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Channel: ネイビーブルーに恋をして
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アメリカのコーヒー専門店「プアオーバー」は茶道の精神?〜アメリカ滞在

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■ マスク復活に怯えるアメリカ

8月に入り、ここピッツバーグはやたら爽やかな日が続いています。
到着した頃は雨と湿気が多く、不快指数高めでしたが、どうやら
ここにも日本の梅雨に相当するシーズンがある模様。

最近はずっと朝方10°台、日中は30°手前くらいで、湿度は低く
木陰であれば快適に外で過ごせるくらいとなっています。

今泊まっているホテルは特に週末ともなるとほぼ満室となり、
駐車場に止まっている車のナンバーも他州のものが多くなりました。

なんでもアメリカでは今まで規制されていた鬱憤を晴らすべく、
旅行に出る人が増えているせいで、ホテルの売り上げが回復しているとか。

 

しかし、ご存知の通りデルタ株の感染はこちらでも社会に変化を与えております。

昨日のニュースでは、ついにピッツバーグ市内の各大学が、学生に
ワクチン摂取を必須とすることになったと報じていました。

そして今朝のニュースでは、地元のスーパーなど、小売店が
従業員へのマスク着用を再び義務にすることになったと。

こちらでも「症状のない感染者」の増加はかなり危機感を持たれており、
もしかしたらもう一度入店には客もマスクを要請されるかもしれません。

わたしは2度目のワクチン接種から2週間が経ったので、接種したお店から

「コングラチュレーションズ!ワクチン摂取から2週間経ちました」

というめでたいメールを受け取りましたが、同時に飛行機会社から悲しいお知らせも。

ワクチンを摂取したら飛行機に乗る際のPCR検査は免除だと思ったら、
やっぱり搭乗直前に検査をしなくてはいけないそうです。

 

ところで、こんな旅行会社のツァーを見つけました。

ワクチン摂取ツァー

これもまた旅行会社の起死回生策になるのでしょうか。

■ ディープな「ストタコ」とバーガー屋の「アイスバーガー」

ある日、家族でランチを取ろうということになって、MKが
兼ねてから美味しいからいつか行こうと言っていた
ストリート・タコスを食べることにしました。

「ストリートタコス?・・・ストタコ?」

屋台でメキシコ人が同胞相手に売っている食べ物など衛生的にどうなの、
とわたしは失礼な印象を持っていたので、なかなかその気になれなかったのですが、
この日はお天気が良いわりに湿度が低く、歩くのに気持ちがよかったので、
散歩を兼ねてストタコを初体験してみることにしました。

夏の間MKは大学で研究の手伝いの仕事をしているので、
昼休みに出てきたところを待ち合わせて、屋台まで歩いて行きます。

途中ピッツバーグ大学の「学びの塔」を望む広場では、
木陰でヨガ教室が行われていました。(冒頭写真)

写真左を歩いている集団は、ピッツ大の「キャンパスツァー」。

わたしたちも、かつてはいろんな大学のキャンパスツァーに参加したものですが、
これは大学のアドミニストレーションオフィスが主催するもので、
現役の大学生が案内役となって、来シーズン入学を予定する高校生と
その家族に、大学の魅力を大いに宣伝するのが目的です。

このガイド役は、夏のなかなかいいバイトになるようです。

「俺ああいうの得意なんだけどな。うちはツァーやらないの」

MKの学校は毎年そうなのか、コロナのせいでそうなのかは知りませんが、
美術館のように所々にオーディオを仕掛けておいて、
見学したい人は、それに従って学内を自分で歩くのだそうです。

「うーん・・・それってサービス?的にどうなの」

基本工科大学なので、それもテックっぽいと考えているのかもしれません。

さて、さらにピッツ大のキャンパスを通り抜けて住宅街を歩いていくと、
見るからにディープな雰囲気の屋台が現れました。

MKがいなければ、わたしなど一生よりつくこともない雰囲気です。

屋台は、ヒスパニック食品店の前で営業しており、そこで
手袋をした3人が肉を焼き、注文の通りにタコスを作っています。

ここに来るのはヒスパニックの肉体労働者が多いらしく、
わたしたちの前に並んでいたのは、ご覧の通り見事な猪首体型の、
ブルーワーカーっぽい一団でした。

日本の肉体労働者たちの昼ごはんが食堂の大盛り飯であるように、
タコスはこういう人たちにとって午後のエネルギーの素なのでしょう。

MKは勝手知ったる様子でわたしたちに何個食べるかだけ聞くと、
後ろのお店に入って行って、お金を払い食券をもらってきました。

屋台の人はお金を触らずにサーブするという仕組み。

列は結構長くできていて、いかに人気の店かがよくわかりましたが、
並んでいるのはわたしたち以外見事にヒスパニック系ばかり。
前に並んでいるその中の一人が、

「あんたらタコス食べるんかい?」

と聞いてきました。
頷くと、彼は、

「そんなら先にお店の中でお金を払ってくるんだよ」

いかにも物好きなディープ体験を求めて並んでいる観光客丸出しなので、
注文方法を知らないで並んでいるかもしれない思って声をかけてくれたのでしょう。
MKがすぐに、

「もう中で買ったから大丈夫」

と答えました。
そしていよいよ順番が来たのですが、MK、

「シンコタコスなんとかかんとかとなんとかポルファヴォール」

とスペイン語でオーダーするじゃありませんか。

「スパニッシュしゃべれたんだ・・・」

「喋れるよ」

高校時代、第二外国語のスペイン語のクラスで滅法苦労した彼に、見かねて
オンラインの家庭教師を見つけてきてなんとかついていけるようにしてやった、
という苦い記憶があるわたしは、彼がこともなげにいうので驚きました。

言語は生活しながら使うのがいちばんの回り道ってことです。

そして作ってもらったタコスに、横のテーブルで自分の好みの
シラントロ、サルサ、アボカドやオニオンなどを盛り付けて出来上がり。

タコスは二枚重ねで、その場で作っているだけに柔らかく、
できてすぐアツアツを頬張るのがベストです。

わたしたちはピッツ大キャンパスのテラスでいただきました。

アメリカの大学キャンパスは基本誰でも敷地内に入って、
アウトドア部分などは自由に歩き、テーブルを利用することが可能です。

ただし、建物内にはIDカードで鍵を開けないと入れません。
これは別の日、MKの大学のビジネススクール建物内でテイクアウトフードを食べた時の写真。

誰もいないのに空調がガンガン効いているのがなんともアメリカンです。
上階には本学出身のノーベル経済学賞受賞者の写真がずらっと並んでいました。

前回泊まった野球場の横のホテルに近い人気のバーガーショップ、
「バーガートリー」、ユニークな店内の看板を紹介しましたが、
今回は別店舗に行ってみました。

イエスノーチャートには、

「あなたはバーガトリーにいますか?」→いいえ→いや、いますよね?
                  →はい

「あなたがここにいる理由は」

A, バーガーは川沿いの方が美味しい(この地名はウォーターフロント)
B, ウォータースライドでお腹が空いたから
C, 素晴らしいインナーボディ体験をしたいから
D, 隣のポプコーンとJr. Mintsより安いから(隣に映画館がある)
F, まずいハンバーガーを我慢するほど人生は長くない
G,あなたはスマートでグッドルッキングだから

などとあり、このチャートは土地柄を反映していることがわかりました。

ところで、アメリカの飲食業の奥の深い?ところは、多民族国家ゆえ、
消費者の好みや禁忌などにできるだけ対応しようという姿勢が
特にチェーン店には顕著であることです。

このハンバーガーレストランのメニューには、オススメの他に
ゼロから自分で作ることができる「メイク・ユア・オウン」があり、
テーブルに備え付けてあるチェックシートにチェックを入れて注文します。

最近わたしはグルテンフリー、デイリーフリー生活を心がけていることもあり、
今回思い切って「アイスバーグバーガー」を頼んでみました。

混んでいたこともあったのでしょうが、おそらくキッチンでは
オープン以来こんなバーガーの注文は初めてだったに違いありません。
オーダーがテーブルに来るのにものすごく時間がかかりました。

わたしもそんなバーガーがオーダー可能だとはこの瞬間まで思いもしなかったのですが、
つまりバン(ハンバーガーを挟むパン)をアイスバーグレタスに変えて注文したのです。
ベジタリアンというわけではないので、中に挟むのは普通のチキンにしましたが、
乳製品を避けるために、チーズはノンデイリーをためしてみました。

MKは基本的に「フリー」製品が嫌いです。
まずい代替品など食べるくらいなら食べない方がマシ、という考えであり、
わたしも実はそう思ってはいるのですが、今回は実験的に
ハンバーガーに「寄せて」みようと思い、ソイチーズを選んでみたというわけ。

結論として、この「アイスバーガー」、ハンバーガーというより、
チキンをレタスで挟んだものの味がしました。(そらそうだ)

何事も体験です。
というか、このブログに挙げるために頼んでみたんだろう、って?

うっ・・・・

 

■コーヒー専門店〜プアオーバーとは何か

従来紅茶派だったわたしがコーヒー党に変わったのは、脱乳製品がきっかけです。

紅茶はどうしても大量にミルクを消費してしまいますが、コーヒーだと
美味しく淹れるとブラックで飲めますし(これ本当)、朝10時くらいに
MCTオイルとギーを混ぜたコーヒーを頂くと昼過ぎまでお腹が空きません。

元々朝ごはんは食べないわたしですが、紅茶の代わりにオイルコーヒーにしてから
乳製品から来る不調がなくなったので、しばらく続けるつもりです。

元々コーヒーに凝っていたMKは、地元でいいカフェを見つけていました。
ここはMKいわく「コーヒーそのものは普通だけど長居できる雰囲気のいいカフェ」。

シェイディサイドという、ピッツバーグのお洒落な通り(アップルストアがある)にあります。

これは、ストリップディストリクトという、昔貨物駅があって
青果などの卸売があったりした地域を再開発した、ホットな街の一角にある専門店。

ここは今や観光客の訪れるスポットになっているので、週末は車が止められません。

ここでわたしは「プアオーバー」(Pour over)を頼みました。
プアオーバーというのは、つまりハンドドリップコーヒーのことです。

挽いたコーヒーの上にお湯を注ぐという、コーヒードリップを使った手法ですが、
通常のコーヒーメーカーでは味わえない、新鮮で豊かな風味を生み出すことができ、
バリスタの腕が最も発揮できる注文でもあります。

豆の種類はもちろん温度やお湯の注ぎ方、スピードなどで味は変わり、
いい豆を一番美味しく飲もうと思ったらこれに限ります。


メリタというフィルターがありますが、この名前はプアオーバーを開発した
アマリー・オーガステ・メリタ・ベンツという女性の名前から取られています。

1908年のある日の午後、メリタはパーコレーターで淹れたコーヒーが、
過剰に抽出され、苦くて不味いと思ったことから、さまざまな淹れ方を試し始めました。

彼女は息子の学校の教科書に付いていたインクを吸い取るための紙を拝借し、
それを今で言うフィルターにして、釘で穴を開けた真鍮のポットにセットし、
それでコーヒーを淹れると言う方法にたどり着きました。

その結果に満足したメリタは、この新しいドリップ法を一般に公開しました。

メリタの「プアオーバー」は1930年代に流行しました。
現在のような円錐形のデザインになったのは、1950年代のことです。
円錐形の方が濾過面積が大きく、より良い抽出ができるということで、
この形が大ヒットし、それ以来現在も変わっていません。

メリタのシンプルな、しかし革新的なコーヒーの淹れ方は、それまでの常識を変え、
いつしか彼女の名前は、注湯器やフィルターのブランドに冠されることになりました。

このストリップ・ディストリクトの写真では、腕に刺青を入れた
黒いTシャツのおじさんが、わたしのコーヒーを淹れてくれています。

巧いバリスタが淹れたプアオーバーは、雑味がなく、
もちろん苦くなく、すっきりとした後味でブラックで楽しめます。

注文すると、豆の種類を聞いてくれることもありますが、
ほとんどは一番いい豆を使うので、値段はどこも

MP=Market Price(時価)

と表示されていて高めです。

まあ、高いと言っても所詮はコーヒーなので、せいぜい5ドル〜6ドルですが、
日本でも大手コーヒーチェーンならそれくらい行きますよね?

そんなわたしたちのお気に入りのカフェは全部で三店あり、二つ目がここです。

店にロースターがあり、焙煎したてが飲める、というのは
美味しいコーヒー専門店の必須条件ですが、
ここには工場か?というくらい巨大なロースターがあって、
いつも店内は香ばしいローストの香りがしています。

飾り棚にミニチュアの鎧兜(織田信長)があったり、

招き猫や戌年の絵馬が飾ってあったりして、

日本好きかあるいは本当に日本人がオーナーかなと思っています。

暖簾がなんだか日本風。
白人系のお店の若い男の子が、わたしたちに

「アリガトウゴザイマシター」

と言ったこともあります。

ここでプアオーバーを二回続けて頼んだら、バリスタの女性は、
その二回の来店の間隔がけっこう空いていたにもかかわらず、

「前と違う豆で淹れましょうか」

と聴いてきました。
アメリカ人でもさすがに専門店でプアオーバーを頼む人は少ないので、
バリスタは職業的な記憶力でそれを覚えているのかと思いました。

MKとわたしが最も気に入って評価しているのがこのお店です。
MKが行きつけの「ヘアースミス」(笑)という美容院の近くで見つけました。

COVID19以前はカフェだったのだと思いますが、今はテイクアウトのみ。
古い建物を使った趣きのある店内です。

隣のタトゥパーラーで隣人割引でやってもらったのだろうかというくらい、
みっちりと両腕にタトゥーを入れた、ヒッピーのような雰囲気の
草食系動物のような痩せた二人の男女バリスタ(そっくりなのできょうだいかもしれない)
が黙々と入れてくれるコーヒーは、驚くほど繊細な味です。

コロナ対策で客は店内3人まで、テーブルから向こうには入れません。
支払いは手前のリーダーでカードを使って行う仕組みです。

何度か行って、MKにわたしのプアオーバーを注文してもらっていたら、
(わたしは車で待っていることが多いため)お店の人は、いちど

「ぜひプアオーバーで飲んでほしい豆があるんです」

などと言い、注文していないのに試飲してくれ、といいながら
おまけのコーヒーを出してくれたりし始めました。

客と世間話の類はいっさいしない二人ですが、コーヒーを出すときには

「今日の豆は何々で、ブルーベリーのようなテイストがします」

「今日はとてもうまく入りました。チョコレートの香りがします」

などとソムリエのような解説をしながら出してくれます。

プアオーバーのおかげでわたしたちは、彼らにどうやらこの日本人家族は
結構なコーヒー通らしい、と思ってもらっているようなのです。

しかし、一杯のプアオーバーを時間をかけて淹れる時の真剣な表情といい、
客に全霊で可能性の限界まで美味しい一杯を提供しようとする姿勢といい、
まるで茶の湯のおもてなしの精神を見るようなあっぱれさに感じ入り、
ここにいる間は、彼らにとって良き客であろうと思っている今日この頃です。

 

 

 


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