
「ちゃんと立ち会いがそろわないと作業が始められない」
という言葉に食ってかかるのでした。
そうこうしているうちにジョニがやってきたので、これ以上
もう一人の兄弟とやらを待っているわけにもいかないね、
ということになったのですが、このおっさんが絡む絡む。
「何がしたいんだ?」
「作業を始めたいだけですよ」
「オーケー、じゃこのゴミはお前のだ、さあやってくれ」
なんか人間として言葉が通じないって感じ。
ネズミの巣や300匹の猫より、マットにとって常に厄介なのは
こういうややこしい人だったのだろうなと思わされます。
ため込みの当事者はもちろんのこと、下手するとその周りにいる人が、
とんでもない”DQN”である可能性は確率から言っても高いわけで・・。
この息子はやたら苛立っていて、母と片付けるモノを巡ってやおら口論を始めます。
「服なんかも全部処分するぜ」
「ちょっとー、それはお父さんよ」
「これが?これが?」
ハート型のクッションですが、これが別れたご主人だと・・・?
わけがわかりません。
しかしこんなおっさんにも少年の頃がありました。(そらそうだ)
母親がこんななので、長男である彼は「家族の長」を任じてきたようです。
しかもそれは彼がまだ幼い頃からで、母親はそんな彼に頼る風でもありました。
しかしこういう場になって、母親の自堕落の蓄積を赤の他人に委ねるという
状態は、おそらく彼を酷く苛立たせているのでしょう。
物を捨てる捨てないで、母と息子の間には険悪なやりとりが交わされます。
「だから、お前がなにか取っておきたいと思うんじゃないかと思って」
「なんのために?お母さんみたいに生きるためにか?」
そのうち、彼は到着しない弟、フランキーの悪口を言い出しました。
「あいつは使えない(No use)やつだ。価値もない(worthless)」
そんなとき、ようやくフランキーとやらがやってきました。
本人の了解が取れなかったのか、フランキーの映像はなしのまま、
二人は喧嘩を始め、その音声が画面の字幕に流れます。
するとそのとき・・・・
「突然口論を遮るように騒ぎが通りを横切った」(直訳)
なんと、彼らの母親がタイミングよく転倒していたのです(笑)
いや、笑っちゃいけないか。
長年の片付け生活でいろんなものごとを見てきたマットも困惑。
息子二人が大声で喧嘩しているとき、母親が転倒して負傷とは。
マットが長年の経験から推測するに、彼女は何か棒のようなものに躓いて転び、
頭部を地面で強打したものだろうということです。
というか長年の経験がなくてもそれくらいわかる。
すぐに救急車が呼ばれました。
というかそれくらいの怪我をしたということだったんですね。
これってまさか身体を張って兄弟喧嘩を止めようとしたとか・・・はないよね。
非常事態なので、マットは彼女なしで掃除を進める許可を得ましたが、
そうなったらなったで、またしてもジョーイの怒りはマットに向けられることになりました。
マットのチームが捨てたもののなかから、ジョーイは
自分の大事な「珍しい花火コレクション」があった、と食ってかかりました。
もう見るからにうんざりしているマット(笑)
「叫ぶのやめてくれます?」
「あんたに何がわかる?
俺たちはゴミを今日一日で6,000パウンドも捨てられたんだ。
それでもってまだやいやい言いやがる」
「俺のコンピュータデスクだって捨てるはずじゃなかったのに。
あれには800ドル払ったんだぞ!」
もう完全に頭抱えてしまってますね。
「あなたの攻撃性は我々の我慢できる範囲を超えてます」
「あんたは自分の従業員のことしか考えてないんだろう。
その(ぴー)な従業員共のな!」
流石のマットもこのオヤジにはうんざりして、この場を引き揚げることにしました。
「気の毒な女性が助けを求めているのに・・」
その女性の救済を彼女が産んだ息子が難んだということになります。
しかしそんな息子に育ててしまったのは当の彼女というわけで・・・。
こういうのもある意味自業自得というのでしょうか。
しかし捨てる神あれば拾う神もいます。
彼女の苦境を救うためにテレビ局は彼女がいるサルの家に
精神科の医師を向かわせ、彼女のこれからについて話し合うことになりました。
「まだ血がでてるんですよ」
おそらく彼女が包帯をすることをテレビ局は許さなかったのでしょう(闇深)
精神科医は、こう言ってはなんですが、精神科医でなくても
十分想像のつく結論をしたり顔で述べるのでした。
「彼女が自分の人生そのものに平和を得ることができなければ、
彼女は自分自身を和らげるために溜め込み行為に逃げ続けるでしょう」
精神科医は、根気よく話し合いを行い、彼女はサルの家に住み続けながら
自分の住居の掃除を継続するということに(一応)納得しました。
「家族はまだジョニの家が救われることができると思っており、
彼女がいつか戻るかもしれないという希望を持ちながら片付けを続ける」
と番組のテロップはいうのですが。
あの息子二人、やる気のない弟にやたら攻撃的で麻薬中毒上がりで、
自分自身も「ホーディング」の素質たっぷりの兄、そして
無気力で愚かなこの女性が、この一件後、人が違ったようになって
片付けが進む=ものごとが好転するとはわたしにはとても思えません。
テレビに依頼すれば誰かが何かしてくれるかもしれない、
という胸算用から動き出したに過ぎない彼らが(カメラの前ですら
あのざまだったのですから)撮影が終わり、誰も見ていないところで
誰も世話を焼いてくれなくなったとき、それでもこの困難な仕事を続けるでしょうか。
彼らがそれができる人々であれば、そもそもここまでになっていない、
とわたしは誰でも思い至るであろう一つの現実に突き当たります。
続く。