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Channel: ネイビーブルーに恋をして
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捕われた日本軍〜映画「シン・レッド・ライン」

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映画「シン・レッド・ライン」2日目です。

この戦いが今後の地位を決定するため後がないトール中佐命令によって、
弁護士出身のスタロス中佐指揮するチャーリー中隊は、日本軍が陣地を構築する
丘の上を攻略しようとしています。

高所からの砲撃と狙撃によって多くの命を失いながらも、そんな中
日本軍が撤退しているらしい様子に感づいた中隊ですが、
激しい戦闘ストレスはすでに何人かの兵隊の精神を蝕んでいます。

「俺はもう嫌だ!」

錯乱して叫ぶマクロン軍曹(ジョン・サヴェージ)を、周りは呆然と眺めるだけ。

狙撃されたテッラ二等兵(カーク・アベセド、『バンドオブブラザーズ』にも出演)
に駆け寄るウェルシュ軍曹(ショーン・ペン)。

もう動かすこともできない彼には、周りの死体から集めた
モルヒネの缶を最後に渡してやることしかできません。

「さよなら、曹長どの」

彼を残してまたもや弾丸を潜って帰ってきたウェルシュに、

「明日叙勲の申請を」

とスタイロス大尉がいうと、

「もしそんなことをしたらすぐにやめてやる。
そしたらこの無茶苦茶な隊をあんた一人で仕切ることになりますぜ!」

うーん、ウェルシュ軍曹、怒ってます。

「勲章?くだらねえ」

まあ、こういう状況で何が勲章だ、と誰でも思うでしょう。

「何してるんだ?窪みに寝てるじゃないか!
今すぐ敵の機銃をクリアしろ!オーバー!」

膠着中のスタイロス大尉のもとにトール中佐からはガンガン電話がかかってきます。

「斜面でたくさんやられて・・・2分隊なら出せますが」

するとトール中佐、ヘルメットを地面に叩きつけ、

「ガッデム!全員を今すぐ動かして戦わせろ!」

側面のジャングルから偵察を出して攻撃するべき、
というスタイロスにトールは激怒し、あくまで正面突撃を行わせるように言います。

するとスタイロスは命令を拒否し、言うに事欠いて

「こちらには二人、そちらにも証人がいます」

「営倉の弁護士みたいな言い方はやめろスタイロス!
君がろくでもない弁護士だったことは知ってるぞ!
ここは法廷じゃない!これは戦争だ!いまやってるのは戦闘だ!」

それでもスイタロス、一歩も引かず、その攻撃は自殺に等しい、
2年半一緒の部下をしに追いやる命令はできない、と動きません。

するとトール中佐、自分がそこに乗り込む!と荒々しく電話を切ってしまいます。
そのあと、スタイロスはギリシア語で何か言うのですが、それは

「Ta echi chasi aftos」(彼はそれを失った)
「xery tee moo lay」(彼は自分が何を言っているかわかってない)

という批判的な言葉でした。



その間にも負傷で死んでいく兵。(一コマ出演)
ビード二等兵役のニック・スタールは「ターミネイター3」のジョン・コナー役です。

怒りに任せて山中を駆け上ってきたように見えるトール中佐。
この映画の不思議な(分裂症的な?)ところで、トールの内心の声は以下の通り。

「墓場に閉じ込められた。蓋を開けられない。
俺は思いもよらない役割を果たしてる」

部下の命を案じて突撃できない中隊長の尻を叩いて多くの兵を殺す役割。
それがトール中佐の望んだものではなかったことは確かです。
今彼は自分で自分をどこかから第三者として見ているような感覚に陥っています。


しかし、その役割を果たすべく、今度こそ反対できなくなった中佐に
「俺のやり方で」日没までに高地を攻略する、と強い口調で言い切るのでした。

斥候を命じられたベル二等兵。
ベルは昔将校だったらしいのに、この戦争では二等兵です。

軍隊を辞めたあと戦争になり、兵卒で参加したということでしょうか。

そして彼は、またもや草むらを匍匐前進しながら妻のことを思うのでした。
揺れるレースのカーテン、海に腰まで浸かってこちらを誘う妻。

そんな妄想をしながらも、敵のバンカーには機銃が5門あることを突き止めます。

トール中佐はさっそくトーチカを攻略する志願者を募りました。
間髪入れず名乗り出たのがベル二等兵です。

 

その晩、ウェルシュ軍曹は脱走して懲罰部隊に入れられたウィット二等兵に、
またもやちょっとした語り掛けをするのでした。

「お前ができることなんてこの世の中でどんな意味がある?
この狂気の中で一人の男ができることなんて。

死んだとしてもそれっきりだ。
全てがうまくいく別の世界なんてありゃしないのさ。

世界はここだけだ。この島(ロック)だけ」

どこからともなく現れた野犬が、遺体の肉を喰らう闇の中、

精神が壊れたマクロンが一人叫んでいました。

「俺を撃つやつは誰もいない!」

攻撃の朝が明けました。
もしかして人生最後となるかもしれない朝、皆の表情は沈鬱です。

攻撃開始。

トーチカまで接近し、砲撃を指示後、敵基地まで突進した偵察隊は、
(一人やられて)6名の拳銃と手榴弾だけでトーチカと守備隊を殲滅。

「クリア!」

ちょっとこのシーケンスが都合よすぎというか、敵の弾は当たらず
こちらの攻撃だけがうまくいきすぎて安易な展開という気がしますがまあいいや。

手を挙げて出てきた日本兵を罵り蹴飛ばし殴り撃ち殺すクィーン伍長。
輸送船の中でキレまくって叫んでいた男です。
まあそういう人はこういうことをするってことです。

ドン引きする、極めて常識人のベル二等兵。

「一人殺した」

と呟き、誰かと抱き合います。

ここからちらほら?日本の俳優が顔を出すのですが、
アメリカと日本のサイトでの情報が不確かすぎて、誰が誰かわかりません。
米サイトによると、将校役は光石研と信太昌之、となっていますが、
日ウィキだと光石さんも信太さんも兵隊とされています。

捕虜となった日本軍兵士たちも、彼らを見る米軍兵士たちの表情も様々です。

何やら拝んでいる兵、何やらぶつぶつ呟く兵。
すすり泣く者、細かく壁を叩く者・・・。
同じ日本人から言わせてもらうと、どうも日本人らしくないという気もします。

じゃどういうのが日本人なのかと言われると、やっぱりじっとして、
アメリカ人からは無表情に見える諦めの沈黙に徹するのではないかなあ。

遺体と日本兵たちの体臭が臭い、と文句を言い、
そんならタバコを鼻に詰めろといわれてその通りにしているデール1等兵。

日本兵たちに向かってなんとなく手を振ってみたりしております。

一方、アメリカ人の視線を剛然と見返していた将校は、
ウィットが差し出した食べ物から目を背けました。

偵察攻撃を成功させたガフ大尉(ジョン・キューザック)に、
トール中佐はもうごっきげんで、兵たちへの勲章の授与を請け合います。

実は肝心の水の補給が足りていなかったりするのですが、
この勢いでもう一押しやって、勝利を確実にしたくてたまらないのです。

「水など!喉が乾いて倒れたらそのまま放っておけ」

ガフ大尉、一瞬押し黙って、

「もしそのまま死んだら?」

「敵の弾でも死ぬぞ!」


この作戦成功=出世のためにはなりふり構わないトール中佐の役を、
ハリソン・フォードが断ったわけがなんとなくわかる気がします。

演じられるられない以前に、あまり彼のトール役が想像できないというか。
フォードってほぼ主役の正義の味方しか演じたことないですよね?
「What lies beneath」は思いっきり悪役だけど、これピカレスクものに近いし。

トール中佐は、言い訳のように

「君は出世し損なう気持ちを知らんだろう。
君は士官学校出たてですぐ戦争にありついた。
しかし俺にとってはこの15年で初めての戦争だ」

言い、なおも哀れみを称えたようなガフ大尉の視線に、

「君もいつかわかる」

あまりわかりたくねえなあ、とガフ大尉は思っていたことでしょう。

 

結果的にニック・ノルティが適役だったんじゃないかな。
とにかくトールの足掻きっぷりを描き切った演技は見ものです。

囚われの日本兵とそれを見遣るC中隊のメンバーの姿が執拗に描かれます。

フィフ伍長は、

「君はたくさんの死人を見たか?」

と心の中で語り出します。
「君」とは、手榴弾のピンを抜いてしまい死んだストーム軍曹。
もちろん死んだ人に語りかけているわけです。

「たくさん。死んだ犬と変わりないさ。慣れさえすれば」

ストームの答えがこれですが、一体彼はどこでそれを見たのでしょうか。

「俺たちはしょせん肉の塊なんだよ、若いの(キッド)」

戦友の遺体に手を合わせる者もいます。

そして、ウィットの心には、顔面だけを残して土に埋まってしまった
(あるいは顔だけ残されて後は無くなった)日本兵の顔が、こう語りかけてくるのでした。

「君は正しい人?親切な人?このことに自信を持ってる?」

このこと、とは、日本兵が顔の皮だけになるにいたった行為のことです。

「人に愛されているかい?僕が愛されていたように。
善や真実を愛したからと言って、自分の苦しみが減るとでも想像しているの?」

 

そしてトールのいうところの「この勢いで制圧」を目指す攻撃が始まりました。
それを迎え撃つ日本兵は、むしろ覚悟を決めているように見えます。

どこかで日本人の描き方が人種差別的、侮蔑的であるという感想を見ましたが、
このシーンと、ベルに語りかける「日本兵の顔」のシーンだけからも、
わたしは決してそんな意図は監督にはなかったと断言できます。

ところで、ふとこの段階でタイトルの「The thin red line」を思い出して、
わたしはあることに気がつき、愕然としました。

クリミア戦争における「赤いライン」は、アメリカ軍ではなく、
どう考えても状況的に今のこの日本軍であることに。

しかし勿論この後、日本軍の基地はあっけなく制圧されます。
なぜなら、彼らは補給の途絶えたガダルカナルで飢餓状態に陥った末、
戦う以前にほとんど食糧不足で壊滅しかかっていたからです。

むしろそんな状態の日本兵士のなかにあって、万歳突撃で散ることを覚悟した
先ほどの一団を描く、そこには製作者の畏敬をすら感じさせます。

聞き取れる日本語は、

「カミキ行くぞお!」「手も足もいうことをきかん!」

そして雄叫びをあげながら突入し、やられてしまう・・。

武器を持たず、最初から手を挙げて降参しようとするのは軍属でしょうか。
この一連の一方的な「殺戮」のシーンで流れる音楽は荘重で悲壮です。

中には壕に逃げ込んで自爆する兵もいます。

彼らを見ながら今度はトレインが呟きます。

「この巨大な悪 どこからきたのか?
どうやって世界に忍び込んだのか?」

「どんな種、どんな根から育ったのか?
誰がこれを行っているのか?
誰が我々を殺した?
人生と光を奪ったのは?
わたしたちが知っていたかもしれない光景を見て嘲笑っているのは誰?」

銃を傍に置いて日本兵の手を取り肩を抱き寄せる米兵。
しかし、次の瞬間彼は味方の銃で撃たれて死にます。

こういうシーンがあまりにも切れ目なく続くため、普通に観ているだけでは
因果関係を結ばぬうちに次に行ってしまい、気づかない人もいるでしょう。

もう一つの問題は、繰り返しますが、モノローグです。

英語字幕では誰が言っているかが表されるのですが、字幕がないと
それを誰が言ったかまったくわからないままです。

トールなのかダールなのかフィフなのか、ベルなのかウィットなのかトレインなのか。
(あれ?名前が全員一音節だ・・・・これ偶然じゃないですよね)

 

しかも最初に指摘したように、この人たちの呟きはほとんど同じ内容であるため、
声の違いを聴き分けることもほとんど不可能なのです。

しかし、誰がいつ呟いているのか分からない状態で観ている身には
理解が追いつかなくても無理からぬことと思われます。

しかも、これらのモノローグのほとんどはオリジナルではなく、
映画にもなった「此処より永遠に」から引用されていて、
キャラクターへの認識を混乱させる原因になっています。

トレイン;

「我々の破滅が地球の糧か?草を育て太陽を輝かせるのか?
あなたの中にもこの闇があるのか?
この夜をやり過ごしたことがあるか?」

(『あなた』って誰〜!)

デールは日本軍の上等兵の傍らにわざわざ寝そべり、銃を腹に当てて

「その歯を肝臓にめり込ませてやろうか」

とからかい出します。

「お前は死ぬんだ」

そして空を見上げて

「あそこの鳥が見えるか?お前の生肉を食べるんだ」

うーん・・・悪趣味なやつ。

「お前が行くのはそこからもう帰って来られないところだ」

そして指をダメダメ、というように振ると、日本兵はそれに対し、

「貴様・・・」

「ん?」

「貴様・・・」

「ん?」

「いつか・・・いつか死・・死・・死ぬんだ・・貴様・・死ぬんだよ」

この上等兵の日本語は翻訳されることはありません。

おそらくデールが相手が何を言っているのかわからなかったように、監督は
アメリカ人の観客にもデールと同じ立場を与えたかったのではないでしょうか。

もっとも、アメリカの映画サイトでは日本語が理解できる人がこれを翻訳し、

Kisama とはフレンドリーでない「あなた」の意味で「汚いやつ」、
Moは「too」(もまた)、Itsuka は "someday or sometime, one day etc."
Shinu は "to die".という意味の動詞、"Da yo" は強調と感嘆符の語尾

とわかっているようで少しわかっていない解説をしていました。
日本語ムツカシネー。

日本人だけを貶めて描いているように観た人は、おそらくこういう場面を
見落として、視点の公平さを見誤っているのではないでしょうか。

一瞬なので、DVDで何度も観た人しか気づかないのではないかと思うのですが、
鼻にタバコをつっこんでいる男(多分デール)は、いくつもの金歯を手に持っています。

もちろん日本兵の死体から盗んだものです。
彼は数えていた金歯をしまいこむと、別の日本兵の死体に座ったままにじり寄り、
その頭を抱え込んでナイフを構えるのでした。

しかし、デールがこれを以て悪人だと断じるべきではないでしょう。

それ(たとえば死体の歯を抜くこと)をできるかどうかは
その人間の資質によって変わってくるでしょうが、
たとえどんな資質を持った人でも、平時であれば
決して行わないことをしてしまうのが戦争だからです。

米兵たちが座り込む中、瀕死の戦友を抱き抱え、嗚咽する日本兵。

一連のシーケンスで流れる音楽は、ジマーのオリジナルではなく、
チャールズ・アイブズの「The Unanswered Question」(答えられざる疑問)です。

Ives: The Unanswered Question / Premil Petrovic / No Borders Orchestra

さて、先ほど「シン・レッド・ライン」の状態であったのは日本軍だった、と書きました。
しかし、語源となった故事とは違い、日本軍は何もかもが勝る米軍に屈したわけです。

 

それではこの言葉をタイトルにした真意とはどこにあったのでしょうか。

 

続く。

 


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