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訓練魚雷G7e〜シカゴ科学産業博物館 U-505展示

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シカゴの科学産業博物館に展示されているドイツの潜水艦U-505。

展示されるとき、最初に地下レベルの大きな穴を掘り、
そこにまず艦体を据えて、それからあらためて
周りをゼロから作り上げて現在の建物にしたというから驚きます。

その驚くべき最後の過程については、このシリーズで扱うつもりですが、
とにかくそういった設置を最初にした関係で、最上階から
展示されている大きなドームに入り、壁際の通路にそって
下に降りながら、潜水艦の近くまで行く作りになっています。

最初のコーナーを通り過ぎたところで下を見ると、
艦体の横に魚雷が展示されているのが見えます。



こんな風に。



透明ケースの上に木造のデッキを模したものが飾られ、
本物の魚雷が外装を剥がれた状態で横たわっています。
デッキ素材は二つのケースの中央にあるもので、
ケースの向こう側には全く別の魚雷が収められています。
手前にあるのは、

無震動電動魚雷T III (G7e )
訓練用(Practice Torpedo)

無振動電動魚雷T III(G7e)は、開戦時のドイツ最新鋭タイプでした。
型名の「e」には電気推進式という意味があります。
ちなみに蒸気式の同型モデルは「G7a」でした。

ドイツは第一次世界大戦の終結以来、秘密裏に電気魚雷を開発していました。

なぜ「秘密裡」だったかというと、敗戦国になったせいで、
ベルサイユ条約の締め付けを受け、兵器の生産が制限されていたからです。
こっそり開発されたため、戦艦「ロイヤル・オーク」の沈没後、
スカパ・フローの海底からその一部が発見されるまで、
英国はドイツが電気式魚雷の開発に成功したことを知りませんでした。
【スカパ・フロー奇襲】

第二次世界大戦開戦後まもなく、ドイツ海軍軍令部は
スカパ・フロー軍港の英本国艦隊を潜水艦で奇襲攻撃しました。
作戦の指揮を執ったのは
潜水艦部隊司令官カール・デーニッツ代将。


U47潜水艦がスカパ・フローに深夜侵入し、偵察による情報から
空母1、大型艦5、巡洋艦10に攻撃を加え、
「英本国艦隊撃滅」をする予定でしたが、当日現地には艦隊は留守。

敵を求めて反転したU47は「ロイヤル・オーク」を発見、
磁気信管付き爆雷を失敗しながら何度も発射し、
最終的には2発が艦体中央部艦底下で爆発しました。

装甲のない艦底を打ち破られた「ロイヤル・オーク」の艦内では
火薬庫の誘爆が壊滅的被害を及ぼし、海水が艦内に奔入した艦は
やがて水面から姿を消し沈没しました。

第二次世界大戦ではイギリスの戦艦・巡洋戦艦は5隻沈んでいますが、
(少なくね?)本艦がその最初の犠牲となり、また、
第二次世界大戦において潜水艦に撃沈された3隻の戦艦の一つでもあります。
最終的な艦の犠牲者数は833名にのぼりました。

この作戦の成功でデーニッツは少将に昇進し、
ナチス・ドイツのヨーゼフ・ゲッベルス宣伝大臣はこの成功を

「第一次大戦でのドイツ艦自沈の場所での報復の成功」

として、ドイツ国民の戦意高揚のために大いに利用したということです。

【電気式魚雷の利点】

この魚雷は、蒸気機関式魚雷に比べれば射程は短いものの、
無通電の利点は欠点を補って余りあるものと考えられていました。

電気式魚雷は、空気動力 (蒸気式) 魚雷とは異なり、
安価で、製造が容易で、水中に気泡の跡を残さないので、
昼間の攻撃に適していたといえます。

その優秀さでG7e魚雷はドイツの標準魚雷となりました。

このG7e 練習用魚雷は、戦闘で魚雷を適切に維持、装填、発射する方法を
U ボートの乗組員が訓練するために設計されました。

訓練用魚雷なので、発射ごとに回収され、再利用されていました。

それでは最下階に降りて近くで魚雷を見てみましょう。
【訓練弾頭 Training Warhead】
小さなライトが点灯し、赤と白にペインティングされているのは、
訓練生が水中で訓練魚雷を見つけやすくするためです。

何しろ訓練のために何度も使うわけですから、打ちっぱなしじゃなく、
必ず回収に行かなくてはいけなかったわけで。

暖冬には、機首のプロペラの回転が停止すると、
同時にチャンバー(内部)を空気で満たすエアボトルが搭載されていました。
内部に空気が入ると浮力で弾頭が浮きます。

どうなるかというと、鼻先を出して、尻尾が沈んでいる状態になるので、
機首の色だけは赤白で塗っていたというわけですね。

訓練では、発射後弾頭を回収するとまた装填し発射しました。



【バッテリーコンパートメント
 Battery Compartment】

ドイツ海軍で使用されていたほとんどの魚雷は、
長さ8フィート (2.44 m)、重さ 1,567 ポンド (710.78 kg) の
鉛蓄電池Lead-acidから電力を供給する仕組みでした。

T-IIIのユニークな特徴として、発射前に
バッテリーを予熱する必要があったということが挙げられますが
その理由は、電池が熱を持つことでより多くの電力を供給できたからです。

この効果を上げるため砲台を加熱する面倒な作業が不可欠だったそうですが、
低温下での魚雷が射程30 ノットで 1,400 ヤード (1,280.16 m)とすれば、
温度を上げることで5,470 ヤード (5001,77 m) まで伸ばせました。

この部分をどうやって加熱したかはわかりません。

ただ、魚雷そのものが気まぐれで、しょっちゅう整備する必要があり、
さらに毎回温めなくてはいけないという厄介なものだった模様。


機首部分から後ろに進んでいます。



【モーター】
左上の赤い「7」の印がついている部分がモーターです。

電気魚雷はモーターがシャフトを回転させ、
ギアボックスを駆動して、それがプロペラの動力となりました。

魚雷が水中で「死ぬ」まで、モーターは
約55分間作動することができました。



【深度維持装置】

深度維持装置は、上下の動きを感知することで深さの変化を知らせる
小さな振り子のしくみの装置でした。
写真の赤いマークのある部分の内部にこの振り子があるようです。

魚雷の推進で、水面を機体が突き破って外に出ないことは
衝突まで魚雷の存在を検出されないために重要です。
魚雷が航行する深さは、信管の種類によって異なります.
衝撃信管魚雷は水面直下を走り、対象に衝突しますが、
磁気信管魚雷は目標の下部を通過し、
船体の中心で爆発するほど深く潜って走ります。



【ジャイロスコープ】


ジャイロセンサーは、魚雷を発射する前に
意図したコースを維持するための装置で、スピンドルが魚雷に支持を与え、
ジャイロスコープを適切な角度に設定します。

発射されると、魚雷は「ザ・リーチ」と呼ばれる一定の距離を直進します。
次に、圧縮された空気が放出されてジャイロスコープを回転させます。

回転するジャイロセンサーは常に動きの変化に抵抗するため、
魚雷が設定した角度から外れると、
ジャイロセンサーが舵を切って魚雷を巡航に戻すのです。



【空気ボトル】
ボンベのようなものが4本くらいありそうです。
これらのボトルはジャイロスコープに空気を供給しました。
方向舵と深度舵は制御するために圧縮空気を必要とします。



【ギアボックス】

ひとつの回転シャフトがギアボックスに動力を供給し、
ギアボックスが一方向の回転を 2 つの反対方向に回転する
プロペラ シャフトに変換しました。

この逆回転により、単一の回転するプロペラのトルクが中和されて、
魚雷が回転したり弧を描いて移動したりすることができます。


【スクリュー】

魚雷の二つのスクリューは、水力を提供するだけでなく、
一つのスクリューのトルクを打ち消すためにありました。

逆回転するスクリューは別々のシャフトに配置されています。



【インパルスピストン】
高圧空気を破裂させると、インパルスピストンが魚雷発射管に滑り込み、
魚雷の発射ができるようになります。

ピストンの「耳」は、チューブの溝にぴったりはまるようにできています。
溝はチューブの端近くで止まり、ピストンを「オンボード」に保ちます。

その後、水圧でピストンは元の位置に戻ります。

この魚雷発射システムは、魚雷を発射した後に
気泡がチューブから排出されるのを防ぐ効果がありました。

泡が見つからない魚雷は、敵に検知されずに攻撃を行うことができます。



【トルピードブック(説明書)】
U-505に搭載された各魚雷には、魚雷ごとに
それぞれのメンテナンスログがありました。

このログは、魚雷の製造過程から始まり、寿命などを記録しています。
ログによると、この特定の魚雷は1944年3月8日、
U-505に搭載される前にU-471に搭載されていたと書かれています。
(右側ページ上から三段目の桝手書きで)
そして製造した工場はどうやらキールにあった模様。


【魚雷深度舵設定ゲージ】
Ruderausschlagmesser ルーデルアウシュラグメッサー
舵設定ゲージ

ですが、ドイツ語の用語というのはかっこいいなあ。
クーゲルシュライバー(ボールペンの意)並みに無駄にかっこいい。
それはともかく、このルーデルなんとかも、
魚雷の整備士がメインテナンス中に使用して、
深度舵が適切に機能しているかどうか確認するための道具です。





【U.Z.O. ターゲティング双眼鏡】
ターゲティングというのは、監視用とかではなく、
浮上中魚雷を発射するために使ったのでこのように称します。

U.Z.Oは

U-Boot-Ziel-Optik (U.Z.O.)
U-Boat aiming optic= U ボート照準光学

のことで、ブリッジに搭載されたU.Z.O.下の司令塔にある
魚雷データコンピューター(初期の電気機械式アナログコンピューター)
に接続されています。

これは目標に向けられると、魚雷の進路など、
コンピュータにインプットするためのデータを提供しました。

ブリッジに取り付けられていたということは、艦外にあったわけですが、
Uボートが急速潜航しなければならない場合に備えて
1,000 フィートまでの圧力に耐えるように設計されていました。

この双眼鏡は真鍮製で、重さは 11 ポンドもあります。



「Nicht anfassen」=手を出すな

と書かれています。



【魚雷ジャイロスコープ】
これがジャイロの本体です。
繰り返しますが、魚雷を意図したコースに保つためのものです。

発射する前に、スピンドルが魚雷に入ることで、
ジャイロスコープを適切な角度に設定しました。

発射後、魚雷は「リーチ」と呼ばれる一定の距離を真っ直ぐ進みました。

次に、圧縮空気が放出され、ジャイロスコープが回転しますと、
回転するジャイロスコープは常に動きの変化に抵抗するため、
魚雷が事前設定された角度から方向転換するたびに、
ジャイロスコープが舵をトリガーして魚雷をコースに戻しました。



【魚雷ストップウォッチ】

潜水艦映画で何度か見たシーンで、
発射した後、インパクトが聞こえるまでの間、
一人がこのストップウォッチを握りしめていましたっけ。

U ボートの乗組員は、ショットの成功または失敗をマークするために
このストップ ウォッチを使用していました。

予想された時間に爆発音が聞こえた場合、通常は
魚雷がそのターゲットにヒットしたことを意味していました。

発射時間が長すぎたり、爆発が早すぎたりした魚雷は、
目標を逃した可能性が高いということになり、
その結果を息を殺して待っていたのです。

続く。



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