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映画「大東亜戦争と国際裁判」〜罪状認否から”天皇不起訴”の決定

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■罪状認否

極東国際軍事裁判、通称東京裁判は、
罪状認否(アレインメント)が始まりました。

罪状認否は英米法では必須の形式的な手続きで、
訴追事項に対して被告が有罪か無罪かを答えるというものです。

形式ですが、ここで「ギルティ(有罪)」と答えれば、
審理は行われず刑の量定だけが審議されるというわけです。

ABC順で最初に立った荒木貞夫陸軍大将(柴田新・似てない)は、
これが形式であることを知らされていなかったのか、

「その件につきましては弁護人より申し述べます」

に始まり、とうとうと思うところを述べはじめましたが、

「イエスかノーかだけいえ」

とつれなく遮られてしまいました。

土肥原賢二(信夫英一・茶髪)陸軍大将
(静かに)「無罪を申し立てます」

廣田弘毅元首相
「端然として『無罪』と答えた」(児島;東京裁判)

廣田の令嬢は全ての裁判に傍聴を行っていたそうです。
罪状認否は板垣征四郎陸軍大将、木村兵太郎陸軍大将と続き、

松井石根陸軍大将(山口多賀志、全く似てない)
「ゆっくりと『無罪を申し立てます』」(東京裁判)

重光葵外相「アイ・プリード・ノット・ギルティ」

重光役は吉田茂役と同じく、一般公募で選ばれた素人さんです。
似ていないことはありませんが、本物の重光葵の持つ、
凄みすら感じさせるあの怜悧そうな眼差しの強さが全くないので
わたし的には低評価。

ちなみに、英語で罪状認否を行ったのはもう一人、
外相だった松岡洋右で、彼の場合

「I plead not guilty on all and every account.」

ときれ切れにこのような発言を行っています。
松岡は裁判の結審を待つことなく亡くなりました。

武藤章陸軍中将(中西博樹・かすりもしないほど似てない)
(切り捨てるように)「無罪!」

ちなみにこのときウェッブ裁判長が次々と呼び立てるので、
マイクを持つ米兵は走り回って大汗をかくことになりました。

最初から二十八人の罪状認否が済むまで9分というスピードです。

そして東條英機元首相が
(胸を張り独特の調子で)

「起訴の全部にィたいしましてェ・・・・・
私はァ無罪を主張いたします」

しかしわたし個人の意見によると、アラカンの東條は、
「カミソリ東條」といわれたあの怜悧な感じは出せていない気がします。

このとき傍聴していた軍服の男が血相を変えて立ち上がり、

「無罪とはなんだああ!それでも日本人か売国奴!」

とキレ出して、たちまちMPに摘み出されました。

もちろん実際にはなかった出来事ですが、この罪状認否が
英米法の手続きと知らず、武士道精神やらなんやらと絡めて
潔くないなどと考える日本人が案外多かった、ということを
端的に表す演出でしょう。

■清瀬弁護人対キーナン検事(とウェッブ裁判長)

実際は罪状認否の前、清瀬弁護人が、裁判所の「正統性」について
異議を申し立てる波乱が起こっています。

簡単にいうと、裁判長のサー・ウェッブKBGは、この裁判の前に
ニューギニアにおける日本軍の不法行為とされるものについて調査しており、
これは被告(日本)に関する事件の告発・起訴に関係したということに当たるので
近代法に照らすと今回の裁判において裁判官になる資格はない、ということです。

これは実はアメリカ人弁護士のジョージ・ファーネス弁護士の「作戦」でした。
もしこの映画にファーネスが出演することになっていれば、この部分は
違う演出となったのではないかと大変残念に思います。

映画ではこの申し立ては省略して、清瀬弁護人が

「ポツダム宣言に定められた条件には従うが、ポツダム宣言前に考え出された
『平和に対する罪』『人道に対する罪』は日本に適用されるべきではない」

そして、満州事変やノモンハンなど決着済みのものに対してまで起訴対象にするとか、
同盟国であったタイに対する戦争犯罪などはあり得ない、と主張したのに対し、
キーナン検事(E・P・マクダモット)が激烈に反論した部分だけが描かれています。

キーナンが清瀬博士の言葉が終わらぬうちにわりこんだり、
清瀬が台にしがみついたり、キーナンを突き飛ばさんばかりにしたり、
という実際にもあった「どつき漫才」風の相克はここで表現されました。

なかでも、

「日本国民はこの28名が裁判されるよりは
『速やかな、そして完全な破壊』の方を好んでいたのか」

という言葉は(実際はイギリス判事コミンズ・カーの発言)
つまり

勝者が敗者に報復を加えるのは当然だ

と言っているのと同じと受け止められました。

そこで登場したのが(実際は翌日)我らがブレイクニー少佐です。
ブレイクニーファンのわたしは、この配役(W・ランド?)は
あまりにも似てなさすぎて愕然としてしまったのですが、(特に頭が)
映画ではこのまったく似ていないブレイクニー弁護人、

「戦争は国際法に照らしても犯罪ではない。
ましてや国家の問題でこそあれ個人に責任はない。
当法廷には個人を裁く権限はなく、戦勝国ばかりで構成された法廷では
裁判の公正は担保できず、法廷憲章に違反する」

と述べ、さらにわかりやすくキーナン検事に

「戦争指導者を罰せずに置くことは文明の全滅を意味する」

と言わせて管轄権問題を切り捨てた法廷を再現しています。

ちなみに蛇足ですが、平沼騏一郎の弁護人であったクライマン大尉も
同じく管轄権問題を述べていますが、ウェッブ裁判長は彼に

「大声でわめかないでほしい」←

と言ってから、

「法廷ではなく判事控室で喋る機会を与える」

とやはり切り捨てて終わっています。

■ 日本を糾弾する検事の冒頭陳述

キーナン検事の冒頭陳述は、ものすごく平たくいうと、

「見せしめのためにこっぴどく戦争犯罪人を処罰する。
報復によって再発を予防するために」

というものでした。
じつに日露戦争の旅順港閉塞作戦に遡ってまで(笑)
日本の「侵略」は糾弾され、おそらく法廷の被告たちは

「そんなことまで知らんがな」

と内心思ったでしょう。

そして、冒頭陳述ではあり得ないのですが、例の南京事件が
ここで陳述されたということになっています。

聖戦を標榜していた日本のアジア解放の実態だ、と非難する論調で、
これはアメリカ大使館の申し入れに忖度する形で追加された部分でもあります。

 

ここで留意していただきたいのは、これらの告発は裁判という「法廷論争」において
敗戦国である日本を糾弾するために出されてきた事実であるということです。

言わせて貰えば、南京で起こったのが虐殺だったか戦闘行為だったかを
後世が論じるのは実に「意味のない」ことでもあります。

なぜなら古今東西戦争という枠組みの中では、いかなる国においても
残虐行為が一度とも行われなかったなんてことはないのですから。

ブレイクニー弁護人のいうところの「裁くものの手も汚れている」というのは、
人類最大の一般人虐殺である原爆投下を行なった側が被害国を裁く、
というこの大いなる矛盾を端的にいいあらわしています。

そもそも戦争に勝った側が負けた方を裁く、そんな法律は存在しません。
所詮はその大矛盾の上にこの法廷は成立していたのです。

 

まあ要するに日本はどんな「お前がいうな」的なことを言われても
裁判では甘んじて受けなくてはいけない立場だったってことです。

それが戦争に負けたということだったのです。

ここでなぜか東京裁判関係ではほぼ無名な瀧川幸辰博士(川部修詩)が、
日本の侵略を卓を叩いて激しく糾弾し始めます。

瀧川といえば、「瀧川事件」という政府による思想弾圧事件
(トルストイの「復活」に見る刑法という講演が無政府主義的ということで
文相だった鳩山一郎に罷免され、京大法学部の教授が雪崩を打って辞任した事件)
の「被害者」ともいうべき学者だったわけですが、その恨みはらさじとばかり
ここぞと裁判の証人として日本の「ファシズム」を責め立てるのでした。

この部分も後から追加されたシーケンスです。

元陸軍兵務局長、少将田中隆吉(江藤勇)の証言シーンも追加されました。
この役者は多少スマートとはいえ「大入道」とあだ名のあった田中の雰囲気は捉えています。

田中は資料をまったく見ずに細部を語り、あれを見た、これを聞いた、などと
存在しない文書や死人の証言を引きながらスラスラと、検事側の主張通りに
告発を行い、被告たちは唖然、続いて憤然となったといわれます。

彼が証言台に立った理由は主に我が身かわいさだったといわれていますが、
逆に検事側が彼を採用した理由は、ギャングと対峙してきたキーナン検事団の

「ギャングの中に協力者を求める」

という『FBI方式』によるものでした。

ところで世知に長けた田中はオフのキーナン検事を「某所」に
お連れする係を引き受けており、検事が田中にそれを催促する合言葉は

「強くなった」(英語か日本語かは不明)

だったそうです。

次に元満洲国皇帝、溥儀が出廷し、満洲国の皇位についたのは、
板垣征四郎大佐の強引な工作によるものだった、と語ります。

「東京裁判」によると実際の溥儀の証言は皆を苛立たせました。

ブレイクニー弁護人に、(映画では清瀬弁護人)

「板垣大佐と会見したときに
『故郷満洲の治安の乱れを憂い、進んで親政を行いたい』
と提案し、自分から進んで受諾する旨書簡を書いたのは本当か?」

と詰められると、そこからあとはどんな質問に対しても

「知らない」「覚えていない」

証拠としてその手紙を見せられると、悲鳴を上げて

「お願いです!これは偽造です!書いた者は処罰されるべきだ!」

と目を血走らせ、ガタガタ震え、その異様さに法廷は息を飲みました。

そのうち溥儀の挙動不審な態度は法廷をイライラさせ、
ウェッブ裁判長がそのうち言語裁定者にまでやつあたりして文句をつけだすと、
咎められたアメリカ人のムーア少佐は、

「圧迫状態にある東洋人が問題をはぐらかすのはよくあることだ」

と反抗的に言い放ち、またそれにキレた中国人検事が

「今の発言は東洋民族に対する不必要な攻撃であり、間違った理解だ」

と文句をつけだすなど場は混乱し、裁判長をうんざりさせました。
ちなみに清瀬一郎は、のちに著した「秘録・東京裁判」に、

「奇怪で不愉快な思い出」

とし、溥儀は妻を日本軍に毒殺されたとか、日本は神道を広めてそれで
宗教侵略しようとしていたとか、とにかく思いこみだけで証言していた、
もちろん証拠などは全くなかった、と苦々しい調子で書き残しています。

■ 日本側の反証

日本弁護団の反証が始まりました。
それは同時に敗北した日本の「抗弁」になるはずです。

Kiyose Ichiro.JPG

ちなみにご存じない方のために清瀬一郎の写真を貼っておきます。

このときの清瀬弁護人の何時間にもわたる「演説」を要約しておくと、

「国家の行為に対して国家の機関であったゆえに個人が責任を負うのはおかしい」

「日本はドイツのような人種的優越感ではなく、『八紘一宇』、
ユニバーサルブラザーフッドの精神の下に治者と被治者が一心になる、
ということを理想としていた」

「日本の行なった戦争はどれも原因も別なら当事者も別で、
一貫した政界征服計画によるものではない」

「盧溝橋事件の発生拡大はコミンテルンの決議にもある通り
反日・抗日運動の所産であって中国にも責任がある」

「ノモンハン事件は解決済みである、日ソ不可侵条約を破棄し、
満洲国に侵入したソビエトこそ侵略国である」

「太平洋戦争における日本の海戦は米国の経済圧迫、
米国の蒋介石政権援助による支那事変延引、いわゆる
ABCD包囲網体制から免れんとする自衛の足掻きに他ならない」

「しかも米国は日本の戦争発起を暗号解読によって予知していた」



「ルーズベルトが前もって真珠湾攻撃を知っていたのは事実であり」


「日本大使館のミスによって手交できなかったというのが本当である」


「駆逐艦ウォードが日本の小型潜水艦を撃沈したのは
日本の攻撃より前であり、日米開戦の最初の一発は日本ではない」

「平和への希求のためにこの戦争の原因を探求するとき、
それが人種的偏見によるものか、私怨の撫養と分配によるものか、
裕福なる人民、または不幸なる民族の強欲か、
これこそ人道のために究明せねばならない」

陳述中も、終わった後も、法廷は水を打ったように静まり返り、

「ひたすら、あるいは高く、あるいは低く、打ち寄せる波のように
説き進む清瀬弁護人の陳述に、息を詰めていた」(東京裁判)

また、このとき清瀬弁護人は、日本の抱いた「三希望」として

「独立主権の確保」

「人種差別の撤廃」

「外交の要義すなわち東洋平和によって世界の康寧に寄与すること」

を挙げています。

映画では意外なことに?あのブレイクニー弁護人(似てねー!)の
原爆発言もちゃんと取り上げています。

しかしさすが文明国アメリカ、なかったことはともかく、
実際に起こった発言まで映画から削除しろとは言ってこなかったようです。

ブレイクニー少佐は、当ブログがかつてアップしたこともある

「真珠湾が殺人であれば広島も殺人である。
我々は広島に原爆を落としたものの名前を知っている」

という激烈な弁論で法廷を騒然とさせ、記録をストップさせました。

 

本作では検事側が

「いかなる武器を連合国が使おうと当裁判には関係ない」

というと、ブレイクニーは

「かかる武器はハーグ条約で禁止されているため、
日本にはリプライザル(報復)の権利が生ずる」

と発言しています。

当ブログではかつてこの発言について書いているので、
もしこの詳細に興味がおありでしたら一読をお勧めします。

東京裁判の弁護人たち〜ベン・ブルース・ブレイクニー少佐

ここにも書いたように、原爆投下後の3週間の間におきた戦争犯罪は、
原爆使用が国際法違反であり報復が正当であれば不問になり、
何人かの戦犯にとって有利になる、というのがその「戦法」でしたが、
裁判長は

「本法廷は敗者日本を裁くところで連合国を裁くところではない」

のひとことでブレイクニーの発言を切り捨てました。

 

■ 東條被告の個人反証

東條英機が証言台に立つ日、巣鴨の法廷は「ハリウッドなみ」に
各メディアのライトがこうこうと照らされることになりました。

一度自決を図り、今更命を惜しむつもりのない東條大将にとって、
この法廷においての使命は、日本が犯罪を犯したのではないと証明すること、
そして天皇陛下をお守りすることであった、といわれています。

キーナン検事は日米交渉案の甲乙を出してきて、
そのどちらかでもアメリカが飲んでいたら戦争は回避できたのか、
と尋ね、東條は、こちら側の条件に「最後通牒」はなく、
「ハルノート」という最後通帳を叩きつけたのはアメリカだ、と答えました。

 

また、この映画では触れられていませんが、キーナン検事は東條への尋問で
天皇に責任はないという結論を何とか引き出そうとしていました。

米政府及びマッカーサー元帥は、占領政策を成功させるために、
そして日本の赤化防止、日本国民を掌握のために、天皇を起訴せず
安康にすることを至上目的としていたのです。

東條大将が

「(天皇陛下は)私その他の進言によって渋々ご同意になった。
平和ご愛好の精神のため最後の一瞬に至るまでご希望をもっておられた。
まことにやむを得ないが朕の意思にあらずという開戦の御詔勅であった」

と答えたとき、キーナン検事は心から満足した様子であったといわれます。

かくして天皇不起訴は正式に決定されました。
マッカーサーはウェッブ裁判長とキーナン検事を総司令部に招き、
その正式な決定を告げています。

ウェッブ裁判長ははなお釈然としない表情でしたが、
「よろしいな」という元帥の言葉に内心はともかくも頷かざるを得ませんでした。

 

続く。

 


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