ディアゴスティーニの戦争映画コレクションより、東宝作品、
「東支那海の女傑」
を紹介します。
DVDパッケージは軍人姿の天知茂がマシンガンを構え、
高倉みゆきが仲間を引き連れて崖に立っているというもの。
これだけでも突っ込みどころ満載で、
当ブログで取り上げるべき作品に違いない、
と思いつつ、今まで手を出さなかったのは、
東支那海の女海賊というテーマ、しかもその海賊を演じるのが
高倉みゆきという、わたしの苦手な女優であること、
女性が主人公の戦争映画の全く興味をそそられなかったからです。
しかし、ディアゴスティーニシリーズの海軍ものも
残り少なくなってきたことですし、
天知茂の海軍二種軍装に免じて、今回は取り上げることにしました。
プロデューサーは新東宝のワンマン社長大倉貢本人です。
高倉みゆきが大倉の愛人だったことは、本人が
「女優を2号(妾)にしたのではなく、2号を女優にしたのだ」
と豪語したことで世間に有名になりました。
畏多くも高倉に昭憲皇皇后陛下を演じさせようとして、
共演予定のアラカン、嵐寛寿郎が難色を示したのに腹を立て、
「ワシの女やから、気品がないというのか? よし、見ておれ!」
と、無理やりゴリ押しキャスティングしてしまった前科もあります。
(ディアゴスティーニのコレクションには件の作品、
『天皇・皇后と日清戦争』もあるのでいずれ取り上げるかもしれません)
さて、それでは始めましょう。
場面は、終戦間近の中国、廈門のナイトクラブ。
扇情的な半裸の女性ダンサーが踊るシーンから始まります。
それにしても、このダンサー、スタイル容姿が全体的に残念すぎ。
しかもダンスが上手いわけでもなく、クルクル回ってはしゃがむだけ、
音楽と踊りが壊滅的に合っておらず、観客はこんなものを見て
いったい何が楽しいのかという代物です。
そこに用心棒と侍女?を引き連れて現れたのは高倉みゆき演じる
ナイトクラブのオーナー、黄百花。
どうみても皇后陛下よりこっちの方が適役と思うがどうか。
カウンターには、プレーン(背広)姿の海軍士官、
我らが天知茂演じる横山大尉がいます。
そのとき憲兵隊が踏み込んできて、オーナー百花を
密輸容疑でいきなり引っ立てようとします。
「待て!」
そこに立ち塞がった横山、海軍司令部の肩書きをちらつかせて、
「日本軍に協力している人だ」
しかし上からの命令が、となおも反駁する彼らを撃退します。
一介の大尉ごときにそんな権限があるのかな〜?
しかし日本軍に協力しているあなたがどうして日本軍に疑われるのか。
それは何か怪しいことをしているからですか?と直球で聞く横山大尉。
彼女はそれには答えず、
「特務機関の方ですのね」
「はっはっは!」
なぜか話はここで終わってしまうので、
結局この時の容疑がなんだったのかは最後までわかりません。
まあ、一介の大尉が介入できるくらいなので
もともと大した話ではなかったのでしょう。
ナイトクラブは次の瞬間空襲に襲われるのですが、場面はすぐに
その爆音が爆竹音に変わり、終戦だという説明が字幕で行われます。
ご存知のない方ももしかしたらおられるかもしれないので書いておくと、
この戦争はアメリカなどの連合国軍の勝利で日本は負けた側。
正式には昭和20年9月9日です。
ここ廈門の海軍司令部では、司令官(細川俊夫、役名なし)が
徹底抗戦するべきと訴える若い士官をなだめていました。
そこにやってきたのは横山大尉。
そこで司令官は横山にとある密命を授けました。
それは、日本国民が供出し海軍が保管しているダイヤモンド💎を、
敵方に窃取される前に日本に持ち帰り、海軍省の野村中将とやらに届け、
日本政府に返還させるというものでした。
なんで海軍が民間人から召し上げたダイヤモンドを
中国大陸で預かっているのかよくわかりませんが、
まあ要するにそういうことです。
しかし動乱の廈門はテロが横行し、沿岸には海賊が絶賛跋扈中。
脱出、しかもダイヤモンドを持ってのそれは容易なことではありません。
「しかしこれができるのは君を置いて他はない!」
悩める横山大尉が中国服に身を包んで歩いていると、
物陰から狙撃を受けます。
ところがちょうどそのとき、百花を乗せた車が前を横切り、
狙撃者を撃ち殺して彼の命を救いました。
この狙撃者が誰だったのかも最後まであきらかにされません。
さて、通常の方法で脱出は不可能だと考えた横山大尉は、
毒を持って毒を制すという作戦に出ました。
つまり海賊の有効利用です。
日中戦争当時「東支那海の女王」と呼ばれた、黄八妹という、
日本軍兵士を色仕掛けで誘って殺したとか、
リボルバーを両手に大立ち回りをしたとか、
それは海賊というよりスナイパーと違うんかい、
という伝説の女賊が実在していたそうです。
この映画はこの噂話に着想を得ていて、横山大尉はこの伝説の女海賊、
(本作では黄李花)に助けてもらおうとしたのです。
さてそのためにはまずどうするか。
「警備艦一隻買って頂きたい」
横山は黄李花の窓口となっている自称貿易商の劉に会うなりぶちかまします。
「軍艦を売ってやるから、その見返りに、
その乗員全員を日本本土まで安全に送り届けること」
それが横山大尉の出した条件でした。
ダイヤモンドを持った横山大尉自身ももちろん乗り込むつもりですが、
それにしても、一介の大尉に海軍軍艦一隻を
よりによって海賊に売ることを決める権限はあるんでしょうか。
というかこの計画、いろいろと突っ込みどころ多すぎ。
自分の一存では決められないので統領に会ってくれ、という劉の依頼に、
譲渡する予定の警備艦「呉竹」でアジトに向かうことにしました。
快くその任務を引き受けた艦長の田木少佐を演じる中村寅彦は、
現成蹊大学創立者の息子で、東京帝大卒。
「学士俳優」(いまなら高学歴俳優)の第一号です。
ちなみにもう少し下の世代には陸士及び東京帝大卒の平田昭彦様がいます。
アジトの島に近づくと、哨戒艇が警戒信号を発信して来ました。
しかし、劉が灯りを数回転させただけで去っていきます。
一体どういうスーパー通信方法なのか。
そしてアジトとされる島にいよいよ近づきました。
この島(じゃないと思うけど)は、ロケ現場となった和歌山県にあります。
ボートで上陸した彼らをお迎えしたのは、
敵意に満ちた目をした中国人海賊の皆さん。
はて、わたしたちなんか嫌われるようなことしました?
アジトに一歩踏み込むと、控えていた連中が手にした銃の実弾を
てんでに空に向かって撃ちながら走ってきました。
思わず身構える海軍士官たち。
しかしそれは女統領が帰還してきたことに対する歓喜の雄叫びでした。
どんだけボス好きなんだよ。
頭領が帰ってくるたびにこんなことしてたら弾がいくらあっても足りないぞ。
そして改めて海賊の頭領、黄李花の「謁見」を受けた横山は、
それがナイトクラブの百花と同一人物であるのに驚愕します。
李花は、自分の部下に警備艦の航行技術を伝授すれば、
あなた方を日本に送り届ける、とあっさり約束しました。
しかし、
「軍艦の艦名は『泰明号』と変えます!」
勝手に名前を変えられて、一瞬艦長の顔が曇りますが、
この際仕方ありません。・・仕方ないのかな。
李花のボディガード、張は男前の横山が気に入らないらしく、
何かと最初からガンをつけてきます。
皆の前では黙っていた横山大尉ですが、後でこっそり李花の部屋に行き、
「驚きました・・・まさか百花さんが」
「百花ではありません。黄李花です」
そして
「あなたがたには何か重要な役目があるのでしょう。
なぜなら、よっぽどのことがなければ海軍軍人の命に等しい軍艦を
売るなどということは考えられられません」
と図星を付き、横山は押し黙ります。
翌日から海軍による海賊への航海術指導が開始されました。
手旗信号。
六分儀を使った天測。
射撃訓練。
それをするなら艦砲射撃じゃね?と思いますが、予算の関係上
セットが用意できなかったのだと思われます。
一番大切な、錨の揚げ降ろし。甲板作業一般。
そんなとき、海賊のジャンク船団が武器を満載して香港に向かっている、
という知らせが飛び込んできました。
相手は彼女の一族と東支那海の派遣を争う漢一味です。
すると李花は、警備艦「呉竹」を出撃させよ!と命じます。
いつのまに売却が済んだんだろう。
しかもマストにはいつのまにか旭日旗の代わりにこんな旗まで・・。
これ、田木艦長以下「呉竹」の乗員は誰一人文句ないの?
いくら上からの命令でも、中国人、しかも海賊に
艦名もメインマストも乗っ取られたとあっては、
おそらく下士官兵のクーデターは必至だと思うのですが。
模型は新東宝の特技班が手掛けています。
そして敵のジャンク船団・・・うーん・・(特撮のレベル微妙すぎ)
そして、いつの間にか司令官になり切った李花が、
「戦闘用意!」
田木艦長、貴様本当にそれでいいのか?
しかしいくら偉そうにしていても操艦は全て艦長が行います。
当たり前だよね。
と言いたいところですが、
「左20度!」「左20度!」
おい、いつから帝国海軍は取舵を左というようになったのだ。
そこでまたイラッとすることに、李花が
「攻撃用意!!」
そのセリフ回しが、なんと言ったらいいのか、
「あなたおしぼり持って来て」
とバーのマダムがボーイに命令するような口調なんです。
少なくとも軍艦の艦橋で人に聞こえるような声ではありません。
しかも、
「撃て!!」
まで言っちゃうんですよ。
撃てじゃないだろ!てー!だろ?
なんだこの女、とドン引きした横山大尉が、
「無抵抗に等しいものをなぜ撃つんです!
威嚇射撃だけでいいじゃないですか!」
と嗜めても、無視して、
「攻撃続行!」
周りの士官たちは互いに顔を見合わせながらも、しかたなく攻撃ヨーソロ。
田木艦長、貴様重ね重ねそれでいいのか・・・っ!
続く。