新東宝のアクション映画、「東支那海の女王」、続きです。
今日の挿絵は趣向を変えてアメコミ風に描いてみました。
女海賊、李花のアジトに中国海軍の士官がやってきました。
中国海軍の士官がこんな制服だったとは初めて知りましたが、
夏の二種制服の白に詰襟というのは世界共通なんでしょうか。
中国海軍は、海賊が日本の艦船と乗員を匿っていることを聞きつけ、
引き渡すよう要求して来ますが、李花は毅然とそれをはねつけます。
「ありがとう!」
田木少佐は感動して礼を言いますが、なぜか彼女は
顔を曇らせたまま無言です。
こうなったら一刻も早く、という横山の言葉通り、
黄海賊と帝国海軍が協力し、
漢万竜とその一族への攻撃はすぐさま実施されることになりました。
黄司令率いる部隊は島の正面から、横山大尉率いる部隊は側面から
敵の根拠地に乗り込んでいく、と李花はいうのですが、彼女の船はこれ。
伊勢志摩にいったときに見た観光船を思い出すわー。
海軍と海賊で両面から島に潜入しましたが、不思議なことに
島は今のところも抜けの殻状態で誰もいません。
漢万竜(中央)
それもそのはず、漢の部隊は侵入者を一望できる優位な場所に陣取り、
敵がやってくるのを今か今かと待ち構えていたのでした。
地雷に戸惑っていると上からの攻撃を仕掛けられます。
激しい銃撃戦が始まりました。
崖を這い登ろうとすると上からハリボテ丸出しの岩を落とされたり、
すっかり黄軍は不利な戦いとなりました。
横山大尉率いる海軍陸戦隊が側面から侵入してきました。
皆「呉竹」の乗員ですが、ちゃんと陸戦服に着替えております。
敵を引きつけてから撃つという李花の作戦に、横山の部隊が
側面から援護射撃を行い、さらに銃弾飛び交う中を軍刀で斬り合い。
当然の結果として、一人残った李花の侍女その2も銃弾に斃れました。
形勢不利と見て逃げようとする頭領の漢を横山が負い、
戦っていると、横から李花が容赦無く撃ち殺してしまいました。
駆け寄った横山大尉のセリフがすごい。
「李花、復讐を遂げておめでとう」
「とうとう仇を打ちました」
・・めでたいとかいう話かな?
しかも、この数分間で漢軍は全滅してしまったらしいんですよ。
なんか色々と展開が雑駁すぎるというかね。
さあ、次は海賊が約束通り「海軍を日本に送り返す」番です。
警備艦「呉竹」、いまや「泰明丸」の艦橋から田木艦長が放送を行いました。
「全員に告ぐ、ただいまより我々は母国日本に向かって帰る」
全員じゃなくて「総員」ね。
それから母国より「祖国」の方が適当かな(おせっかい)
祖国に帰れる喜びに、互いに顔を見合わせる乗組員総員。
しかし、リアルタイムで本艦には中国海軍が迫っていました。
「中国海軍が全速力で追って来たら泰明号と遭遇するのはここです。
この線さえ通過すれば、この島にいるあたしの仲間を通じて
あなたたちを日本に送り込めます」
なんか突っ込みどころ多すぎる気がしますがもういいや。
「ここまでお送りしたらわたしたちの仕事は終わりです」
「・・・お別れしなければなりません」
横山大尉はそれを聞いて目を伏せるのでした。
ところで、日中戦争終戦が9月9日ということは、映画が始まった時点で
すでに第二種軍装の着用期間は終わり、第一種に衣替えしているはずですが、
本作では最初から最後まで夏用の第二種で押し通しております。
これはひとえに第二種のが映画的に「見栄えがいい」とか、
そちらの方が天知茂の軍服姿が一層かっこよく見えるから、とか、
世間的にこちらの方が人気が高いからとかそういう理由によるものでしょう。
そして、このストーリーに無理やり海軍を絡めて来たのも、
この一種のコスプレ効果を期待してのことだと思われます。
泰明丸は東支那海に航海を始めました。
これは機関部のどこかだと思います。
海賊と海軍で運用をしているので見張りもこのようなことに。
その艦上で李花と横山大尉はまたも二人きりになりました。
「横山大尉、このような言葉があるのをご存じ?
『会うは別れの始めということ』」
そんな言葉は日本人なら誰でも知っておる。
そして二人は、初めて会った時から互いに惹かれあっていたことを
あらためて確認するのでした。
(BGM『支那の夜』ストリングスバージョン)
「李花!」「横山!」
もしかしたら李花さん、横山大尉のファーストネームまだ知らないんですか?
二人の唇があと数センチで触れ合おうとするとき、
すんでのところで艦内に警報が鳴り響きました。
この「配慮」はプロデューサーの大倉貢が現場にいて、
社長に愛人のラブシーンをお見せするに忍びないと
現場が忖度したからだ、というのは穿ち過ぎでしょうか。
中国海軍が現れ、停船命令を発して来ていたのです。
ところが全力で逃げようとしたとたん、獅子身中の虫、
張が武器を手に艦橋に押し入って来ました。
張は停船を命じました。
泰明丸に乗り込んでいた海賊の多くが、実はうらで張と通じ、
叛逆の機会を待っていたということになります。
張はこの船を中国海軍に渡し、黄海賊も皆殺しにして、
東支那海の縄張りを自分のものにしようとしているのでした。
そして艦艇からダイヤを奪取させた成見を撃ってしまいます。
だからダイヤはクローゼットではなく金庫に入れておけとあれほど(略)
「次はお前だ!」
とさっきまでボスであったはずの李花を手にかけようとした時、
瀕死の成見が抵抗し、怯んだところを李花素早く射殺。
あとは乗員たちが大立ち回りして海賊をやっつけてしまいます。
これって李花以外の海賊は全員裏切り者だったってことでおK?
しかしそんな非常時にも中国海軍の停戦命令は続いています。
「仕方ありません!
潔く敵中へ突っ込んで華々しい最後を飾りますか!」
おいおい、横山大尉、何を言うとるんだ。
田木艦長は冷静に、
「戦争は終わったんだから艦長として無駄死には許さん」
田木艦長は総員退艦して日本に帰ることに力を尽くせと訓示します。
乗員は口々に何故戦わないのか、とか艦を見捨てることはできない、
などと叫びますが、艦長は文字通りの錦の御旗的に
陛下の御名前を出し、皆を黙らせてしまいました。
この映画が仮にも「戦争映画」を標榜するのならば、
最後に「呉竹」は中国艦隊に単身突入し、
派手な砲撃戦のうちにまず李花が斃れ、駆け寄った横山がやられ、
火の海となった艦橋に仁王立ちする田木艦長と、
その田木に総員退艦を命じられて涙を浮かべながら敬礼する乗員、
ついでにラストシーンは甲板で手を握り合って倒れている横山と李花の姿に
スポットライトがあたり、暗転して「終」が出ることでしょう。
しかしこの映画で描きたかったのはそんな戦闘シーンではなく
あくまでも女海賊のコスプレをした高倉みゆきであり、
その他もろもろは「彩り」というやつにすぎないのです。
そもそも戦闘シーンを描ききるほどの特撮技術も、
ご予算の関係で円谷英二を使えないのでは仕方ありません。
しかし流石にこれではあまりに海軍に失礼?ということなのか、
田木艦長が総員退艦後一人艦に残ると言い出します。
「艦長が陛下からお預かりした艦と運命を共にするのは最大の幸せだ」
でもこの艦、すでに海賊に売却されてませんでしたっけ。
陛下からお預かりした艦を中国海賊に売るのはオッケーだったの?
横山大尉は、
「艦長と一緒に死に花を咲かせてください」(意味不明)
乗員たちも自分も残るので戦わせてくれと口々に・・・。
すると田木艦長いきなり拳銃を出して、
「この後に及んで上官の命令に服従しない者は俺が処罰する!」
あーもう無茶苦茶ですわ。
わたし、このシーンでリアルに「おい(笑)」と声が出てしまいました。
しかもダメ押しに、
「横山。李花。日本に帰って一緒に暮らしてくれ」
うーん、それははっきり言って余計なお世話ってやつでわ。
「総員退艦!艦長に敬礼!」
前半から全く存在感のなかった田木艦長が、まるで主人公です。
そして一人舷側に立つ艦長と内火艇に乗り移った横山大尉たちの間に
最後の敬礼が交わされます。
帽振れは?帽振れはないの?
ボートの水兵たちは座ったまま敬礼。
これ海軍的にありですか?
そのときです。
いつ爆薬を仕掛けたのか全くわかりませんが、泰明丸、いや、
帝国海軍の警備艦「呉竹」は大爆発を起こして自沈しました。
( ;∀;) イイハナシカナー
「アッ・・・・!自爆だ」
沈みゆく艦に敬礼すると、横山大尉は
「田木艦長は・・日本海軍の最後を立派に飾ってくれた。
今、艦長の霊魂は我々の帰国を見守ってくれるだろう」
とさらに意味不明なことを言い、李花はそれまで胸につけていた
(冒頭写真ではくわえてますが)花を、
死者へのはなむけとして海に投じました。
彼らが内火艇で立ったまますごした夜が明けました。
日本にダイヤモンドを持ち帰るという任務の果てには、
この二人に新しい明日が待っているというわけです。
中国人の女海賊と海軍士官が結婚するというのは大変困難だと思いますが、
まあそれは横山大尉が出世を諦めればいいだけの話です。
それにこの後すぐに日本は大東亜戦争に突入ですよね?
そんなことを言っている場合ではなくなるはずです。
しかし二人は一縷の希望を抱きつつ日本への海路を進むのでした。
しかし内火艇に立ったままで東支那海から本土に帰るのは
なかなか辛いものがあるかもしれんね。
それから、この画面の水平線には、明らかに
大型船が3隻航行しているのが見えてますが、
これが中国海軍ではないことを彼らのためにも祈りたいと思います。