当映画部が最近日独米作品というローテーションで映画を紹介していることに
お気づきの方も、もしかしたらおられるかもしれません。
夏以降、日本海軍の造船界隈を扱った「怒りの海」、制服を盗んで士官になりすまし、
暴虐の限りを尽くした実在の人物をモデルにした「デア・ハウプトマン」、
ときているので、今回は特にスター共演で話題となったハリウッド映画を取り上げます。
本作「危険な道」のオリジナルタイトルは「In Harm's Way」。
直訳すると「危険な道」で珍しくも合っています。
翻訳した邦題が正しくオリジナルの意図を伝えている例は、
いうてはなんですが、わたしがこれまで扱ってきた映画では初めてです。
”In Harm's Way ”、この言葉はアメリカ独立戦争の海軍の英雄である
当ブログ的にはおなじみジョン・ポール・ジョーンズの言葉、
I wish to have no connection with any ship that does not sail fast,
for I intend to go in harm's way.
「高速で進まない船とはわたしは関係を持ちたくない。
なぜならわたしは危険を承知で行くのだから」
から取られています。
同名の小説をベースにしたこの映画の監督は名匠オットー・プレミンジャー、
一山いくら状態で有名な俳優がぞろぞろ登場するという豪華版です。
さて、先も長いしとっとと始めましょう。
タイトルとして登場するのはポスターと同じデザインの、
指差す海軍士官の腕を図案化したモチーフです。
ここはハワイのフォード島「コミッションド・オフィサー・メス」
つまり士官のみが使用できる食堂&慰安施設。
おりしも1941年12月6日の夜、ダンスパーティが行われています。
これは史実だったらしく、戦中の日本映画「ハワイ・マレー沖海戦」で、
このパーティの様子を通信で傍受した日本軍が、
「アメさんたち、女子と抱き合って踊っとるんじゃ」
と皆で嘲笑う?シーンがありましたっけ。
軍関係者のパーティらしく、テーブルに整然と並べられた軍帽から
プールサイドで行われているパーティ会場にカメラは移動します。
バンドが演奏しているのは「スリーピー・ラグーン」。
(題名が思い出せなかったので『歌っちゃお検索』で歌って突き止めました)
スローダンスがアップテンポに変わると、一人で酔っ払い、
フェロモンを無駄に撒き散らして周りの顰蹙を買っている美女が登場。
バーバラ・ブーシェ演じるリズ・エディントンです。
「見ておれん」
リズは海軍パイロットであるポール・エディントン中佐の妻ですが、
今宵彼女がハメを外している相手は夫ではなくなぜか紛れ込んだ陸軍パイロット。
それを見てマコーネル中尉夫妻が眉を潜めております。
(マコーネルが老けているので大尉と思っていたらどうも違うらしい)
「エディントンは訓練で海に出てるんだぞ」
それはともかく、女性のファッションや髪型がどう見ても
1950年代のそれで、1941年のものとは思えません。
陸軍少佐を演じているのはヒュー・オブライエン。
彼女をパーティから連れ出すときに、
「海軍は息が詰まる」(It's a stuffy Navy joint.)
とさりげなく海軍をディスっております。
それより陸軍にもこんな白っぽい制服があったんですね。
スーツ襟ですが、これは海軍に対抗するためのパーティ用?
いそいそとご自慢のリンカーンコンバーチブルに乗りこみ、
夜の海に到着するや、このBッチが海岸で全裸になり、
海に入って行くので男も制服を脱ぎ捨て以下略、というありがちな展開に。
(女性上半身後ろ姿ののサービス映像あり)
戦争映画だと思って見始めたらとんでもない出だしじゃないですかー。
明けて12月7日、運命の朝がやってきました。
こちらは本作の主人公である「ロック」、ロックウェル・トリー大佐が
艦長を務める「無名の重巡洋艦」です。
いつもの海軍的ルーチンを行う乗員たち。
「ドミドミドードー ドッドドドミドー
ミソミソミーミー ミッドドミソミー
ソドソドソーソソッソソソドソー(繰り返し)」
これがアメリカ海軍の起床ラッパのようです。
我らが艦長はガウンを着て髭剃り中。
本作はジョン・ウェインの最後の白黒映画となりました。
誰が見てもこの頃のウェインは海軍大佐にしては年寄りすぎで、
しかも年齢のせいばかりともいえない覇気のなさが感じられるのですが、
この頃肺癌と診断され、撮影中ずっと血を吐いていたからでしょう。
病気にもかかわらず彼は撮影中1日6箱のタバコを吸い続け、
撮影終了直後に左肺と肋骨を何本か切除するという事態になりました。
しかしそれでもこのあと彼は闘病しながら映画にも出て15年元気?でした。
本人も納得してただろうし、病気も本望だったのではないでしょうか。
さて、ここでトリー艦長、嫁が絶賛浮気中のエディントン中佐を呼び出し。
エディントン(カーク・ダグラス)は浮気な嫁のせいで任務に身が入らず、
そのせいで航空隊をクビになって船に回されてきたといういわく付きです。
写真立ての嫁の写真を物思わしげに眺めたりして、性悪なのに、
(いやだからこそか)執着せずにいられないようです。
さて、こちら性悪の方は悩める亭主のことなどそっちのけで、
浜辺の一夜を過ごしたものの、朝が来てみると横に転がっているのは
いぎたなく寝ているほとんど知らない男。
ちなみに陸軍少佐を演じたヒュー・オブライエンはちゃんとした?俳優ですが、
あまりにしょうもない役どころのせいか、クレジットなしです。
さて、今からマック(マコーネル中尉)が駆逐艦「キャシディ」に乗り込みます。
ちゃんと乗艦の際艦尾に向かって敬礼しているのが本物っぽい。
甲板で暇つぶしにゲームをしている駆逐艦野郎どもですが、
そのとき、一人が通達文を読んでいわく、
「駆逐艦ワードが哨戒中に潜水艦を撃沈したそうだ」
そう、真珠湾攻撃はこのときすでに始まっていたのです。
しかし、乗員は呑気にトランプを繰りながら
「あーあ、味方の潜水艦を沈めたらただじゃ済まないぞ〜?」
違う節子それ日本の潜水艦や。
さすがに巡洋艦の艦長であるロックはこれを見てすぐさま
ジグザグ航行を命じますが、エディントンは
「またかわいそうなクジラが脂肪を失ったか(直訳)」
とこちらも呑気です。
しかし、飛行機の大群は訓練にしては変だと思い始め、
艦長はジェネラルクォーター(総員配置)を命じました。
「ドドドソミミミドソソソミミドソ、
ドドドソミミミドソソソミドソドー(繰り返し)」
これが総員配置のラッパですが、総員起こしに続き、
アメリカ海軍のラッパは音楽的にイマイチだと思いました(感想)
「This is not a drill, this is not a drill,
General Quarters, All hands man your battle stations.」
使用された巡洋艦は「セントポール」、総員配置につく乗員は全て本物です。
砲の先のキャップを取り、戦闘ヘルメットを被り、皆が甲板を全力疾走。
こちらは駆逐艦「キャ」シディ」のマコーネル中尉。
先任として朝の儀式を行っているところに連絡あり。
「日本語の機内無線らしき音声が聞こえる」
非常時と判断したマックは出航準備を命じました。
この頃砂浜でようやく目が覚めた陸軍少佐。
エディントン嫁はこんなときにコンパクトを見るのに一生懸命ですが、
男はさすがに腐っても飛行将校、日本軍の攻撃だと気付きました。
飛行機からの銃撃を受けながら(これは歴史的に間違い。民間人は攻撃されていない)
転がるように車に乗り込んだ不倫カポー、カーブ道をすっ飛ばしますが、
カーブを曲がったところでなぜか左側を走っていたトラックを避けようとして
車はガードレールを乗り越えて崖を転落。
(-人-)ナムー
この瞬間なぜか車種が明らかに別の車に変わっています。
情報によるとそれまでリンカーンだったのが落ちたのはフォードだそうですが、
このタイプは1946年製で1941年には存在していません。
崖を落ちていくフォードの助手席には軍帽を被った人形が一体載せられていますが、
助手席にリズの姿はありません。
実際に転落に使える車がフォードしかなかったのでしょう。
「バーナー挿入」
「系糸装置解除。保護弁開け」
「電気ローラー起動」
そうこうするうちに周りの海面に空爆の水煙が立ち始めました。
艦番号298とありますが、「キャ「シディ」は架空の駆逐艦で、
が撮影に使用されました。
当時は現役だったので、乗員も全て本物であったはずです。
そこで問題が。
すぐさま出航を命じたマックに向かって乗員が
「Wait the captain」(艦長を待たなくては)
しかし彼は
「Screw the captain」
とすぐさま言い返しています。
字幕では「置いていけ」となっていますが、さすがに海軍という組織で
いくら映画でも一介の中尉がそんな命令をだすとは考えにくいですね。
Screwは文字通りねじ込むという意味なので、
「早く乗艦させろ」
が正しいのではないかと思われます。
結局最終的に艦長は置いていくことになるわけですが。
艦長がいないので独断で爆撃を避けるため出航した「キャシディ」ですが、
後ろから内火艇で艦長と副長が追いかけてきました(笑)
乗員「ハーディング艦長と副長です」
艦長&副長「スピードを落とせ〜!」
マコーネル「みんな、後方に何か見えるか?」
艦長&副長「乗せろー!止まれー!」
乗員「見えたとしたら目がおかしいですな」
同期「スピードを上げるんだマック」
いやー、いろんな映画で真珠湾攻撃のシーンを見てきましたが、
アメリカ側にこんな悲惨さのかけらもないのは初めてだわ。
日本軍の攻撃が続く中、上層部が司令部に集まってきました。
水兵たちが銃を空に向けて撃っています。
状況証拠的に?この真ん中がキンメル提督であることは間違いありません。
ちなみにハズバンド・キンメルを演じたフランチョット・トーンも、
本作撮影中肺癌で闘病しており、直後に死亡しています。
キンメルは到着するなり出航した艦の確認を始め、
「9隻の戦艦のうち1隻も外に出なかったのか?」
と質問しています。
しかし、実際に当時真珠湾にいた戦艦は8隻でした。
(USS『ユタ』はすでに標的艦だったため)
さて、こちらはロック艦長の巡洋艦。
「駆逐艦(tin-can)が出航したと報告がありました」
ロックは巡洋艦3隻と駆逐艦8隻を集め、12隻で艦隊を組みました。
それらの全てがレーダーを装備していないにもかかわらず、
司令部は日本軍を探し出して攻撃せよと命じてきます。
その通達を受けるとき、ロック艦長は長官のことを
「CinCPac」
Commander‐in‐Chief、Pacific Command
と呼んでいます。
太平洋軍最高司令長官の意です。
自衛隊の人が在日アメリカ軍司令官を7Fと呼んでいたのを思い出しました。
全く関係ありませんが、我が政界にも超親中派の2Fという政治家がいますよね。
それはともかく、日本軍追撃を命じられた巡洋艦隊ですが、
問題は燃料の補給ができていないことです。
ちょうどタンカーとすれ違いますが、艦長は一眼で
艦体が浮いていることから補給する燃料は積んでいないと判断します。
ここでロック艦長はジグザグ航行をやめて燃料を節約するという
苦渋の決断を下さざるを得なくなりました。
懸念は敵潜水艦の存在でしたが、そういう時に限っているんだなこれが。
まずマックの駆逐艦「キャシディ」がその存在を発見。
ロック艦長はジグザグ航行の再開を命じ、駆逐艦は爆雷を投下します。
艦長とエディントンの間にいる士官は「バーク」と呼ばれていますが、
わたしのカンによるとこの人のファーストネームは「アーレイ」だと思われます。
ところがそのとき、爆雷にもめげず日本軍の潜水艦が放ってきた魚雷が
見事巡洋艦の横っ腹に命中!
中央部からは応答なく、浸水した模様です。
「損害箇所を知らせろ」
という艦長に、エディントン中佐、(この人の役割って何?)
「(損害箇所は)その腕。多分折れてる」
この一連の会話で、当時のアメリカ海軍では艦長のことを
「オールドマン」(オヤジ)と呼んでいたことがわかりました。
もちろん面と向かっては言いません。
艦内ではエディントンが中心となってダメコンを行い、
巡洋艦はその甲斐あって沈没を免れました。
爆雷で潜水艦を駆逐したと報告を受けたので、ロック艦長は
メガホンで直接やりとりを始めました。
「ハーディング中佐、よくやった」
「ありがとうございます閣下、わたしはハーディング中佐ではありません」
「中佐はどこだ」
「陸(おか)であります」
「誰が指揮しているんだ」
「わたくしマコーネル中尉(Lieutenant)です」
「中尉(Lieutenant Junior grade)と言ったか?」
「兵学校38期のウィリアム・マコーネルです」
「ほー・・・・」
ロック艦長は「キャシディ」以外の艦に帰還を命じ、
マックに巡洋艦の曳航を任せたのでした。
"Oh, Rock of Ages.
We got ourselves another war.
A gut- bustin', mother-lovin' Navy war."
エディントンが顔を合わすなりロックに向かって言うこの言葉、
「ああ、このロック野郎、また戦争にありついたな。
腹が捻れそうな、あのお馴染みの海軍の戦争に」
と訳してみました。
しかし実際は中佐が大佐に向かってこんな言い方をするわけないですね、
適当に敬語に翻訳しておいてください(いいかげん)
続く。